世界の違い ㉞
「普通ってことは、普通じゃねえのも有るの―――、かっ!?」
アッブねえ!
何やら企んでやがると思えば、横薙ぎに振るわれた剣を俺が避けた先の地面から土を固めたような棘がズボッと生えて、俺に向かって来やがった!
筋力で強引に踏み込む足をずらしたが、“危険物”を察知してから魔法が飛んでくるまでの時間が短え!
「フィオレが使う防御術式は動くぞ。フィオレから教わった者たちが使う術式も動く」
「ほっ! 防御ってのは盾だろう!? 盾は動いて当然じゃねえのか!?」
差し込まれる剣を回避しつつ、1つ、2つと、立て続けに火の球を避ける!
つーか、この女は魔法を構築し始めてから撃ってくるまでの時間がメチャクチャ短いんだな!
こういうところの技量が魔法使いの優劣なのかも知れねえ!
「そうなんだがな。テツ殿は盾というものを見たことが有るか?」
「クァタルが持ってるようなヤツだろう!?」
盾は盾だろ! 他に有んのか!
フレイアさんは剣を振りながら俺の答えに小さく首を傾げる。
「ああ。彼はエクラーダ人だろう? エクラーダの盾は特殊なんだ」
「特殊、つーと!? うおっと!」
面倒クセエ!
体を捻ったりステップで避けていると、不定期に生えてくる棘にペースを乱される!
何だった? クァタルの盾は特殊?
「通常、盾というものは片手で扱えるように軽く、薄く、持ち運びが容易なものだ。飛んできた矢が貫通する程度にはな」
「貫通しちゃダメじゃねえか!」
「それは違うぞ。貫通しても、矢の勢いを削いで受けた攻撃が自分に届かなければ十分に機能は果たしている」
下げた頭の上を飛んできた火の球が通り過ぎる。
そう言われれば、そうか?
映画に出てきたローマ兵の盾も、日本の合戦で地面に立ててある置き盾も、飛んできた矢がプスプスと盾を貫通していたような気がするな。
「盾は強固なものじゃねえってことか!?」
「利き腕には剣を握るのだぞ? 非力な方の腕で扱うものが重くては扱い切れん」
俺の認識違いを笑いながらフレイアさんは右手の剣を振るいつつ、左手に生み出した火の球を押し付けに来る。
あー、確かに。
ゲームやファンタジーに出てくる盾のイメージが強すぎて、矢も剣も弾く金属製のホームベース型みたいな盾が普通だと思い込んでいたかも知れねえ。
金属板なんて片手で振り回せる筋肉ゴリラの方が特殊だし、継続して持ち続けられる盾なんて薄い板っきれで出来た“簀の子”程度が関の山だろう。
つまりは、ペラッペラな紙装甲が盾ってわけだ。
「盾のイメージじゃ、魔法は防げねえってことか!」
「だから、従来の防御術式は盾ではなく、動かせず、貫かれず、確実に身を守れる“防塁”のイメージだったんだ」
これ見よがしに肩を竦めてみせるが、また俺の背後に新たな火の球を生み出してやがる。
“危険物”の反応で分かるんだよ!
防塁ってことは土塁か。
現代の戦争でも、土嚢袋を積み重ねた土塁は銃弾も砲弾も防げるから現役だと、自衛隊に入ったダチが言ってたな。
地面に人が通れる通路を掘っただけの塹壕も、土の壁だな。
東欧で始まった戦争でも、塹壕を掘り始めたもんだから最初は「第一次世界大戦かよ!」とツッコまれまくっていたが、いざ、始まってみりゃあ、“土を積み上げた壁”ってのは兵器が発達しまくった現代戦でもメチャクチャ有効だったんだよな。
魔法ってもんがイメージで組み上げるもので、“頑丈な防御装置”をイメージするなら“防塁”になるのは理解できる。
背後から俺の足元を狙ってきた火の球を、腿上げでヒョイと素通りさせる。
「嬢ちゃんがイメージを変えたのか!?」
「定着してしまっていた“常識”を変えたと言った方が正しいな。こっちの世界の常識に囚われない柔軟な発想は、やはりニホン人なのだろうよ」
へぇ? 固着した発想の変革か。
“常識を変える”というのは、言葉にするのは簡単だが、“無意識の領域”に定着したものが常識ってもんだ。
思考の基礎に有るのが常識ってもんだから、“常識”を疑い、破壊するのは並大抵のもんじゃねえ。
それを受け入れるアンタも、十分、柔軟思考だと思うがなぁ。
飛んでくる火の球とは別に、避けたくなる側の足元にピリッと違和感を感じた。
こりゃあ、棘だな。
「なるほどな! ヨッと! この攻撃魔法の方も“常識”なのか!?」
「この“火弾”という術式は、戦場では魔法術師が最もよく使ってくる術式でな。威力は小さいが魔力の負担も小さく数が撃てるのが特徴だ」
踏みそうに見せて棘の発生地点から踏み込みをずらせば、俺の回避を待っていたフレイアさんが剣を突き込んできながら口元に楽しそうな笑みを浮かべる。
お前、性格悪いな!
俺がどの程度の先読みをするかまで読んで来やがった!
「他には!?」
「“気弾”といって色々と使い道が有る術式も使ってくるぞ。―――こんな風にな」
フレイアさんが言葉を吐き終わるコンマ数秒前に、俺の左側で目視しにくい空気の塊がパンッ! と弾けて、強い風に体を押される!
「何か有る」と分かっちゃいても、派生した効果は自然現象による余波だから掴みにくい!
その余波自体も“火傷をする危険性が有る”火と違ってただの風だから、危険度が低くて危険物センサーが反応しねえ!
この女、危険物センサーの特性まで読んで来やがった!
体を押し流された先には火の球が待っていて、避けたい先の地面には棘がスタンバイしてやがる!
火の球を避けつつ踏み込み先をずらすことは出来るが、ずらした先を狙ってフレイアさんが剣を振り始めてやがる!
マジで根性悪いぞ!
「うおおっ!? 合わせ技か!」
火の球をブン殴って潰すか、剣を折りに行くか!
サッサと終わらせるなら剣1択だろ!
剣の横っ腹を狙って右フックを放てば、察知したフレイアさんが剣の軌道をずらして拳が空振りした。
世界の違い㉞です。
実験中!
次回、遊び!?




