世界の違い ㊱
「お前ら、ちゃんと見ていたか?」
「「はい」」
子供たちの下へ真っ直ぐに辿り着いたフレイアさんに、金銀の嬢ちゃんたちがシャキッと背筋を伸ばして返事をする。
ほう? 俺に対しても魔法使いとの戦い方を教えていたが、それと同時に、子供たちに対しても俺のようにイレギュラーな敵との戦い方を教えていたわけか。
そして、嬢ちゃんたちも教えられていることを自覚してやがったと。
そういえば、フレイアさんは嬢ちゃんたちの師匠でもあると聞いちゃいたが、教えている姿を見た記憶がなかったんだよな。
特別に教える時間を作っているのかと思いきや、フレイアさんの教え方は、自分が手本を見せて、課題として考えさせる形式か。
「気付いたことを言ってみろ」
「・・・魔法で相手の行動を制限して、隙が有ったら剣で斬る感じ?」
ヒョコッと小さく手を挙げた銀髪嬢ちゃんの答えに、フレイアさんも小さく首を傾ける。
「それでは50点だな」
「・・・ええ・・・?」
自信を持っていたらしい答えをバッサリと切り捨てられて、銀髪嬢ちゃんが衝撃を受けた顔をする。
代わって金髪嬢ちゃんも小さく手を挙げた。
「術式も手数の1つってこと?」
「その答えでは70点といったところか。もう少し詳しく言ってみろ」
銀髪嬢ちゃんの見落とし部分を金髪嬢ちゃんを埋めに行ったが、フレイアさんは“それでは足りない”と首を振る。
「ええ~? んっと、術式の隙間を剣術で埋める?」
「ふむ? まあ、良いか」
金髪嬢ちゃんが捻り出した答えを加算してようやく及第点に達したらしく、フレイアさんはモヤッとする形で合格を出した。
モヤッとしたのは銀髪嬢ちゃんも同じだったらしく、思考を止めずに自分なりの答えを導き出す。
「・・・距離の違い?」
「そうだ。剣も術式も手段に過ぎん。剣では届かん間合いなら術式で、剣が届くなら剣で攻撃し、防げば良い。剣を握らずとも術式は撃てるのだから、剣を握れば手数は倍になる」
拳銃を握って“CQB”―――、近接戦闘を行う感じか?
CQBってのは、狭っ苦しい建物内の制圧を優位に進めるために研究開発された戦術的戦闘技術だ。
フレイアさんは、剣よりも射程が長い魔法で攻撃し、牽制や誘導にも魔法を使っていたな。
CQBも同じで、拳銃や自動小銃を用いて敵の接近阻止と制圧を行い、接近された場合にはナイフや体術を用いて敵を制圧する。
その制圧手段が剣と魔法に代わるだけだ。
「・・・そっか」
フレイアさんが示した答えに嬢ちゃんが考え込む。
現代日本で生きた記憶を持つ嬢ちゃんなら、性別が女でも現代地球で軍隊が用いる戦闘技術の一端は映画なんかのフィクションで見たことが有るはずだ。
表情を難しくした金髪嬢ちゃんが具体論に移る。
「でも、剣を振りながら術式を撃つのって難しくない?」
「それは訓練が足りていないだけだ」
「ええ~・・・」
今度もバッサリと切り捨てられて、金髪嬢ちゃんが情けなく眉尻を下げた。
子供が相手でも容赦ねえなぁ。
フレイアさんの講義はそこで止まらない。
「ケイナ殿もだ。騎士と魔法術師では戦い方が違う。よく覚えておけ」
「はい。心に刻んでおきます」
突然、話を振られたケイナは落ち着いて返事をした。
「そうしろ。出来る出来ないで魔法術師は生存率が変わる。戦場で真っ先に狙われる魔法術師だからこそ、剣術などの近接戦闘術は重要だぞ?」
傍目に見ていると、このフレイアさんって人も不思議な人だな。
新たな技術や知識を得るときには真面目に生徒になって、そうかと思えば、こうやって自分が体験してきたものを上段から教えている。
矜持は持っていても、変なプライドは持っていない感じだな。
人間ってのは誰でも偉くなっちまうもんだから、自分にも他人にも飾らずに真っ直ぐ向き合うってのは、簡単なようで、とても難しい。
俺も見習うべきだな、なんて意識を逸らしていると、金髪嬢ちゃんが新たな疑問をぶつけに行った。
「そう言えば、お母様。さっきの模擬戦で良かったの?」
「良かった・・・? ああ。テツ殿が反撃してこなかったことか?」
ん? 俺か? 嬢ちゃんたちとフレイアさんの目が俺に集まっている。
格好を付けているみてえで言いたくねえな。
「・・・そうそう。何でだろ? って気になってた」
「一応、剣を折りに来たりはしていたんだがな。“遊びで女を殴れるか”、だそうだ」
小っ恥ずかしいから視線を逸らしてるのに、ニヤリと笑ったフレイアさんが含み笑いを始めやがる。
意味が分からなかったらしいケイナと金髪嬢ちゃんが首を傾げる。
「遊びって模擬戦のこと?」
「・・・あー。そういうこと」
黙ってりゃ良いのに、意味が分かったらしい銀髪嬢ちゃんがニンマリと笑みを浮かべやがった。
あ~。こいつは元日本人だもんな。
「女は殴らねえ」なんてもんは日本的な男の美学みてえなもんで、古くせえ自己満足だもんな。
こっちの世界には女性騎士なんてもんが普通に実在するんだから、“真っ当な意味でのフェミニズム”を実現しているわけだ。
世界の違い㊱です。
真っ当なフェミニズム!
次回、真面目な遊び!?
※ ちょっと色々ありまして、いつもの遅刻です!
サーセン!




