郷の掟 ③
お茶を一口飲んでテーブルに置いた爺さんが、俺の目を見る。
白くなった眉の下から真っ直ぐに見つめてくる爺さんの目は、少女と同じ色の落ち着いた碧眼で、少女と爺さんの血の繋がりを感じさせた。
「先ほどの魔法は、儂らの種族に伝わる精霊魔法術式でしてな」
「精霊? 魔方陣って言ってなかったか?」
俺の聞き違いじゃ無いよな?
「いいえ。そちらではなく、結界が有りましたでしょう」
「結界・・・? ああ、あの方向感覚がおかしくなったアレのことか」
さっきのアレは結界というアレの実物だったらしい。
「やはり、分かりやすくご説明差し上げた方が良さそうですな」
「そうしてくれると助かる」
ふうん。「やはり」てことは、爺さんは俺の置かれた状況に思い当たる節があるわけだ。
「先ず、儂らのことを、何者であるかご存じでしょうかな?」
「違っていたら申し訳ないんだが、エルフ、じゃないのか?」
「如何にも。よくご存じですな。あなたは儂の知るニホンの民とは、少し元となる情報が異なるようです」
真っ直ぐに俺の目を見て爺さんが頷く。
理由は分からねえが、覚悟を決めた目だ。
この手の目をしたヤツの言葉は信じられる。
「日本人と会ったことが有るのか?」
「随分と昔のことになりますが、お二人ほど。親しくさせていただいた方がおりました」
「日本語もその人たちに?」
「はい。ああ、今は魔法術式の話をしていたのでしたな」
爺さんが目を細めて苦笑しつつ顎ヒゲをしごく。
爺さんの旧知だという日本人の話も聞きたいが、そっちは古い情報らしいから、頭の中で天秤に掛けて、今、俺が生き抜くために知っておくべきであろう”魔法”というものの話を聞いておくことにする。
爺さんの話では、こうだ。
こっちの世界には、”精霊”という不思議存在が実在していて、人間の中でも精霊に近く、自然と共生して精霊に好まれる、彼ら”エルフ族”にしか使えない系統の魔法なのだそうだ。
気になる言い方だな。
人間に種類が有るのか?
いやまあ。白人や黒人、黄色人種も、「人間の種類」では有るのか。
黒人は手足が長い、とか、日本人は背が小さい、とか、民族の特徴って感じだと思えば良いな。
そして何より、こっちの世界には”魔素"という不思議エネルギーが存在するらしい。
いわゆる、暗黒物質、あるいはダークエネルギーってヤツだ。
「精霊に魔素ねえ」
「チキュウ世界に魔素は無いそうですな」
爺さんの問う視線に頷いて返す。
地球人類が観測方法を見つけていないだけで、あっちにも存在するのかも知れねえけどな。
「精霊ってのは、日本で言えば八百万の神って感じか」
「そのように聞いております」
爺さんは懐かしむように頷く。
未確認生物ってヤツだが、こっちの世界には実在するっぽいな?
なんか情報に時代的なギャップを感じるなあ。
今の日本だと八百万の神なんてものは、”言い伝えだけで実在しない”空想上のものだと考えられているわけだからな。
爺さんに日本のことを教えた人物は、実在を否定する考えは持っていなかったように聞こえる。
つまり、爺さんが「随分と昔」と言ったその言葉通り、相当に昔の日本人から聞いた話なんじゃねえかな。
精霊に関してもっと厳密に言えば、エルフ族でなければ使えない魔法というわけでは無いそうだが、自然との親和性や魔素の量や何やかんやで、精霊に好まれる資質を持つ者がエルフ族以外には滅多に生まれないんだと。
てことは、昔は少ないながらも資質を持った者がエルフ族以外にも居たわけか。
感心しながら爺さんの話を聞いていると、とんでもない事態が明らかになった。
郷の掟③です。
情報が多い!
次回、キンキ!?




