世界の違い ㉘
「単に振るだけでは当たらぬか」
「そっちこそ、よくそんなクソ長えもん振れるな」
西洋剣にしても日本刀にしても、刀剣の長さは精々が80センチメートルぐらいのもんだ。
柄まで入れても普通は1メートル程度しかねえ。
それが、この両手剣ってヤツは俺の身長と同じぐらいの長さが有る。
当然、リーチも2倍だ。
剣ってのは要するに鉄の棒で、鉄は重い。
棒の端っこを握るわけだから、重心を持って持ち上げるよりも体感はクッソ重くなる。
剣の長さが2倍になるなら、柄を握ったときの重量は指を引きちぎりそうな重さに感じているはずだ。
なのに、この爺さんは、まるで平気そうにニヤリと笑う。
「鍛えておれば、どうとでもなるものだぞ?」
「筋力だけで、それかよ」
とんでもねえ爺さんだな。
しかも、この気迫だ。
笑っていても猛獣の檻に相部屋させられている気分だぜ。
「もう1度だ。行くぞ」
ハインズさんが再び構えを取る。
今度も八相だが、剣が水平に寝ている。
俺も膝を柔らかくして構えを取る。
「いつでも」
と、答えたものの、こりゃあヤベえな。
小手調べを終えて本気を出して来やがった。
ただでさえ迫力がある爺さんなのに、さらに迫力が増して体が一回り―――、いや二回りはデカくなったように感じる。
さっきまでとは違う。
刃が付いていねえと聞いている長剣の剣先までヤベえ気配が漂っていて、危険物センサーがビリビリと警告を発して来やがる。
この剣も何かやってやがるな。
これが何とかいう剣術の技か。
当たっても耐えられそうな気はするんだが、遊びは遊びだ。
くだらねえギャンブルをするには重い。
観察しながら瞬きした瞬間、ハインズさんの巨体がコマ落ちしたように目の前にあった。
ヤッベ! 間合いの詰め方まで段違いにスピードアップしてやがる!
バックステップで距離を取ろうとしたところへ、踏み込んできたハインズさんがバットスイングして来やがった!
剣のリーチが長すぎて射程外まで下がりきれねえ!
剣の軌道は斜め斬り下げだ!
ピリッと危険物センサーが報せてくる。
狙いは左足の膝裏か!
「うおっ!? っと!!」
思い切り蹴り上げた左足の真下を剣先が掠める。
あれだけのフルスイングを、また筋力だけで止めるのかよ!
通り過ぎたばかりの剣がクルッと持ち替えられて真逆の方向へ薙ぎに来る!
左足を着地させて後ろへステップするが、今度も下がりきれねえ!
その剣、射程が広すぎだろ!
マジでヤベえ! 躱しきれねえ!
クッソ! こんにゃろ!
躱せねえなら正面突破だ!
右膝を思い切り蹴り上げて真上から右肘も落とす!
食らえ! 背骨折りのエルボードロップだ!
「うおおおおおおおっ!!」
「何!?」
パ――――――ンッ!! と破談音が響き渡ると同時に金属の破片が宙に舞う!
おおっし! 成功!
膝蹴りと肘落としに挟み撃ちされた長剣がガッチリとロックされ、ハインズさんのパワーを受け止めきれずに破断した!
ハインズさんも目を剥いて驚いてやがる!
そりゃあ、そんだけ長けりゃ折れやすくもなるだろうよ!
ハインズさんの手の中に残ったものは、長さを3分の1にまで短くした剣だ。
脇差しぐらいの長さにまで射程は短くなったが、まだ油断は出来ねえ。
この爺さんのパワーなら、脇差しでも十分、脅威になる。
今度は追撃に行くぞ!
上げていた右足に体重を乗せて踏み込むと同時に、渾身の左ストレートで顔面を狙いに行く!
おっほ! スッゲえ反射速度だ!
躊躇いなく剣を手放したハインズさんの右腕が俺の左拳をガードして、掴み掛かろうと左腕を俺の胸ぐらへ伸ばして来やがる!
だがな。こういうのは補導された先の警察署で投げられまくって覚え込まされた、柔道技の典型パターンなんだぜ?
ハインズさんの左袖口を掴んで上へ押し上げ、同時に右袖口も取る。
体の向きを変えつつ懐へ背中を押し込み、腰を跳ね上げる!
「ぬおおおおおおおっ!?」
宙へ浮いたハインズさんの巨体が俺の背中の上で反転して、背中から、ズン! と地面に落ちる!
剣と魔法の世界で生きてる奴は柔道技なんて知らねえだろ!
なんて技だったか名前は覚えちゃいねえけどよ。
10年以上経っても体は覚えているもんだな!
「「「「「おおおおおお――――――っ!!」」」」」
柔道技ってのは大の男がクルクルと投げ飛ばされて見た目が派手なもんだから、ギャラリーも湧く。
投げられた本人のハインズさんなんて、目も口もまん丸に開いて呆気に取られている。
さあ、締めとこうか。
「どうする?」
「驚いた。儂の負けだな」
左袖口を取ったまま中腰で真上から覗き込めば、ニヤリと男臭く笑ったハインズさんが潔く答えた。
世界の違い㉘です。
一本!
次回、職人魂!?
※ いつものちょっと遅刻です!
サーセン!




