世界の違い ㊳
「サーレーンとタレースじゃねえか?」
「早いね。もう戻ったんだ?」
大人しく模擬戦を観戦して観客の一部になりきっていたレイクスに報せると、レイクスも気付いていたようで、考えるような視線を帰還した2人に向けている。
2人を牽引してきた門番が2人を促して戻っていったところを見ると、“訓練場”が分からない2人を案内してくれたのか。
後であの門番にも礼を言っておかねえとな。
観衆の人垣をサッと見回し、目敏くレイクスの姿を見付けた2人が俺たちの方へ歩み寄ってくる。
「レイクス様。ただいま戻りました」
「お帰り。早かったね」
2人の帰還の挨拶を、柔らかく目を細めてレイクスが受け入れる。
一昨日、郷へ帰った2人が取って返してきたってことは、郷からの伝令か?
特別に急いだ伝言なんかを頼んでいた様子はなかったから、数日間ぐらいは郷で休んでくるもんだと思っていたんだが、すぐにトンボ返りしてくるとはな。
「魔獣にも遭遇しませんでしたから」
何のことも無いようにサーレーンたちが首を振る。
うーむ・・・。こいつらも何気に特殊なんだよな。
深い森ってのは、どっちを向いても同じような景色で超高難易度の間違い探しよりも違いを見極めるのが難しい。
しかも、この町と郷って往復100キロメートルは距離が有るんじゃねえか?
そこで思い出す。
こいつらは俺の全力疾走よりも速く走れるからなぁ。
オリンピックのマラソン選手が42.195キロメートルを2時間で走破するんだから、2日間で100キロメートルを走破してもおかしくはねえのか。
ただ、1度しか通っていねえ森を、迷わずに往復してきた方向感覚は人間離れしてね?
伝書鳩や渡り鳥も地磁気を感じ取れるから道に迷わねえとか何とかって聞くしな。
ケイナも道に迷う素振りを見せたことがねえから、方向感覚が優れているのはエルフ族の特徴か?
スッと表情を改めたレイクスが問う。
「それで? お祖父様は何と?」
「それが・・・。こちらへ来られると」
報告することに躊躇いを見せたサーレーンは、葛藤を抑え込んだ様子で言葉を紡いだ。
は? その「こちら」ってのは、レティアの町だよな?
あの爺さん、想像上にフットワークが軽いな!
真面目な話し合いの場では、ヘラヘラと余裕の笑みを浮かべているか真剣な顔をしているかで思考を表に出さないことが大半のレイクスも、目を見開いて驚きを顕わにする。
「へぇ。それは驚いた」
「待ってくれ。ケルレイオス王がいらっしゃるのか?」
驚いたのは俺たちだけじゃねえ。
常にどこか余裕を持っているフレイアさんも、目をまん丸にして驚いている。
静かになったと思えば、騒がしい金銀娘も目をまん丸にしていた。
周囲の表情に気付いたレイクスが余裕を取り戻して苦笑する。
「そのようだね。まさか、こんなに早くお祖父様に郷を離れる決断をしていただけるとは考えていなくてね。僕も驚いているよ」
レイクスの目的はエルフ族の生き残りを危険な森から出して、同族たちを滅びの道から救い出すことだ。
その志を妹のケイナも理解していて、森の外の情勢を探るために俺というイレギュラーに引っ付いてきた。
爺さんの動きはレイクスたち兄妹にとって歓迎すべきものでは有るんだが、レイクスが「驚いた」と告白したように、レイクスの目的に手を貸している俺としても、早計すぎるんじゃねえかと心配になっちまうほど、タイミングが早え。
ウォーレス家の人々は信頼できる相手だと考えているが、ヒト族の誰も彼もが信用できるわけじゃねえ。
ただでさえ、フィオレの嬢ちゃんというイレギュラーが巻き起こしたアレやコレやが内外の注目を集めていて、領内に入り込んでいるスパイの存在を懸念している状況と聞いている。
レイクスが驚くのも無理はねえ。爺さんには爺さんの考えが有るんだろうが、さて、どう動いたもんか・・・。
「こうしては居られんな。急いで歓迎の準備を進めねば」
驚きによる思考力低下から復帰したフレイアさんが、珍しく余裕のない様子で背中を向けた。
フレイアさんの慌てっぷりに、レイクスも慌てて引き留めに掛かる。
「ああ。待って待って。歓迎されたくて来るわけじゃないと思うから」
「む。そうか?」
引き留められた側のフレイアさんも困惑を顕わにする。
そりゃそうだわな。
あの爺さん、歴史書に名前が載っているほどの有名人なんだろ?
ウォーレス家ってのは祖先が爺さんとの縁を持っていた一族だと言うし、歓迎しなくて良いと言われる方が困るだろう。
「レイクス様。まだ長は森を出る決断をされたわけでは・・・」
困ったのは爺さんからの伝言を持ち帰ったサーレーンたちも同じなようで、慌てた顔でレイクスに耳打ちする。
だが、レイクスは諫言に首を振る。
世界の違い㊳です。
爺さん、出撃!
次回、異世界経済!?




