世界の違い ㊴
「分かっているよ。ただ、森で暮らす危険性を差し置いても、ウォーレス領にはお祖父様が魅力を感じられる部分が多いと思うんだ」
「魅力ですか」
サーレーンが訝しむ様子で眉根を寄せて首を傾げた。
レイクスは爺さんたちが森を出ると確信しているわけか?
俺もレイクスの予測に首を傾げたくなる。
あの爺さんは責任感が強いタイプだと思うんだが、郷を放っぽり出して出てくるか?
俺たちの表情を無視してレイクスが指折り数え始める。
「先ず、森との―――、迷宮との上手い付き合い方を構築している。次に、豊富な食料と資源を持つことで僕らを受け入れられる余地が有ること。さらには、亜人種族にも隔意がなく軋轢が起きる危険性が低いこと」
「それは・・・確かに」
レイクスの指摘にサーレーンが口籠もる。
まあ確かに?
このウォーレス領はエルフ族が社会復帰を目指すのに最適な条件が揃っているだろうことは、俺も認めるところだ。
国の事情にも対抗できる力を持っているし、口裏合わせが可能なところも高評価だしな。
しかし、だからといって、あの爺さんがそれだけで動くか?
軽はずみな行動を取ろうとしているように見えることに違和感が拭えねえんだよなぁ。
3本の指を折っていたレイクスが4本目の指を折る。
「何より、この地には古き盟友の血と魂が生きている」
「盟友の血と魂か・・・」
黙って聞いていたフレイアさんが頷いて理解を示している。
なるほどなぁ。
その点においては感傷的なノスタルジーじゃなく、ウォーレス家ってのは古典的なヤクザみてえな古くささを感じさせるところが有るもんな。
それを言ったらエルフ族もか。
「多くを失ったお祖父様にとっては、とても大切なものなんじゃないかな」
1度結んだ縁には義理を通そうって心根が感じられて、信じられると思っちまうんだよな。
人と人の繋がりってのは損得勘定だけじゃねえ。
人の命が掛かった繋がりともなれば、余計にな。
相手が困っているときにテメエが命を賭けられねえのに、テメエが困ったときに相手が命懸けで助けてくれるわきゃあねえんだ。
そいつは日本人でも平和ボケして失いつつ有るもんだ。
平和なことは良いことだぜ?
そこに異論はねえんだが、人として大事なもんまで古くせえとゴミ箱へ捨てちまうのは、どうかと思うんだがなぁ。
俺は学者じゃねえからよく分かんねえが、人の繋がりが薄くなっちまったから、“要らねえもん”になっちまったのかもな。
「迷宮との付き合い方というのは?」
銀髪嬢ちゃんというイレギュラーとも強固な繋がりを築いているフレイアさんがレイクスに向けて首を傾げる。
俺も気になる言い方だと思ったが、フレイアさんの後ろで嬢ちゃんもウンウンと頷いていてやがる。
「黒龍山脈の旧通商路の近くには迷宮が有ったそうだよ。その迷宮で獲れた魔石を利用することで発展したのが旧エルヴィン王国でね」
「ほう。王は迷宮に対する知見をお持ちなのだな」
亡国となったエルフ族の国がダンジョンを経済的に利用していたと聞いて、フレイアさんが興味を示す。
ん~・・・。「上手い付き合い方」ってのは魔獣を資源としているって意味か?
魔石ってのは魔法道具を動かすバッテリーで、エルフ族を滅ぼして魔法道具製作技術を独占しているのが神教会を中心とした西方諸国なんだったな。
で。西方諸国は産地である東方地域から魔石を仕入れていた。
今の話だと、爺さんが治めていた当時のエルフ国は魔石を自力で調達していたのか。
だったら、何で神教会は東方地域から魔石を買ってるんだ?
「僕よりは深いだろうね。失ったものに恋々としても仕方がないから、僕の方から迷宮の話を訊いたことはなかったけれど」
「そんな場所に迷宮が有ったとは聞いたことがなかったな」
レイクスの答えを聞いたフレイアさんが傾げた首の角度を深くする。
「迷宮って“金のなる木”だからね。他国の欲望を煽ることが分かっていたのなら、秘匿していたと思うよ。僕なら、そうする」
「ふむ・・・。しかし、旧通商路の迷宮で魔石が獲れるのなら、なぜ、西方諸国の奴らは東方の魔石に執着するのだろうな?」
だよなぁ。
フレイアさんの疑問が俺の疑問に追い付いてきた。
今の言い方だと、爺さんはダンジョンの情報を隠していたってことだな?
だが、“金のなる木”の存在なんて隠せるようなもんじゃねえだろう。
魔石は魔獣の体内で作られるものなんだろ?
西方地域とやらで魔石が採れると聞いたことはなかったし、採れていねえんだろうな。
採れていねえからこそ侵略戦争の目的になるんだろうしよ。
ありゃ? 待てよ?
欲をかいたのかリテルダニア王国内の内戦にちょっかいを出して、裏で内戦を刺激したって理由で輸出を止められちまったら神教会は藪蛇じゃねえか。
しかも、内戦と同時発生でタイミング良く隣国が侵攻してきたんだよな?
片側で介入したのなら、もう片方でも介入を疑わねえ方がおかしい。
必勝を期して2正面作戦になるように仕向けたんだろうが、この動きを“神教会の焦り”と捉えて良いものか。
必勝を期すなら、なぜ叛乱を支援するだけで直接の侵攻をしなかった?
いや。出来なかったのか・・・。
ほぼ同時期に、神教会の正面戦力だという勇者の国は、神教会勢力圏とリテルダニア王国の間に有る緩衝国の1つを攻め落としていたんだよな?
その国から逃げ出してきた戦争難民が、このレティアの町まで嬢ちゃんを頼って逃げてきた銀髪の連中だという話も聞いたしな。
さらには、中身が元日本人の嬢ちゃんが、攻め落とされた緩衝国の王族の生き残りだという出来すぎたドラマの脚本みてえな話も聞いた。
神教会側の目線で見れば、噛み合っているようで噛み合っていねえんだよな。
世界の違い㊴です。
戦略の齟齬!?
次回、イレギュラー!?




