郷の掟 ⑤
「おいおい。そりゃあ、おかしいだろ」
俺の言い分を爺さんに言い募る。
制止しようとしたピュリケイナを無視して、結界? を、踏み越えたのは、俺だ。
誰何したのに出てこなかった弓矢の連中にだって、落ち度がある、と思う。
連中と邂逅する直前に俺が感じた違和感は、やはり、人を惑わして郷へ近付けないための結界で、力が強すぎる相手だと、精霊の力を借りた魔法でも騙せないことがあるらしい。
俺の危険物センサーを騙せなかった、結界魔法とやらを張ったヤツが悪いだろ。
そもそも、大きな負傷を負って意識が戻らない兄の身を案じる小さな女の子に、何の罪がある?
並べ立ててみたが、咎める連中を説得するには、弱いらしい。
ギリッと奥歯を噛む。
テメエの目付きが険しくなって、人相が悪くなるのを自覚する。
頭に血が上るのを抑えきれねえ。
「ちっとばかし、了見が狭すぎやしねえか?」
爺さんの顔が辛そうに歪む。
爺さんだって、そんな罰を望んでいないことが、ひしひしと伝わっている。
黙らせるべきは爺さんじゃねえ、ってことだ。
気に入らねえ。
どうしても気に入らねえ。
こんなもん、認められるか。
「いい歳した大人たちが生き残るために、自分たちの未来を託すべき子供を殺すだと? 本末転倒じゃねえか」
子供を守るのが、大人の務めだろうに。
その通りです、と、ケルレイオス爺さんは瞑目する。
「だいたい、犬っコロの群れが、わんさか出る森の中へ、なんだって、こんな小さな子を連れてってんだよ」
「事情が、ありましてな・・・」
数日前に、この郷が、魔獣? 魔物? の襲撃を受けて、薬の原料となるキノコを採りに行く必要が有ったんだと。怪我人が多すぎて薬の備蓄が無くなってしまったらしい。
郷を襲った魔物の群れが、そのまま近くに居着いてしまって、狩りの対象となる草食動物や小動物が減り、その魔物の群れの他にも危険な肉食の魔物だけが跋扈して、食糧の確保に、狩りや採集へ出ることすら儘ならないらしい。
獣の姿の魔物が魔獣で、獣以外の姿をしているものを魔物と呼ぶらしいが、どうでもいいわ、そんなもん。
“森オオカミ”―――、という、犬っコロの群れが、その危険な肉食獣の典型例なんだと。
「郷の防衛に、戦える大人たちの人手を割くしかなく、危険を承知で若者たちに行かせるしか無かったのです」
苦渋の決断では、あったようだ。
魔法が得意なピュリケイナを含めて、次期、郷の長として名前が挙がっているケルトレイクスを中心とした若者5人を送り出して、ピュリケイナの話では、俺が乱入するまでに、犬っコロの襲撃で他の3人が死んだらしい。
今は、死者の捜索と遺品の回収に、大人たち数人を派遣した、と。
郷のために危険を冒して、兄のために掟を破ったとしても、掟は掟。
そう言い張る連中が、一定数いるらしい。
何だ、その、頭の硬いバカ野郎どもは。
行き詰まってるくせに原則論を振り回してどうすんだ。
「郷の者たちの言い分も正しくはあるのです。儂が郷の長とは言っても、もはや、歳を食っただけの取り纏め役にしか過ぎませんでのう。掟を曲げることは、郷の結束を乱し、種族の存亡に関わるのです」
「それでもだ。種族の存亡って言うのなら、なおのこと、子供を大切にしなくてどうするよ」
「・・・仰る通りです」
しかし。と、ケルレイオスが、テーブルに両肘をついて、頭を抱える。
テーブルを挟んだ俺にまで、爺さんの疲れと深い苦悩が伝わってくる。
ああ、クソッ!
郷の掟⑤です。
ピュリケイナちゃん、ピンチ!?
次回、怖れ!




