世界の違い ㉟
「これでも避けるのか。ならば、こういうのはどうだ?」
「ひょっ! こなくそ!」
足元に危険物の気配を感じてジャンプしたところへ3方向から火の球が撃ち込まれた!
体が宙へ浮いちまっているから回避はできねえ!
2つは点と点を結んだ軌道―――、腕の一振りで迎え撃てるが、残る1つは防げねえ!
2つの未来位置を予測して裏拳を放つ!
グルンと体が回転するのに合わせて、残る1つに向けて拳を振る!
火の球自体は撃墜できても、この火の球は皮膜が破れると炎が弾けるのだから余波は必ず食らっちまう!
戒めが消え去ってボワッと広がった炎には慣性もしっかり働いていて、俺に向けて空気を焦がす熱気が押し寄せる!
「アッチっ!!」
いくら体が頑丈になっても肌が触覚を失うわけじゃねえ!
耐えられはするんだが、熱いもんは熱い!
ラッキーなのか、狙ってそうしているのかは知らねえが、弾けた炎は熱気を残して直ぐに消え去る!
「ほう? やはり小手先程度の術式では効かんらしい」
「アンタ、遊んでるだろ!」
俺は“危険物センサー”の感覚を信じて先回りできるから何とかなっているが、普通、こんなの避けられねえだろ!
俺の体勢が崩れたのを良いことに、ドSな笑みを浮かべたイカレ女がどんどん魔法を撃ち込んでくる!
「真面目に遊んでいるんだ。問題が有るか?」
「ねえ、なっ!」
避けきれねえ風の球と火の球をまとめて殴り潰す!
クッソ! そもそも、この模擬戦ってヤツが遊びなんだから、何が悪いわけでもねえ!
これだから引き受けたくなかったんだが、受けちまった以上は遊びに付き合うしかねえ!
模擬戦で相手の人となりを探るってのは理解できるんだが、やっぱり理不尽に思えて納得いかねえ!
たまに実体が有る小石みてえなヤツが飛んでくるんだが、小さくて動きが速い移動体は目で追うのが難しい!
これ、もう目を瞑っていた方が避けやすいんじゃねえか!?
足元に生えた棘は数秒間ほどで崩れて小さな土の山になるんだが、火の球が弾けた地面は浅く表面が削られて凹む!
土と火の魔法が作った高低差は徐々に大きくなって、凸凹の不整地に変っていく!
足を取られそうになるから足元を視野に入れておく必要は有るんだが、視線を落とすとフレイアさんが剣を振る予備モーションを見落としちまう!
魔法の合間に差し込まれてくる剣が鬱陶しい!
いや、剣を振る合間に魔法を撃ち込んできてるのか!?
どっちでも良いや!
マジで性格悪いな、この女!
土の山は出来るだけ斜面を踏まず、足を滑らせねえように真っ直ぐに踏み潰していたんだが、フレイアさんが突き込んできた剣先に意識を持って行かれて目測を誤っちまった!
小山の天辺を引っ掛けた踵が頂上付近を蹴り散らかして支えを失う!
残った足で体勢を修正しようとしたところへ、運悪くズルッと靴底が穴ボコの底へ嵌まった!
「うおっとぉっ!?」
上体が仰向けに大きく泳いで、両足も半ば浮いちまっているから体勢を変えられねえ!
尻餅を突くのは避けられねえな!
バック転で体勢を立て直して―――、と思ったんだがなぁ。
俺が素っ転ぶのに合わせて、狙い澄ましたようにフレイアさんが踏み込んできやがる!
おっと・・・! 剣先が、ビタリと俺の喉元へ突き付けられた。
「私の勝ちだな?」
「ああ。負けた負けた」
負けを認めたのに、目を厳しくしたフレイアさんは剣を収めねえ。
何か気に入らなかったか?
「いくらでも反撃の機会は有ったのに、なぜ反撃しなかった?」
「止めてくれ。遊びで女を殴れっかよ」
女だからと舐めるな、ってか?
何を怒っているのかと思えば、一転してフレイアさんは大笑いする。
よく分かんねえが、どうやら俺の答えはお気に召すものだったらしい。
剣先を引いて鞘へ収めるフレイアさんは目が笑ったままだ。
「遊びではなければ殴るのか?」
「優先順位だな。守るべきものを守るときには遠慮なく殴るぜ」
女ってのは、答えを1つ間違えば瞬時に機嫌が悪くなるからな。
カナと暮らした日々で骨身に染みて教え込まれた教訓は、異世界の女にも通用するものだったらしい。
「ふむ。悪くない答えだ」
「そりゃどうも」
機嫌を良くしたままフレイアさんが背中を向けた。
ふぅ・・・。何とか乗り切ったなぁ。
問題は、順番待ちの“妹たち”が手ぐすね引いて待ってやがるってことだ。
マジでアレ全員の相手をすんのかよ。
世界の違い㉟です。
敗北!?
次回、教導!?




