世界の違い ㊶
「ともあれ、街へ入れるように手配しておかねばなるまい。王の到着はいつ頃だ?」
「この町までの道程は私たちが目印を付けてきましたから、何ごとも無ければ、この数日中には」
あの爺さん、フットワークが軽いな。
状況を知らせる連絡が届いてすぐに郷から出てくるつもりかよ。
それだけ郷の状況が切羽詰まってるってことか?
いや。急場の食料やら何やらは、“土産”としてケイナに持ち帰らせたしな。
エルフ族が肉体的に強くなることで、魔獣を狩れるようになったことから食料事情も多少は改善したことは、レイクスから聞いたしよ。
だったら爺さんが急ぐ理由はどこに有る?
ちゃんとコミュニケーションを取って最低限の信用を得られている手応えは有る。
だが、根本的な部分で交流した時間の短さは如何ともし難いのが事実だ。
爺さんが何をどう考えているのかまでは俺も把握しているとは言い難い。
まあ、爺さんには爺さんの、何か考えが有るんだろう。
「もしものことが有ってはいかん。本来なら迎えを出したいところだが」
サーレーンの答えを聞いたフレイアさんが、表情を硬くしてレイクスへと目を向ける。
フレイアさんの視線を受け止めたレイクスは、先回りしようとするフレイアさんを宥めるようにゆっくりと首を振った。
「有り難いけど、それはまだ避けた方が良いね」
「集落へ近付けば他のエルフ族を刺激するか・・・」
レイクスの答えにフレイアさんが難しく眉根を寄せる。
レイクスの判断は真っ当なものだ。
その「迎え」ってのは武装した騎士や兵士のことだろう?
ヒト族に国を滅ぼされたエルフ族にとって、その刺激は強すぎるものだろうことは容易に想像が付く。
憂慮を払拭し切れていない様子のフレイアさんにレイクスが補足を加える。
「当然だけど、5人や10人の護衛は付くよ。テツのお陰で僕らの戦士も多少は強くなったし、心配は要らない」
「そうか」
何なら俺が迎えに行ったも構わねえんだしな。
必要ならレイクスから言ってくるだろう。
しかし、爺さんが通ってくるのは魔獣が彷徨く“魔の森”だ。
心配ないと言われたからといって、そう簡単に憂いは払えないようで、思案顔のフレイアさんがサーレーンに視線を向け直す。
「レティアの町へ着く前に連絡を取ることは可能なのか?」
「と、仰いますと?」
問われたサーレーンだけでなく、レイクスたちの視線もフレイアさんに集まる。
到着前に繋ぎを取る?
それは“森から出る前に”ってことか?
「城門の検問所でレイクス殿なり私なりの名を出せば領主館へ伝令は来るが、レティアの町へ直接いらっしゃるよりは採掘場の方が人目に付かん。採掘場で領軍の保護下に入れば、すんなり町に入れる」
「なるほど。確かに」
フレイアさんの懸念は尤もなことだった。
レティアの町の城門を守る兵士たちはしっかりと警備の仕事をしている。
彼らの仕事は怪しい人間の侵入を防ぐことで、町へ入ろうとする奴に声を掛けて町へ入ろうとする目的を問うて、先ず、相手の顔と言葉を確認する。
クァタルたちも最初に町を訪れたときに外套のフードを外させられたと言っていた。
この国の中でも景気が良く、話題性でも注目を集めているこの町には、国内に限らず他国からも人が集まってきている。
スパイが入り込むには持ってこいの状況が続いていて、それは領主代行を務めるハロルドさんたちも強く警戒している部分だ。
これだけ統率が取れた組織だと、上が警戒しているものは下も警戒する。
クァタルたち5人は全員が亜人種族で、言葉にも外国の訛りが有るから身の上はすぐに察して貰えたらしい。
爺さんたちがこの町へ到着すればクァタルたちと同じように察して貰えるだろうが、他所からのスパイが入り込んでいる可能性が有る状況だからこそ、衆人環視の中でエルフ族の生存を明かすこと自体がとんでもなくデケえリスクを伴っちまう。
何がしたいのかは理解で来ちまうな。
フレイアさんはエルフ族の存在が露呈する前に、城門での検問で起こり得るリスクそのものを回避させようとしているわけだ。
数秒間ほど思案顔を見せたレイクスが深く頷く。
「それは良いかもね」
「ここ数日中のことなら、事情を知る者の“誰か”は採掘場へ行くだろうしな」
「事情を知る・・・? フィオレ嬢のことかな?」
フレイアさんが移した視線に釣られてレイクスの視線も同じ方向へ向く。
一身に視線を集めても動じず頷き返したのは銀髪頭の嬢ちゃんだ。
「・・・行きますよ。エライワーの畑を作りますから」
「そう言ってたね。検問所を通らず町へ侵入するわけにも行かないだろうし、町へ入る前に合流した方が無難だろう。採掘場なら泊まり込んで到着を待つことも出来るよね?」
レイクスから返ってきた確認に、合意点を見付けられたフレイアさんがホッとした表情で頷く。
実際に行ってみて理解できたが、あの採掘場はウォーレス領内でも最重要レベルの拠点として扱われていて、人の出入りも厳格に管理されている準軍事拠点だ。
のほほんとした嬢ちゃんたちがユルい空気を作っているが、出入りしている猟師でさえ歴とした軍属で、国と領地に忠誠を誓っている連中だからな。
食堂でメシを作っているオバチャンでさえ従軍歴の有るバリバリの軍属だぞ。
嬢ちゃんが「鍛えている」と言っている難民の子供たちも、嬢ちゃんを神のごとく信奉していて異分子に対する監視の目は厳しい。
警戒・警備レベルは「ガチガチ」と言って良い。
スパイが採掘場の様子を窺おうにも、周囲は魔獣がいつ出るか分からねえ“魔の森”だしな。
あの森が普通の森と違うのは、樹上にも安全がないことだ。
木に登ることで地上を彷徨く魔獣は躱せても、木の上にも触覚ヘビという獰猛な魔獣が潜んでいて、どこにも安全圏がねえんだ。
何より、身を隠す手段を持つエルフ族でさえ見つけ出してみせる規格外の奴が、日常的に出入りしている。
世界の違い㊶です。
第三者視点で見た採掘場の実態!
次回、出迎え態勢!?
※ お盆明けも遅刻です!
サーセン!




