世界の違い ⑲
「しかし、ピーシーズはルナリアに付けるしか有るまい? フィオレの護衛はどうする」
「私が付く。魔法術師として私も“砲撃”に参加するのだから、そうするのが最も効率が良かろう」
ハロルドさんの懸念に前伯爵が自身の配置を提案し、ハロルドさんとマルキオさんが納得する様子を見せた。
「ふむ。所詮はカリークのアホどもだしな」
「では、一応の方針は定まったな」
前伯爵の配置で戦争の方針―――、戦略が決まるのか?
ウォーレス領軍の戦い方は前伯爵が攻撃の主力だと聞いていたが、前伯爵がどこに居るかで戦争そのものの流れが決まるってことかよ。
普段の俺たちもケイナの魔法攻撃から始まることを思えば、前伯爵の言う「砲撃に参加」ってのは魔法攻撃のことだろうと予測はつく。
“準備砲撃”って話が出ていたことから察するに、初手の魔法攻撃を普通よりも徹底することで敵戦力を大きく削って趨勢を決める戦略なんだろう。
地球でも某軍事超大国が得意とする戦略だな。
そういや、ウォーレス領ってのは他所よりも魔法使いの数が多いんだったか。
魔法を戦略爆撃や巡航ミサイルの飽和攻撃に置き換えれば分かりやすい。
地球の現代戦を知る身としては順当な戦略に思えるが、馬に乗って剣を振り回す時代感覚だと、先進的すぎてバグって見えるな。
大人たちは合意を醸成できたが、よく分かって居なさそうな金髪頭が驚いた声を上げる。
「えっ? そうなの?」
「お前は総大将なのだから本陣から動けぬぞ」
「あっ。そっか」
祖父であるハインズさんに諭されて金髪の嬢ちゃんが黙る。
これはアレか。金髪嬢ちゃんは自分も銀髪嬢ちゃんと同じ配置になると思っていて、別々の配置になったことに驚いたのか。
「御大のように斬り込んで行きたければ、甲冑ぐらいで音を上げないようにならんとな」
「はーい・・・」
前伯爵が挑発するような言葉をぶつけて、金髪嬢ちゃんが残念そうに答えた。
ははぁ。違うな。この嬢ちゃん、自分も前へ出るつもりだったのかよ。
なるほどなぁ。銀髪嬢ちゃんがエレえ積極的に攻撃を急いでいたのは、コイツのせいか。
金髪嬢ちゃんを前へ出したくなかったから、銀髪嬢ちゃんは出来るだけ多くの敵を始末するつもりだったんだな。
銀髪嬢ちゃんのイカレ発言をマトモ方向へ評価し直す。
もしも、ケイナやヒナが「あいつらブチ殺す!」と突撃していきそうだったら、俺も「先に敵を片付けちまえ!」と考えるかもな。
ブチ殺す敵が居なけりゃ突撃しようがねえもんよ。
あの嬢ちゃん。ブッ飛んじゃいるが、思ったよりもマトモにイカレてんだな。
いやいや。マトモにイカレてるって何だよ。
真面目に考えると、こっちまでおかしくなってきそうだ。
ハインズさんがコキコキと凝った肩を鳴らす。
「やれやれ。今度の戦はヒマなことになりそうだ」
「忙しいよりもマシだろうが」
「そうだな。有事に忙しくなる場合などロクな結果にならん」
前伯爵とハロルドさんのツッコミにハインズさんが羽虫を払うように手を振った。
「分かっておるわい」
ありゃ? さっき「隣国に動きが有る」とは聞いたが、俺の認識にズレが有る気がしてきたな。
今すぐの話ではないように考えていたんだが、ここまで具体的に戦力の配置まで決めるってことは、結構、差し迫ってるのか?
いつ始まりそうなのか、訊いておいた方が良さそうだな。
「敵が攻めてくるのか?」
「む? まあ、油断せずば敵と言うほどの敵ではないのだがな」
意味を取り違えたのか、俺の訊き方が悪かったのか、ハインズさんは戦争の時期ではなく敵の脅威度で答えた。
気になる答えだな。
「油断しなければ?」
「ああ。一昔前の話だが、ルナリアの兄が初陣で戦死してな」
ハインズさんの表情が、一瞬、辛そうに歪んで、前伯爵がハインズさんに代わって答えた。
あ痛たた。地雷をまともに踏み抜いちまったな。
「済まねえ。余計なことを訊いちまったみてえだ」
「構わぬ。儂のコレも油断した結果でな」
デリカシーのなさを素直に詫びれば、ハインズさんが親指で指し示したのは自分の潰れた左目だった。
「誰もが通る道でも有ろうが、如何に弱兵といえど、侮れば噛み付かれるという教訓だ」
ハインズさんに代わって今度はマルキオさんが孫たちの顔を見比べる。
ほーん・・・。大陸一と噂されるほど戦争に強いウォーレス家でも無傷ではなかったんだな。
まだ幼い金髪嬢ちゃんが跡継ぎだというんだから、何かの事情は有ったんだろうと思ってはいたが、戦死した兄貴が居たのかよ。
もう1人、暗殺された兄貴も居たんだったな。
こっちの嬢ちゃんもなかなかにハードな境遇だ。
最後に残った跡継ぎ娘まで幼い内から戦争にさせなきゃならねえウォーレス家の内情も、それなりに追い込まれていたんだな。
それでも、そこまで重苦しい空気になっちゃいねえのは、銀髪嬢ちゃんの存在か。
この辺りの跡継ぎ事情を踏まえれば、嬢ちゃんが過激化するのも理解できちまうな。
俺まで深刻になっちまって、宥めるようにハロルドさんが豪語する。
「ま。心配するな。1国を相手取ってもウォーレス領が戦争に負けることなどない」
「良い機会だ。私たちの戦い方を見ておけ」
「了解した」
前伯爵の好戦的な笑みが、余裕一杯に言ったハロルドさんの豪語を裏付ける。
ヤベえ。何だこの説得力。
何か分かんねえけど納得させられちまった。
けどまあ、俺たちの行動計画にも影響するから改めて確認しておかねえとな。
世界の違い⑲です。
意外と切迫した内情!?
次回、行動計画!?
※今日も軽く遅刻です!
サーセン!




