世界の違い ㉓
「へぇー! どんなの? 見たいけど見えないわ!」
銀髪嬢ちゃんから様子を聞いて、金髪嬢ちゃんが自分の背中を見ようとまた体を捻ろうとし始めたが、残念ながら人間の首は亀みたいに長くねえし頑張っても見えることはねえ。
これを大真面目にやっているらしいバカっぽいところが金髪嬢ちゃんらしいし、銀髪嬢ちゃんが捨て身で金髪嬢ちゃんを守ろうとする理由なんだろう。
子犬や子猫の失敗やイタズラを可愛いから許せちまうのと同じで、ま。親目線だな。
「後でゆっくり見れば良かろう」
「私たちからのお祝いよ」
「ありがとう! お婆様たち!」
母親らしい子供のコントロールを見せた前伯爵に奥さん方が乗っかる。
素直に喜色を表す金髪嬢ちゃんを片付けた前伯爵が、今度は銀髪嬢ちゃんに目を向けた。
「フィオレ。お前も後ろを向け」
「・・・はい」
背中を向けた銀髪嬢ちゃんに前伯爵が布地を被せる。
嬢ちゃんのマントは秋か冬の空を思わせる、抜けるような青い色だ。
「すっごい綺麗な青色ね!」
銀髪嬢ちゃんの背後に回った金髪嬢ちゃんが目を輝かせる。
何つったか、この色。
中東かどこかの宝石を貼り付けまくった教会に、こんな色のヤツが有ったな。
さすがは上流階級というべきか。
金髪嬢ちゃんの赤色といい、銀髪嬢ちゃんの青色といい、色の選択に高級感が有って良いセンスをしてやがるぜ。
前伯爵が見事なドヤ顔をする。
「そうだろう。この色を出す染料は南方産だからな。取り寄せるのに苦労したんだぞ。奥方殿とお袋殿が」
「・・・ほーう。―――あれ? 」
得意満面な割にお前が選んだんじゃねえのかよ、と心の中でツッコミを入れる前に、脇の下から自分のマントを引っ張り出した嬢ちゃんが布地に目を凝らす。
「・・・この刺繍の図柄って?」
首を傾げた嬢ちゃんが母親を見上げる。
こっちのマントは裏地に金糸で刺繍が入ってるのか。
「松の実だ」
「・・・あっ・・・!」
前伯爵の答えに嬢ちゃんがパァッと表情を輝かせた。
「出兵が控えていたせいで意匠を考える時間が無くてな。上手く図柄に落とし込めと指定して後は任せたんだが、なかなか良い出来に仕上がったじゃないか」
「・・・ありがとう! お母様!」
ピンポン球みたいに跳び上がりそうな勢いで嬢ちゃんが礼を告げる。
この嬢ちゃん、こんな表情も出来たんだな。
基本的に感情を示すリアクションが小さめだと思ってたんだが、そうでもなかったらしい。
銀髪嬢ちゃんの手元を覗き込んだ金髪嬢ちゃんが首を傾げる。
「フィオレのは、わたしのとは刺繍が違うのね」
「ピーシス家の紋章でも良かったんだが、ルナリアよりも前へ出るフィオレが紋章まで背負うと、狙ってくれと言わんばかりになるからな。フィオレを象徴する図柄だけにした」
「そっか。狙われるのね」
何か思うところが有ったのか、前伯爵の答えを聞いた金髪嬢ちゃんが銀髪嬢ちゃんの手元へと視線を戻す。
「ふーん・・・」
「・・・象徴かぁ」
前伯爵は「松の実」と言ったが、嬢ちゃんの手元に有る刺繍の図柄は彼岸花みたいに上向きの花弁を開いた花のように見える。
アレ、「松の実」じゃなく「松ぼっくり」じゃね?
何で松ぼっくりが嬢ちゃんを象徴する図柄になるのかは分かんねえが、嬢ちゃんたちは納得しているみてえだな。
揃って考え込んでいた2人の嬢ちゃんが前伯爵を見上げた。
「お母様にも有るの?」
「有るぞ。私は炎の図柄だ。特務を引き受けてからはペリースが有ったから、ずっと使っていなかったがな」
「「おお~」」
娘2人から歓声が上がって前伯爵が再びドヤ顔になる。
色といい図柄といい中二病感が有るんだが、戦国武将の“前立て”―――、兜の意匠に比べれば大人しいもんか。
あっちは鹿の角をそのまま生やしたり、蜈蚣の巨大フィギュアを載っけていたりするからな。
何とかいう武将なんて「愛」のデカい1文字を看板みてえに載っけていたりで、中二病感どころじゃねえもんよ。
女の衣装合わせは長いもんだ、と暢気に眺めていたんだが、戦国武将の兜と同じ意味を持つものだとすれば、このマントの授与は結構重要な通過儀礼っぽいか。
だとしたら、余計な口を挟まず見届けてやるのが礼儀ってもんだろう。
「あ」
今度は何だ? また何かに気付いたらしい金髪嬢ちゃんが脇の下から自分の赤いマントを引っ張り出す。
「でもコレ、目立つんじゃない?」
「将の健在は、戦場のどこからでも一目で見えねばならぬからな」
金髪嬢ちゃんの疑問に答えたのは祖父のハインズさんだ。
やっぱりか。
目立つマントには兜の前立てと同じ意味が有るらしい。
魔獣だの魔法だのと異世界感ばかりに目を奪われていたが、こういうのを見ると時代的な文明進度の違いを実感しちまうな。
世界の違い㉓です。
文明進度の違い!
次回、モノサシ!?




