郷の掟 ⑪
始める前から、「出来ねえ」やら「無理だ」やら、否定から入る奴なら山ほど見てきたが、この爺さんは違う。
孫娘の命が懸かった状況に、海のモンとも山のモンとも分からねえ奴の突拍子もない話でも、冷静さを失わずに聞く耳を持つなんて、簡単に出来ることじゃあ無えよな。
「“世論”ってのも有効だな。権力の意向と真っ向から敵対しない限り、権力側から見ての“必要悪”としてでも、国として生かしておくメリットが上回れば、簡単には、潰しには来られねえもんだよ」
「国家間の外交にも通ずる考え方ですが、それを、1国の内側に作ると?」
国や宗教の事情になんて、だらだらと関わっていられねえからな。
明確に殺しに来ている敵なら迎え撃つしかねえが、そうじゃないなら、従わず、敵対もしない。
その何たら教会って連中だって、周りを巻き込めば戦わずに済む状況を作る出せることも有るはずだ。
要するに、どこからも簡単に手出しできない状況を作り出せばいいんだ。
「権力側にバレて、向こうが身柄を押さえに来る前に、積極的に周囲を巻き込んで、先手を打って“対抗力”を作り上げる。そういう遣り方もあるってことさ」
「対抗力、ですか・・・」
俺は、可及的速やかに、地球へ帰りたいからな。
こちらが国家権力を便利に使いたい場合でも、交渉カードとなり得る独自の対抗力は必要になるだろう。
「ふふふ。貴方様は突拍子も無いことを仰りますなあ」
思いつくままに、持論をぶっていると、ケルレイオスが面白そうに笑った。
ほらな。心に余裕が出れば笑うことだって出来るってもんよ。
「古くには、権力との敵対の道を選んで新しい国を作った勇者や、権力に取り入って国を簒奪した勇者も居られたそうですがのう。かつて儂がお会いした、どの勇者とも、ずいぶんと違われる」
戦国時代のお侍さんや、軍国主義時代の軍人さんと、較べられてもなあ。
現代日本のサラリーマンだし。
「どれ。儂らも何か、お役に立てないか、皆と相談してみますかのう」
「いやいや。ここの郷も、大変なんだろ?」
「ケルトレイクスとピュリケイナの件もありますでのう。受けたご恩を、いくらかでもお返しせねば」
好々爺、然、と笑うが、目に力がある。
何か、企んでやがるな?
危険な気配は感じないから、まあ良いけど。
毛皮の鞣しは、請け負って貰えることになった。
鞣しの作業期間中はケルレイオスの家に厄介になるので、郷に居る間は処分保留中のピュリケイナが案内に付くように、と、命じていた。
俺との話が一段落ついて、爺さんは家を出て行った。
郷の中の話し合いは、ケルレイオスに任せるしかないしな。
しばらく厄介になるならザリガニ肉を腐らせることになるから、勿体ないので、郷に丸ごと進呈することにした。
塩水湖の場所は分かってるらしいし、覆面野郎どもに取りに行かせるんだろう。
一時でも食料事情が改善すれば、ピュリケイナに対する風当たりもマシになるかも知れねえ。
少しでもピュリケイナが有利になるように、俺は、俺にできることをするしかない。
幸いにも俺の行動に制限は付かず、自由に出歩いて良いらしいしな。
じっと待っているのもヒマだから、郷の近くに居座って襲撃してくる魔獣とかいう奴でも、狩りに行くかなあ。
郷の存亡を脅かす外敵を俺の手で排除できれば、ここに俺を連れてきたピュリケイナの手柄になるかも知れねえしな。
この子を見ていると、どうにもヒナと被って見えて、守ってやりたくなっちまう。
それだけ強い獣なら、不思議ちゃんパワーも強力で俺の自己強化の糧にもなるだろうしな。
何せ、俺がブン殴って従わせなきゃならねえ奴は、もっと強力なんだ。
俺は黒トカゲよりも強くなる必要が有る。
席を立って、グググと伸びを一つ。
不思議そうに俺の顔を見上げてるピュリケイナの頭をポンポンして、爺さんが出て行った扉から俺も戸外へと出る。
俺の後を追い掛けてピュリケイナも家から出て来た。
高さ20メートル近くまでの枝葉が払われているお陰で木々の隙間から覘いている青空を見上げる。
俺も腹ぁ決めねえとな。
トラブル処理の基本の基本だろうよ。
臭いニオイは力尽くで元から絶つもんだ。
揉め事を片付けるのは、早ければ早いほうが良い。
郷の掟⑪です。
動き出すオジサン!
このお話で本章は最終話です!
次話より、新章、第7章が始まります!
次回、ケイナ!




