世界の違い ㉗
「本当に武器も防具も要らぬのか?」
「ああ。要らねえ」
興味津々で訊いてくるハインズさんに即答する。
そこを気遣うなら、俺が模擬戦を戦りてえかどうかの意思を最初に訊いて欲しかったぜ。
一夜明けて、早朝から訓練場でハインズさんと向き合ってるんだが、観衆が山ほど集まってやがる。
右手1本でクッソ長え剣を肩に担いだハインズさんが顎先で剣を示す。
何つったかな。この剣。
クレイモア? いやいや。ツヴァイヘンダーだったか?
俺は詳しくねえが、要するに両腕で振り回す両刃の直剣だ。
長さは2メートルぐらい有るな。
「刃を付けていない訓練用とはいえ、剣は剣だ。当たれば怪我で済まぬことも有るのだぞ?」
「俺にはコイツが有るからな」
何を今さら。
力を込めた拳をハインズさんに示してみせる。
顔の左半面に髪の生え際から口元にまでデケえ縦傷が有る厳つい隻眼の爺さんが唸るが、その目は笑ってやがる。
「拳が武器、か」
「遠慮は要らねえぜ?」
ニヤリと笑い返してやれば、肩から剣を下ろしながらハインズさんが猛獣みてえに笑い返して来やがる。
「良かろう。行くぞ」
「おう」
間合いは約5メートル。
ハインズさんが構えを取るのに合わせて俺も構えを取る。
“構え”つっても、半身で緩く握った右拳を腰溜めにするだけだがな。
最初は様子見で初手を譲る。
俺のダチにも青竜刀を振り回すアブネエ野郎が居るんだが、こっちの世界のマトモな剣術遣いと戦るのは初めてだからな。
剣を持った相手と戦るのは初めてじゃねえが、今までのは盗賊どもで、マトモな実力が有るなら連中も盗賊なんてやっていなかっただろう。
しかも、この爺さんは現役バリバリの騎士で、国を代表するレベルの剣豪だと聞いている。
身体強化魔法なんてもんが有るのも知っているし、勝手が分からねえ。
何とかいう勇者が使った剣技の遣い手だとも聞いているしな。
このガタイのデカさだけでも脅威になるってのに、筋肉ムキムキで年齢を感じさせねえ。
俺は右利きだから、踏み込みになる左足を前へ半歩出して、重心は蹴り足となる右足にやや寄せておく。
体重を支えているのは踵じゃなく爪先だ。
遊んでいる左腕がだらんと垂れている格好になるが、軽く緩めている両膝と同じで固くしておく方が反応が遅れちまう。
ここからは反応速度がものを言うな。
相手の出方に合わせて重心を移すと同時に左足を踏み込んで殴るか蹴るか。
フィニッシュブローじゃねえから全力の1撃にはならねえが、俺の筋力なら、マトモに入ればそれなりのダメージになる。
対するハインズさんも右利きだな。
バッターボックスに入った野球のバッターみてえに半身で左足を前に出して、両手で握った剣を右腕側に引き気味に立てている。
これ、日本の剣術で言えば“八相の構え”っつーんだったか?
ここから縦に振り下ろしてくるか、そのままバッターみてえに横薙ぎにくるか。
「ここなら殴れそう」って隙がねえのは予想通りなんだが、出方が読めねえな。
左目が潰れているハインズさんからすると視界が狭くなる構えのはずなんだが、2撃を入れる際に右足を踏み込むと右目が前へ出て視界が広くなる。
”危険物センサー”はハインズさんと向き合った全方向に警告を発しているが、本命は2撃目だと予想する。
1撃目は様子見のジャブだろう。
「ぬううおおおおおおおおっ!!」
ピリッと“危険物センサー”が頭上を示した!
咆哮と共にハインズさんの両腕が頭上へ跳ね上がる!
振り下ろしだ!
予想外だったのは、踏み込みが右足だったことだ。
左足の蹴り出し1つで5メートルの距離が一瞬で2メートルにまで迫る!
踏み込み1歩で3メートルかよ!
ズシンと体重が乗った右足を踏み込むと同時に頭上から剣が降ってくる!
初手から狙いは勝負を決める頭!
薩摩示現流かよ!
体重の乗せ方といい、一撃必殺の本気じゃねえか!
薩摩示現流ってのは「一の太刀を疑わず、二の太刀は負け」つって、初撃に全力を注ぎ込む剣術なんだが、剣術は剣術で初撃を躱されたからといって、そこで終わるわけじゃねえ!
躱すなら視界が狭いハインズさんの左側だ!
ギリギリまで引きつけた剣が俺の頭を捉える寸前、右足を斜め前へ大きく踏み込む!
クルリと体が反転すると、コンマ秒の直前まで俺がいた場所を剣先が空振りする!
ここだ!
視界が無い左顔面を狙って右拳を叩き込む!
あれだけ全力で打ち込めば剣が地面を叩くだろうと思ったんだが、ググッと体が膨れ上がると剣先が地面すれすれで止まった!
この爺さん、筋力だけで全力の斬り下ろしを止めやがった!
余裕こいて寸止めするつもりだったんだが、そんな甘っちょろいことは言ってらんねえ!
構わず右腕を振り抜こうとしたら、硬えもんに拳が遮られてゴツンと鳴った!
「ほう」
ハインズさんが感心の声を上げる。
そりゃあ、こっちのセリフだぜ。
何つう筋肉をしてやがんだ。
両腕で引き上げて寝かせた剣の腹を盾にして俺の右ストレートを防ぎやがった。
全力にはほど遠い1撃だとはいえ、筋力が上がって熊でも仰け反る右ストレートだぞ。
パワー同士でグリグリと押し合って、左拳をブチ込もうとしたところで右腕が弾き上げられて、左腕が空振りする。
追撃を入れに行こうとする前に、ハインズさんが大きく跳び下がって間合いを取り直されちまった。
俺とハインズさんの動きが止まると、息を呑んで見守っていた観衆から響めきが上がった。
向こうはガタイが俺よりもデカくてリーチが長く、さらには2メートル近くもの長さが有る長剣を握っている。
懐に入らねえと俺の拳は物理的に届かねえ。
追い掛けても仕切り直しは同じだな。
追撃を諦めて肩の力を抜くとハインズさんも落としていた腰を上げた。
世界の違い㉗です。
模擬戦開始!
次回、セカンドインパクト!?
※ いつものちょっと遅刻です!
サーセン!




