郷の掟 ②
「お邪魔します」
「むさ苦しい所ですが、どうぞ、お掛けくだされ」
爺さんの家らしき、少しだけ大きめの家へと案内され、椅子を勧められた。
「ありがとう」
椅子と言っても、切り出した丸太に背もたれっぽい木切れを突き刺しただけのものだ。
質素なテーブルは、太い丸太を真っ二つにして、申し訳程度に足を付けたようなもの。
趣があるっちゃあ有るんだよな。
椅子に腰を下ろして待つ間、ざっとテーブルの年輪の数を数えてみると、樹齢200年を軽く超える大木だったようだ。
このテーブル一つでも、トン単位の重量が有るように見えるが、無垢板を張った床を踏んだ音と感触から察するに、土の地面の上に板を張っただけなのだろうと想像が付く。
床の無垢板も相当な年季が入っていて、よく踏んで歩くのだろう部分だけが摩耗して凹んでいる。
室内には、いくつかのチェストと食器棚が置かれているが、建物の外壁の板壁と同様に、植物をイメージしているらしい精緻な彫刻が施されているものの、粗い、というか、彫刻技術と製材技術が、やはり、ちぐはぐに見える。
人工の光っぽいものに目が引きつけられて、天井を見上げる。
天井の梁から吊されたランプっぽい証明が灯されているが、お誕生日会のロウソク消しぐらいの明かりなので、落ち着いた室内、というよりも、辛気くさい雰囲気が拭えねえな。
そこで気が付く。
この家、釘を使ってない?
梁と柱の結合部に荒縄のようなものが見えている。
天井の隅のほうは証明の光が届いていないので詳細に見えないが、中から見ても家の構造自体は単純な掘っ立て小屋レベルで、板壁の隙間から細く戸外の光が見えているし、木の根が補強してくれていなければ、すぐにでも倒壊するんじゃないだろうか。
尻の下にある椅子の座面と、テーブルの天板の表面を、改めて指先で触ってみる。
滑らかではあるが、ぽこぽこと表面に凹凸がある。
これ、もしかして、丸太から鋸で“切り出し”てるんじゃなく、板切れ1枚もノミか彫刻刀みたいな製材道具で“削り出し”てる?
不躾だが、改めて室内を見回して、家や家具を見てみる。
広めのワンルームっぽい造りでドアや仕切りは見当たらない。
建材に使う板木材ってのは、縦横を鋸で切り出した上で鉋を掛けたりサンドペーパーを掛けたりして表面を滑らかに整えるもので、ちまちまと小刀で削り出すものじゃない。
そんなことをしていたら、家一軒を建てるのに途方も無い時間が掛かる気がするんだが。
加工“技術”が無いのではなく、満足な加工“道具”が無いのかもな。
部屋の奥の簡素なベッド、というか、寝台に横たわる怪我人の容態を確かめて、爺さんは安堵の息を吐いていた。
爺さんの目から見て、命の危険は無いと判断したようだ。
怪我人は、女の子に導かれるまま爺さんの家の固そうな木製ベッドに寝かせたので、女の子ともども、爺さんの同居人なのかもしれない。
「どうぞ」
しばらく奥の方へ引っ込んでいた女の子が、湯気の上がるカップをトレイに載せて運んできた。
お盆じゃなくて、取っ手の付いた木製のトレイ。
カップの方はマグカップほどの大きさで片耳の取っ手が付いている。
そして、食器類も木から削り出したものらしい。
有り難く一口飲んでホッと息を吐く。
ハーブティのようなものを出された俺は、お茶という文明の産物に激しく感動を覚えながら、しみじみと声を上げた。
「茶が美味え・・・」
犬っコロとかの血とは違う意味で、臓腑に沁みる。
少し青っぽい色だが、ほのかな甘味があって、爽やかな香りのお茶だ。
爺さんの家に怪我人を寝かせてから、家の傍の井戸で手と顔を洗わせてもらってスッキリしたし、1週間以上ぶりに、俺は文明人に戻ったことを実感する。
ホッコリした俺の様子を見て爺さんが目を細め、女の子も小さく口元を緩めた。
「ありがとな」
女の子の頭を、ぽんぽん、する。
見た目、年の頃はヒナと同じぐらい? 違っても1学年か2学年ほど幼いぐらいだな。
椅子に座っている俺と、目線の高さが変わらない。
こうして見ると、なぜ俺は女の子だと気付かなかったのか。
とても整った顔立ちに、知的な光を宿す碧眼が印象的な少女だった。
郷の掟②です。
気になるチグハグ感!
次回、状況把握!




