世界の違い ㉝
「さて。始めるか」
学校のグラウンドみてえに広い訓練場のド真ん中まで歩いてきたフレイアさんが、足を止めて振り返る。
空中へ滲み出るように浮き上がったのは黄色寄りのオレンジ色をした光の球だ。
焚き火の炎のように透き通っているようで見通せねえ球は、立ち上る熱で空気が揺らいで陽炎を起こしているから火の塊なんだろうって予想が付く。
何度見ても不思議な光景だが、何を燃料に、どうやって燃えているのか説明が付かなくて、真面目に考えると混乱してくる。
いやまあ、魔素を燃料に燃えてるんだろう。
地球人感覚では有り得ねえ光景だから認識がバグるんだな。
ソフトボール大のそんな球が10個近くも同時に発生した。
「おお。なんだ? そりゃ」
「何がだ?」
フレイアさんが不思議そうに訊き返してきた。
「いやぁ。ケイナはそんなにいくつも魔法を並べねえから、随分とやり方が違うんだなと思ってな」
「ケイナ殿の普段の戦い方を見ていないから何とも言えんが、並べる必要がないからではないか?」
はぁ? 「何とも」と言いながらも、確信が有るっぽい口振りじゃねえか。
「何で必要がないんだ?」
「さあな。ただ、目の前に壊れない壁が有って自身に攻撃が来ないなら防御したり牽制したりする必要がない、とは思うぞ」
律儀に見解を教えてくれるってことは、模擬戦ってのは“遊び”―――、いや。訓練って位置付けで良いんだな。
この女の場合は実験感覚か?
強者の空気を身に纏っているが、ハインズさんやハロルドさんとはスタンスが多少違う感じだな。
この女、意外とマトモ?
いやいや。それよりもだ。
ケイナとのやり方の違いは俺も理解しておくべきじゃねえか?
普通の感覚とケイナの感覚の違いを理解しておくことは、ケイナの行動を予測することに繋がって、結果的にケイナを守りやすくなるはずだ。
今までは切羽詰まる所まで追い込まれたことがなかったから勘に任せて魔獣の動きを邪魔することができていたが、敵が人間だと裏をかいて予想外の攻撃に出る恐れも有る。
予想外の状況に置かれたときにケイナの感覚が理解できていれば、ケイナの反応を予測できて対処のしようは有るかも知れねえ。
そういう意味で、“普通”を知っておくことには意味が有るだろう。
俺も真面目に学ばせて貰おう。
先ずは、ケイナがなぜ必要以上の魔法を使わないのかだ。
「防御や牽制の必要がない」ってのは、どういうことだ?
「目の前に壊れない壁」ってのは俺のことだろうな。
雪合戦で壊れない壁の後ろに隠れた場合、どうだ?
防御する必要がないのは当然のこととして、壁―――、俺は敵の動きに合せて勝手に移動するから、ケイナ自身が敵を牽制する必要はないのか。
「ほーん? 攻撃だけに集中できるってことか」
「よほど信頼されているんだろうよ」
俺が理解したと見て取ったらしいフレイアさんが小さく笑う。
「信頼? あ~、なるほどな。そりゃあ光栄なこった」
「ヨシ。行くぞ」
こうやって話していながらも、フレイアさんは火の球を放り込んできた。
「お手柔らか―――、にっ!?」
この火の球は、どうやら水を詰めた水玉風船のように薄い皮膜の中に圧力が掛かった火が詰まっているらしい!
俺が避けた地面に当たると、皮膜が破れてボワッと炎が立ち上った!
「ほう。本当に避けるのだな」
「爆発すんのかよ、コレ!」
いや! 爆発というよりも破裂か!
感心しながらフレイアさんはポンポンと火の球を放り込んでくる!
地面に当たって皮膜が破れるってことは人間に当たっても破れるんだろう!
焚き火サイズの炎だから1歩の歩幅で躱せるが、体に当たって燃え上がったら叩いて消すには少しデケえな!
「“火弾”といってな。基礎の術式から、ほんの少しだけ手を加えたものだ」
「これで基礎かよ!」
ちょっと馴れて余裕が出てきたな。
目が慣れた、というよりも、ペースが掴めてきた感じか。
この炎がどの程度なもんか試しても良いんだが、俺が平気でも衣服は平気じゃねえだろう。
模擬戦が終わってみれば“ストリーキング”なんてのは勘弁だな。
「まあ確かに! 動きが遅くて避けやすいもんな!」
「そこまで器用に避ける奴も、そうそう居らんぞ?」
俺が馴れてきたと見て取ったらしいフレイアさんはペースを上げてくる。
魔素が切れたら炎も消えるのか、着弾して数秒ほどで炎は鎮火するから、足も踏み場もないほどじゃねえ。
つーか、この女、やっぱアブネエ!
まともに食らったら大火傷し兼ねねえもんを人に投げ付けながら笑ってんじゃねえよ!
「普通はどうすんだ!?」
「防御術式だな。近くに魔法術師が居れば術式を張る」
投げ付けて火の球が減ったら次々に補充してやがるから終わりが見えねえ!
この女のことだから、こんなもんじゃ終わりじゃねえだろ。
どこかで必ず攻撃パターンを変えてくるはずだ。
そうは言っても、やっぱり俺に魔法攻撃ってもんを教えようとしてるっぽいな。
「張るってことは、設置型か!?」
「ああ。普通の防御術式は張ってしまえば動かん」
へぇー。そうなのか。
徐々に投げ付けるペースは上がってきているんだが、まだ避けられるな。
足元の地面は辺り一面がこんがりと焼け焦げて色が変ってきてやがるが、もう30個―――、いや。40個は避けたか?
避けまくっていたら興が乗ってきたのか、フレイアさんがニヤリと笑う。
世界の違い㉝です。
模擬戦?
次回、魔法剣術!?




