世界の違い ㊲
「どういうことでしょう?」
ケイナと銀髪嬢ちゃんの話している声が耳に届く。
ケイナにも意味が分からなかったか。
そういえば、こんな話をしたことは一度もなかったものな。
女性騎士なんぞと戦う機会もなかったし、敵対する女性というものにも遭遇したことがなかったから、ケイナに教える機会もなかった。
おかしなことを教えるんじゃねえだろうなと警戒して、介入するつもりで身構えていると、悪ふざけする様子ではなく嬢ちゃんは苦笑する。
「・・・価値観で良いのかな? いや。文化? “女は守るもの”って考え方だと、女性に暴力を振るう行為自体を嫌うんだよ」
「そういうものなのですね」
意外と真面目に嬢ちゃんが日本的な考え方を教え、ケイナも真面目に頷き返している。
まだ会ったことはねえが、この様子だとエルフ族にも女戦士なんかが居たのかもな。
生死の境目が日常生活と近い場所に有るこっちの世界では、敵の命を奪い味方の命を守るのに男も女もねえ、ってのが実際のところか。
コツさえ分かってりゃあ、人間ってのは意外なほどにアッサリと死ぬ。
逆にコツが分かって居なけりゃあ、人間ってのは想像以上にしぶとく倒れてくれねえ。
女が男を殺した例なんて数え切れねえほど有るんだから、「男も女もねえ」なんて言ってらんねえのが現実だろうな。
地球の文化でも“自分の女”や“同族の女”を守る文化は有っても、日本みたいに“女は”―――、というか、“女子供老人は守るもの”と無条件に決め付ける“常識”の方が珍しかったよな。
ただし、日本の場合は“相手が常識の範囲内にいる場合には”という但し書きが付く。
海外から押し付けられたポリコレのように、“弱者は何をしても良い”なんて屁理屈が通用しないのも日本という文化だ。
判断の根底に有るのは勧善懲悪と“常識”で、“常識”―――、いや、“良識”か?
許容範囲の問題だろうな。
そんなものの枠内からはみ出した奴には、女も子供も老人も関係なく社会全体が手厳しかった。
日常生活の中で、そんな“常識”を学んで馴染んで生きてきた日本人にとっては当然の、“女は守るもの”って考え方は、フレイアさんが大笑いしケイナが驚く程度には、こっちの世界では珍しいものなんだろう。
「・・・まあ、テツさんは模擬戦を“遊び”って認識していたぐらいだしね。―――、あれ? “遊び”?」
「どうかしましたか?」
納得顔でケイナに講釈していた銀髪嬢ちゃんが、何かに気付いたように顔色を変えた。
首を傾げるケイナを放置して、嬢ちゃんはグルンと俺へ顔を向けてくる。
「・・・て、テツさん。お爺様やお父様との模擬戦も手を抜いてた?」
「ええっ!?」
銀髪嬢ちゃんの問いに驚きの声を上げたのは金髪嬢ちゃんだ。
手抜き? そんな失礼な真似が出来っかよ。
「いいや? 真面目に遊んでたぞ?」
「・・・もしかして、お爺様たちも?」
目をまん丸にしている銀髪嬢ちゃんに頷き返す。
「そりゃそうだろ。あんなの、ぜんぜん本気じゃなかったしよ」
「そうなの!?」
金髪嬢ちゃんも何をそこまで驚いてんだ?
こいつら、自分の家族を信じてねえのか?
遊んでいただけなのに、自分の子供や孫から「コイツ弱え」なんて思われたら、ハインズさんもハロルドさんもショックを受けるぞ。
「“模擬戦は挨拶代わり”だと言ってたのは、嬢ちゃんだろうが」
「・・・私? 言ってたけど、そうだったの?」
指摘を返せば銀髪嬢ちゃんが目を丸くしたまま首を傾げる。
「手加減とも違えな。ハインズさんもハロルドさんも斬る気が無かったし、本気を出したらあんなもんじゃねえよ。遊んでいてアレだからな? あの人らはマジで強えわ」
「「ほほーう!!」」
自分たちの認識が誤っていたことに気付いた金銀娘が喜色を顕わにする。
フレイアさんも目を丸くしてやがる。
何でアンタが一緒になって驚いてんだ?
アンタだって本気じゃなかったし、俺が本気じゃねえのもアンタは気付いていただろうが。
「初見でそこまで分かるものなのだな」
「言ったろ? “危ねえのは分かる”んだ」
フレイアさんが驚いたのは、”危険物センサー”の性能についてか?
“危険”という意味ではセンサーが危険信号を発していたが、“本物の危険”を報せる危険信号とは違った。
簡単に言えば、黄色信号と赤信号だな。
場数を踏んでりゃ、テメエの中での“危険信号の質” の違いぐらいには気付く。
「なるほどな。大した“勘”だ」
「・・・んん?」
フレイアさんが納得顔で頷いていると、余所見をした銀髪嬢ちゃんが首を傾げた。
嬢ちゃんに釣られて目を向ければ、領主館の入口で門番をしていた兵士と一緒に外套姿の2人が訓練場に入ってきたところだ。
あれは・・・。
見覚えが有る感じがして目を凝らせば、被った外套のフードの中に見知った顔が見て取れた。
世界の違い㊲です。
常識の違い!
次回、来訪!?
* ちょっとだけ遅刻です!




