郷の掟 ⑨
「食糧が足りてないなら、俺が持ってる肉を遣ろうか?」
「たいへん有り難いお申し出ですがじゃ、そこまでお世話になるわけには・・・」
「蛇や犬っコロなら、どうせ、また襲ってくるだろうし、今のところ、補充できるアテがあるから構わねえぞ」
アテってのは、正しく、今、話題に上がったザリガニの肉だ。
さっき仕留めたばかりだから、まだ肉は傷んでいないだろう。
おお。そうだ。
「タダで貰うのが、気が引けるって言うなら、毛皮を鞣してくんない?」
カチカチになったり、腐ったら、布団が無くなるからな。
いい加減、布団が生臭いのも改善したいし。
床に転がしていた布団団子を持ってきて、ケルレイオスの前で解く。
「こ、このキノコは・・・!!」
ケルレイオスは、犬肉よりも、蛇キノコ棒さんに食いついた。
コイツら毒キノコじゃあ無かったっぽいな。
キノコって、どことなく愛嬌が有るもんな?
「なんとなく愛着が湧いて持ってただけだから、やるよ。全部持ってけ」
「何と、お礼を言えば良いものやら・・・。孫らは、このキノコを採りに行く予定だったのですじゃ」
「これ、何度か、見せたことなかったっけ?」
ケルレイオスの脇から覗いているピュリケイナを見ると、ふるふると首を振る。
「自然に生えている姿は兄様たちが御存じで、わたしは干して干からびたものしか見たことが有りませんでしたので」
ああ、そう。
ビフォーアフターの違いか。
「鞣し代に足りないようなら、この石も付けるけど」
ついでに、増殖中の犬石もテーブルの上にゴロゴロと積み上げる。
ドラゴン石と、初代犬っコロの石だけは、ヒナへの土産として手元に残しておくけど。
「これほど大きな、大量の魔石までお持ちに・・・」
「ませき、って?」
間席? 馬石? ああ、魔石ね。
心臓の辺りに魔石が有るのが、魔獣と。
そういや、肉食の“魔獣”って、言ってたな。
「あの犬っコロども、魔物だったのか」
「触角ヘビも、魔獣ですよ」
「蛇石が有ったん? 気付かんかったなあ」
ピュリケイナちゃんも、よく知ってるねえ。
へえ。へえ。へえ。
目の前に赤いボタンが有ったら連打していたと思う。
「色々と助けて戴いた上に、貴重な魔石まで頂戴するわけには行きませぬよ」
「いや。増える一方だし」
「魔石は、魔法術式の行使に使えたりと、利用価値があるのですじゃ」
ほう。街へ出れば、買い取ってもらって換金できるのか。
「けど、集落全体が食糧不足で、モノ不足なんだろ? だったら、ヒト族の国へと買い出しに出てでも、安定を取り戻すまで食い繋ぐ必要があるだろうに」
「・・・そ、それは、そうなのですが・・・」
爺さんが眉尻を下げる。
「俺が暮らしていた世界では、"貧すれば鈍する”とか、“金持ち喧嘩せず”って言ってな。追い詰められて心に余裕が無いから、小さな女の子に罪を背負わせることに疑問を抱かないヤツらがいるんじゃねえのか?」
誰だって聖人君子じゃねえんだから、追い詰められれば短気にもなるだろうし、余裕が生まれれば冷静にもなってくれるだろうさ。
袖振り合うも多生の縁、だ。
どうにか説得して、犬石を受け取らせてやろう。
無理やりにでも余裕を作ってやってピュリケイナの咎が軽減できるなら、それで良し。
郷の掟⑨です。
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次回、交渉カード!




