世界の違い ㊺
「ほう。魔素の発光現象が発生すると同時にバイコーンが分裂を、か」
採掘場の食堂で俺たちと一緒に“現場メシ”を食った爺さんは、戸外に出したテーブルでマグカップのハーブティーをテーブル上に置いた。
歴史書に名前が残る元国王に現場メシを食わせるのはどうかと思ったんだが、爺さんたちはTPOに理解が有って良かったぜ。
ここの食堂で振る舞われる領軍の食事はシンプルな味付けながら、美味いしボリューム抜群で腹に貯まる。
領主一族が毎日のように訪れるからハーブティーなんてものも常備してるしな。
爺さんたちも贅沢をするような生活は送っていなかったし、現領主の金銀娘も兵士たちと同じメシを食っていることに驚いていたほどだった。
驚いたことに、郷の連中も嬢ちゃんたちには猜疑心や反発心を見せねえんだな。
レイクスの報告に深く興味を示した爺さんが唸り、銀髪嬢ちゃんも一緒になって頷く。
「・・・ええ。本当に驚きました」
「“魔獣は魔素から生まれる”という文献の記述を眉唾だと考えていたけど、あれは本当にそうとしか言いようがない光景だったよ」
興奮気味に話すレイクスの様子に爺さんたちが頷く。
「レイクスの“目”でそう見えたのなら間違いなかろうな」
「無数に現れた光の粒は魔素が集まったもので間違いないよ。なぜ光るのかは分からないけど、漂っている魔素が濃くなったところから光の粒が生まれていた。バイコーンが増えたときも同じだね」
興が乗ったオタクはよく喋るもんだが、レイクスも例外じゃなかったようだ。
レイクスの説明を聴きつつ何やら考えている様子だった嬢ちゃんが首を傾げる。
「・・・濃くなった魔力に転写された魔獣の情報が実体を持つ、とか? 幽霊もそうなんですよね?」
「魔素への転写ですか。確かに、そう言われていますな」
よく出来た子供に目を細めるようにした爺さんが頷き返す。
ほーん? 嬢ちゃんは鹿の分裂を幽霊が生まれるのと同じ現象だと予想したのか。
レイクスは魔素のことを“万物の素”と言っていたし、その理屈が正しいのなら、魔素から血肉が作り出されてもおかしくはないのか?
“万物の素”って考え方は別に珍しいものじゃなかったはずだ。
地球でも“エーテル”だか“マナ”だか、似たような概念は有ったからな。
現代でも“ダークマター”だの“ダークエネルギー”だのと、未解明理論の隙間を埋める万能物質の存在は大真面目に議論されていたしな。
爺さんの返事に銀髪嬢ちゃんが身を乗り出す。
「・・・通商路の迷宮では、どうだったのですか?」
「魔獣や魔物が生まれ出る瞬間を目撃した者は居なかったのですよ」
今度は爺さんの返事に金髪嬢ちゃんが首を傾げる。
「えっ? でも、文献に書き残した学者がいたのよね?」
「・・・そうそう。文献に残っているのですから、誰かが目撃したんじゃ?」
銀髪嬢ちゃんも金髪嬢ちゃんに同意する。
俺もそう思ってたぞ。
ケイナと同年代の子供たちの疑問に爺さんが苦笑を返す。
「そうなのですが、迷宮の中に小屋を建てて住み込むような変わり者だったようでしてな。検証できた者が1人もいないことから、公には認められていない俗説に留められたのです」
「・・・検証できなかった?」
ははぁ。変わり者で信用がなくて、真偽を検証しに行った連中は確認できなかったから参考記録に留められたってことか。
感慨深そうにしつつも爺さんは新たな可能性を提示する。
「今思えば、人間が居る目の前では生まれないものなのかも知れませんな」
「あ~。有るかも。“嘆きの祠”でも、離れた場所から移動してきた個体ばかりだったよ。だよね?」
爺さんの仮説にレイクスが視線を宙に飛ばして記憶を掘り起こす。
レイクスから同意を求められた俺も記憶を探ってみれば、あれだけ襲ってきた幽霊も視界に入る場所では湧き出さなかったと気付く。
「そういや、そうだったな。突然、湧き出すように幽霊の反応が現れていたんだが、全部、壁の向こう側だったぞ」
「・・・へぇ。そういうものなんだ?」
俺たちの体験談にケイナもフンフンと頷き、俺に視線を向けてきた嬢ちゃんも一応の納得を見せる。
「一応の」だ。
完全に納得がいく答えではなかったようで、嬢ちゃんが向けてきた視線の意味を考えてみる。
もしかすると、アレか?
“危険物センサー”で幽霊の居場所が分かる俺なら、幽霊が湧く瞬間を見ることが出来たんじゃねえのか? って言いてえのか。
“危険物センサー”に似た索敵手段を持つこの嬢ちゃんは、“危険物センサー”がどういうものかを理解してるっぽいしな。
ところが、だ。
「俺の場合は、“危険なモノ”にならねえと分かんねえから、幽霊が生まれた瞬間なのか、元々そこに居た奴なのか分かんねえんだがな」
「・・・そっか。納得した」
俺の説明に嬢ちゃんが今度こそ納得顔で頷く。
ヨシヨシ。分かってくれたか。
「ヤバそう」って勘が働くだけで超能力じゃねえんだし、“危険物センサー”は言うほど便利じゃねえのよ。
俺たちのやり取りを黙って聞いていた金髪嬢ちゃんが、銀髪嬢ちゃんの顔を見ながら首を傾げる。
「フィオレなら分かるんじゃないの?」
「・・・私・・・? ああ。魔力が濃い場所で幽霊が発生するのなら、確かに私の方が分かるのかも」
金髪嬢ちゃんの指摘に銀髪嬢ちゃんが思案顔になる。
確かにな。幽霊が魔素から生まれ出るものなら、魔素そのものを感じ取れる嬢ちゃんは幽霊が湧く場所を事前に察知できるかも知れねえな。
そいつは、さらなる早期発見が可能になるってことだ。
俺1人で警告を発するのは休む間もなくて忙しいんだよ。
何割かでも警告作業を肩代わりしてくれりゃあ俺としては非常に助かる。
「ヨシ。次に幽霊のダンジョンへ行くときには嬢ちゃんを連れて行こう」
「・・・私は構わないし、むしろ行きたいけど、お母様たちの許可が出れば、だね」
俺の“巻き込む宣言”に銀髪嬢ちゃんが口元を笑わせる。
「そのときは、わたしも行くわ!」
「では、そのときには誘いますね」
金髪嬢ちゃんも乗っかってきて、ケイナが2人の友だちの同行を嬉しそうに受け入れる。
ケイナが楽しみにしちまったのなら、何とかしてやらねえとな。
ダチと一緒に遊んだ記憶ってのは、大人になっても覚えてるもんだ。
ケイナの思い出作りのためにも、フレイアさんやハロルドさんの説得方法を考えておくか。
談笑しているうちに、伝令のために町との間を往復したメイドが戻ってきた。
さあ、いよいよ最終局面だな。
爺さんと郷の連中を乗せた幌馬車を伴い、俺たちは町へと戻った。
世界の違い㊺です。
和やかな空気!
このお話で本章は最終話となります!
次話より身障、第21章が始まります!
次回、盟友!?




