世界の違い ㉚
「テツさんテツさん! さっきの、どうやって剣を折ったの!?」
「ん? 膝蹴りと肘打ちだよ。止めるつもりだったんだが、咄嗟のことだから加減できなくてなぁ」
ハインズさんの孫だけ有って、膝蹴りも肘打ちも金髪嬢ちゃんはすんなり理解した。
昼寝していても目が覚めるような女児特有の甲高い声が鼓膜に突き刺さる。
「ほお―――っ! 膝と肘で!? すごいわ!!」
「・・・・・・」
金髪嬢ちゃんは目をキラキラさせて興奮しているが、俺はケイナの難しい顔が気になって気が気じゃねえんだよなぁ。
ヤバい気配だ。
いくら鈍い俺でもアレは分かる。
戦闘を終えた俺を迎え入れるのに、こっちの嬢ちゃんに先を越されて気分を害している顔だ。
ケイナはずっと俺と2人で活動していたから、戦闘が終わった後に俺と声を掛け合うのはケイナだけの仕事だったからな。
自分の仕事を取られた気分になっているのかも知れねえ。
かといって大道芸みてえな珍しいものを見て喜んでいる子供を邪険にするのも違うだろ。
適当に構ってやってるだけなんだから、そう目くじら立てんなって!
ケイナを宥めに行きてえんだが、まとわりついてくる金髪嬢ちゃんをケイナの傍へ引き連れていくのもヤバそうな気がする。
エルフ族的にもこの2人を仲違いさせるのは拙いだろ。
つーか、キンキンと甲高い上によく通る金髪嬢ちゃんが騒ぐ声は、マジで鼓膜を貫通して脳ミソに突き刺さるんだよ。
物理的に頭が痛え。
ヒナは大人しい方だしケイナも大人しい。
銀髪嬢ちゃんも大人しい喋り口だから、この金髪嬢ちゃんの声だけ異分子感がクッソ強え。
そうは言っても子供ってのは相手の好悪感情を敏感に感じ取るから態度に出せねえ。
顔面に笑いを貼り付けつつ誰か助けてくれねえかと困っていたら、銀髪嬢ちゃんが動いた。
「・・・大丈夫大丈夫。自分に出来ないことが出来る人を見て興奮してるだけだから」
「そ、そうなので―――」
ヨーシヨシ! 頑張れ嬢ちゃん!
ケイナが機嫌を直してくれたら、それだけでも俺の心理的負担は激減する!
銀髪嬢ちゃんの取りなしでケイナの眉間も良い感じに力が抜けてきて、油断したところへ金髪嬢ちゃんが特大の爆弾をブチ込んでくれる。
「テツさんみたいに強い人が許婚だったら良いのに!」
「「「―――っ!?」」」
何言い出すんだこの嬢ちゃん!
ケイナと銀髪嬢ちゃんの顔が驚きに塗り潰されていて、ハロルドさんの顔もケイナたちと同じ表情になっている。
俺は驚きが顔に出ねえように耐えきったが、グググとケイナに眉間に力が入って状況が悪化したことを悟る。
これは拙い。拙すぎる。
「・・・・・・」
「・・・ちょっ! ルナリア!?」
「ん? なぁに?」
状況悪化を悟ったのは銀髪嬢ちゃんも同じで、直接介入を試みた。
「なぁに?」じゃねえよ!
金髪嬢ちゃんに状況を悪化させた自覚はないみてえだし、爆弾投下以前から労働環境を守ろうとするケイナがファイティングポーズを取りつつ有った認識もないみてえだな。
ここで居るのがバレバレな伏兵が奇襲を仕掛けてきた。
「テツ殿。私とも模擬戦をしようじゃないか」
「・・・お父様まで!?」
顔は穏やかに笑っているが全身から戦る気満々の気迫を発しているハロルドさんの介入に、銀髪嬢ちゃんが愕然としてやがる。
これは分かる。
愛娘が彼氏を連れてきたときの拒絶反応だ。
世界が違っても、親父の心理ってのは変わらねえんだな。
俺だってヒナが「パパ~。これ、わたしのカレシ~」とか、金髪鼻ピアスに汚えタトゥ入りのクソガキを連れてきたら、ヒナにバレねえように山奥へ拉致ってクソガキを埋める。
絶対に、だ。
地下10メートルを超えれば地滑りか山体崩壊でも起こさない限りクソガキが人類に発見されることは2度とねえだろう。
仕事のストレス発散に穴を掘っているところへたまたま通り掛かったクソガキが不注意で穴底に落っこちただけで、たまたま余所見しているときに落っこちたクソガキに俺が気付かなくても不思議はねえからな。
一汗かいてスッキリした俺はひとっ風呂浴びて明日の仕事を頑張れるってもんだ。
4億年ぐらいの未来に古代生物の化石として脚光を浴びればクソガキも目立ててWin―Winだろ。
現実逃避してる場合じゃねえな。
普段の冷静さを見失っているハロルドさんを正気に戻すのに、やんわりと指摘してみる。
「そりゃあ構わねえんだが・・・。なんか怒ってね?」
「私がか? 婿になる可能性の有る者を潰して―――、いや。力量を確かめておかねばならんだけだ」
「は? 婿?」
とぼけてみたが、ダメっぽいな。
笑みと青筋を顔に貼り付けたハロルドさんが背中を向ける。
世界の違い㉚です。
父親の習性!
次回、第2ラウンド!?




