世界の違い ㉜
「スッゴ―――い!! お父様も負けちゃったわ!!」
おいおい。可愛そうに。
早とちりした金髪嬢ちゃんのよく通る声が勝手に敗北宣言しちまったから、ハロルドさんの体から力が抜けて撃沈しりまったじゃねえか。
まだハロルドさんは剣を手放しただけで敗北を認めちゃいなかったし、こっちの世界には身体強化魔法とかいうパワーやスピードを上げる手段が有るから逆転の目も有ったのによ。
しかも、判決を下したのは1番カッコイイ所を見せたかった娘本人だぞ。
これは痛い。メチャクチャ心にダメージが入っちまっただろう。
同年代の娘を持つ同じ親父として、俺の心にも痛かった。
ハロルドさんが脱力しちまった気持ちはよく分かる。
いたたまれない気分になっちまって、押え込みを解いてハロルドさんの背中から下りた。
「立てるかい?」
「ああ。済まない」
何かもう、他人事に思えなくなっちまって、精神的にグッタリしているハロルドさんを助け起こしに掛かる。
ハロルドさんは俺が差し出した手を取って煤けた笑みを浮かべた。
俺と同じように、いたたまれなくなったヤツらが多かったんだろうな。
子供を持っているのだろう年代の騎士や兵士たちが微妙そうな表情になっちまっていて、それ以外の若い連中も困惑顔で静まり返っちまってやがる。
「ヨシ。次は私だ」
何とも気まずい空気をペシッと横に撥ね除けるように、面倒くさいヤツが名乗りを上げた。
前伯爵―――、フレイアさんだ。
「ええ・・・?」
「何だ? 私では相手に不足だとでも?」
マジでやんのか? と視線に込めてみれば、ジロリと睨み返された。
旦那の仇討ち? 違うな。
これは絶対、自分も暴れたいだけだ。
「いや。そういうわけじゃねえけどよ」
「だったら付き合え。後が支えてるんだ」
フレイアさんが視線で「支えている連中」示す。
釣られて目を向ければ、フレイアさんの側近たちが“次”の順番を取り合っているらしく、押し合いへし合いしていた。
サッサと背中を向けたフレイアさんの傍に、嬢ちゃんのメイドがササッと近付いて訓練用の剣を届ける。
このメイド、準備良いな!
腰に佩いていたサーベルを鞘ごと剣帯から抜き取ってメイドに預けているフレイアさんと、順番争い継続中の姉ちゃんたちを見比べる。
「マジかー・・・」
見た目は美人揃いなのに、行動はオモチャを取り合う悪ガキと変らねえ。
嬢ちゃんが「模擬戦を挑まれるだろう」と忠告してきた通りだったな。
あの連中の要求に応えるには、親玉のフレイアさんが先に済ませるしかねえんだろう。
つーか、フレイアさんが親玉なんだから、フレイアさん自身があっち側だ。
こりゃあ抵抗するだけ無駄だな。
訓練場の真ん中を目指して歩くフレイアさんの背中を追う。
何なんだろうな? こいつらは。
“年がら年中、戦争のことばかり考えている物騒な連中”という評価を他領で聞いたことも有るしなぁ。
実際に話してみれば理知的で、力が全てで弱者に生きる資格なし、と言い出す“修羅の国”ってわけでもなさそうなんだけどな。
犬や猿みてえに強さで序列を決める、未開で原始的な社会秩序を持っているわけでもなさそうだし。
「なあ。何でそんなに模擬戦なんてしたがるんだ?」
「追い込まれたときにこそ、あるいは優位に立ったときにこそ、その人間の本質が見える。違うか?」
俺が投げ掛けた質問に対して、返ってきた答えは明快なものだった。
反問されて唸る。
「あー・・・。そりゃあ確かに」
表面を飾った言葉の裏を探り合うよりも殴り合った方が早えってのは、俺も馴染み深いバカどもの理屈と同じもんだ。
子供だって一緒に遊んでみて友だちを作るもんだしよ。
極めて原始的だが、肌感覚で相手の人間性を量り、付き合い方を探る、知的生物としての基本に忠実なコミュニケーション方法では有るな。
俺が納得したと見て取ったフレイアさんが顎先で進路を示す。
「もう少し真ん中まで行くぞ」
「ええ? 何でまた?」
遠くまで離れちゃギャラリーの意味がねえだろ。
俺の疑念にフレイアさんは起用に片眉を上げる。
「私は魔法術師だぞ?」
「はあ」
それ、答えになってねえよな?
「術式有りの模擬戦なのに、観衆が近くては危なかろう?」
「それ、観衆が近くにいねえと、俺の身が危なそうなんだが?」
マジかぁ・・・。
普通がどうなのかは知らねえが、魔法使い同士の模擬戦となれば観衆から距離を取るのが普通なのかもな。
だが、忘れてねえか? 俺は魔法使いじゃねえぞ。
俺の抗議をフレイアさんが笑い飛ばす。
「イエーティと殴り合って無事な硬さなら問題あるまいよ」
「うへぇ・・・」
この女、やっぱり面倒くせぇ!
お前、確信が有って言ってるんじゃなく、実験するつもりだろう!
世界の違い㉜です。
逃げ場なし!
次回、対魔法使い戦!?




