郷の掟 ⑥
「何だって、そこまで頑なに?」
「儂らエルフ族は強い魔法術式や魔法道具を使う故に、ヒト族の国々に危険だと敵視されて迫害を受けることが多く、見目が整った者も多いので奴隷として狙われるのです」
訥々と爺さんが聞かせてくれる。
コイツらエルフ族が、こんな森の奥に引っ込んで隠棲している理由。
人間の国の多くで権勢を振るう“神教会”とかいう頭がアレな連中の教義で、エルフや獣人などの“亜人種族”は、魔物に近い“穢れた動物”だと襲われるらしい。
こっちの世界には獣人ってのも居るんだな。
俺―――、というか、地球人みたいなのは「ヒト族」と呼ぶらしい。
郷の存在をヒト族に知られれば、もはや、エルフ族は滅び兼ねないところまで数を減らしている。
「宗教かよ」
面倒くせえ。
宗教問題は地球でも、数千万人、数億人レベルで人の命を奪ってきた大問題だ。
現代日本でも人種問題は有ったし、古今東西、地球全体で見れば人種や宗教の違いを発端とした戦争の歴史こそが人類の歴史と言って良いぐらいに、争い事は絶えなかった。
宗教ってのは“未知なるものに対する怖れ”から生まれるもんだ。
死への怖れ。
災害への怖れ。
脅威への怖れ。
そんなものに理由を付けて安心を得るために生まれるものが宗教だからな。
特に、「怖れ」から始まった迫害は、一部の指導者ではなく一般民衆が主体となるだけに根が深く、歴史上、数千年間にもわたって泥沼のように繰り返される争いで、夥しい血が流される原因になっていた。
宗教や他人種に寛容な日本人から見れば、一神教なんて、どれも同じものにしか見えないし、仏教系だって似たようなもんだった。
日本人って民族は地球上でも本当に特殊な民族で、「社会的ルールを守る限りは」人種の壁も無いに等しいんだけどな。
基本的に、いつの時代も、マジョリティによってマイノリティは迫害され、駆逐される。
生きている環境が過酷になればなるほど、その傾向は強くなる。
かと言って、人間が特別に邪悪というわけじゃあ無い。
人間という生物に限ったことではなく、これは生物の本能と言っても良い。
食料も水も、奪い合わなければ生きて行けない環境の方が多いからだ。
知能を持たない生物は共食いするのも普通だ。
知能を持つ生物は他の種類の生物を補食対象とするのが普通だ。
たまに、「草食動物は平和的」みたいな屁理屈を平然というバカが居るが、生存競争の中で、その辺の草なら大量に生えてて飢えないから草食になっただけの生物が、他の生物を食わないのは「食えなくなった」だけで、生物ってのは「食えるものは何だって食う」のが普通だ。
生存戦略に失敗して生存競争に負ければ、出生サイクルを下回るまで個体数を減らした生物は自然と絶滅するもんだ。
人間だって進化の過程で何種類もの「種族」が絶滅してきたんだ。
類人猿だって、何たら原人だって、そうやって淘汰されてきた。
でもまあ、意図を持って特定の生物を滅ぼそうとする生物は人間ぐらいだろうけどな。
それだって、そこまでの知能を持った生物が人間に他に居なかったってだけのことだ。
ネズミだって、黒光りしたカサカサと動くアレだって、人間と同等な知能が有れば人間を滅ぼそうとするかも知れねえ。
そんな脅威にエルフ族は晒されてるってことだな。
それ故の、自分たちを守ろうとするための「掟」ってヤツか。
特大の溜息が出る。
根拠の無い、自分たちに都合の良い主張を元にした人種問題を宗教が振り回すのは、マジで厄介だな。
最初に俺が疑われた“勇者”ってのを、他の世界から拉致しているのも、この神教会って連中が中心らしい。
地雷臭しか臭って来ねえ奴等だな。
ていうか、ここが地球じゃない異世界だと確定しちまった。
いや。とっくに分かってたけどな。
「儂が、まだ若かった500年以上の昔には、儂らエルフ族は、小さな国を作る程度の人数がおったのです」
「エルフってのは、ずいぶんと長生きなんだな」
「儂らが長く生きるのは、体内に“魔素”を多く持つ故、と、されておりますな。今のヒト族が、何をどこまで覚えているのか怪しいものですが」
まな? マナ? 真名? 魔素ね、了解。
郷の掟⑥です。
Gが・・・!?(ガクブル
次回、想う心!




