世界の違い ⑯
「待たせた」
ノックの音にハロルドさんが答え、扉が開いて嬢ちゃん付きのメイドが顔を覗かせた直後に、開け放たれた扉を潜って前伯爵が入室してきた。
前伯爵の後ろから、姿は見えないものの嬢ちゃんたちの声が聞こえてくる。
「うむ。構わぬ」
「それで、どうだ?」
ハインズさんとハロルドさんがそれぞれに答えを返し、前伯爵は問いに答える代わりに扉の外を振り返った。
「おい。早く入って来い」
「はーい!」
「・・・よっこらせ、っと」
金髪の嬢ちゃんらしき元気な返事が聞こえて、親子亀の状態に積み重なった銀色の物体が扉を潜って入室してきた。
何かと思えば、斜め45度ぐらいに前傾した銀髪嬢ちゃんの後ろ腰に金髪嬢ちゃんが跨がってるんだな。
例によって2人とも宙に浮いてやがる。
扉の辺りで少し沈み込んだのは、子亀が扉の枠で頭をぶつけないように親亀が屈んで避けたのか。
「むう・・・?」
「何なんだ? それは・・・」
俺とレイクスは森でも見た光景だから、「またやってんのか」と思っただけだが、見慣れていないらしいハインズさんとマルキオさんは渋い表情で唸った。
この2人、緊張感がねえからな。
「乗せて貰ってきたのよ!」
「・・・重すぎて歩くのが大変だったので」
答える2人の格好は、どこからどう見ても全身甲冑だな。
冗談みてえなミニサイズだけどよ。
“フルプレートアーマー”っつーんだっけか?
腿も脛も腰回りも装甲で固められてるのに、どうやって跨がってんだ? と構造を注視してみれば、股から尻の辺りには装甲がないのか。
そんな甲冑を着て、ご丁寧に兜まで被ってやがる。
2人の甲冑は色が少し違っていて、銀髪嬢ちゃんの方は銀色1色で、金髪嬢ちゃんの方は所々に真鍮っぽい感じの薄い金色で飾りが付けられている。
わざわざ色を変えているところを見ると、パッと見で2人を見分けられるようにしてあるのか。
ハインズさんたちの前に到着すると、金髪嬢ちゃんが銀髪嬢ちゃんに背中をペチペチと叩く。
「下ろして、下ろして」
「・・・あー、はいはい」
自分で下りるのかと思えば、銀髪嬢ちゃんが例の“魔力の手”とかで金髪嬢ちゃんを掴んだらしく、フワッと浮いた金髪嬢ちゃんがそっと床に下ろされる。
よほど重いのか、自分の足で床に立った金髪嬢ちゃんの足元が怪しい。
金髪嬢ちゃんが自力で立ったのを確かめてから銀髪嬢ちゃんもフワリと着地する。
こっちの嬢ちゃんもヤジロベエみたいにフラフラ揺れていて足元が怪しいな。
「まあ、まだ少し甲冑は早かったな。身動きも出来んようでは話にならん」
「まだ6歳だしな。仕方あるまい」
呆れ顔で言う前伯爵の辛口な評価に、目を細めて娘を見ているハロルドさんも同意する。
完全に子供に衣装を着せた七五三のノリだな。
「しかし、“次”は参戦させるのであろう?」
「ルナリアは本陣から動かさなければイケるか?」
目を細めながらも首を傾げるマルキオさんにハインズさんが意見を求め、マルキオさんが辛口な評価を口にする。
「万が一にも矢が届かぬとも限らん。本陣から動かずとも、身を守る意味で甲冑は必要だろう」
「ふむ。座っているだけなら出来るか」
何度も「本陣」って単語が出ているのだから、嬢ちゃんたちを戦場に出すつもりなんだろうな。
父親たちの評価を聞いたハロルドさんは思案顔だが、「戦場へ出さない」という選択肢はないらしい。
“地位有る者の責任と義務ノブレスオブリージュ”だっけか?
そういうヤツが有るんだろう。
こんな子供を戦場に出すのか? と考えちまうんだが、ここは日本じゃねえから常識が違う。
嬢ちゃんたちは、“名目上”とはいえ高位貴族家の当代当主だと何度も聞いているし、日本のモノサシで口出しするわけにも行かねえしな。
何ともモヤモヤするんだが、本人たちも嫌がる様子どころか怖がる素振りも見せねえ。
金髪嬢ちゃんは生粋の異世界人だから、戦場へ出ることを当然だと考えていても不思議はねえんだが、銀髪嬢ちゃんの方もこっちの世界の常識を完全に受け入れてるんだな。
馴染みすぎ、つーか、お前、順応力が高すぎだろ。
「フィオレの方はどうだ?」
「甲冑は無しの方が良いんじゃないか?」
銀髪嬢ちゃんに視線を向けたマルキオさんに、前伯爵が思案顔で返す。
甲冑なしってことは、いつもの軍服で参戦か。
「待て。そうも行くまい」
「魔法術師は最初に狙われる。それは分かっていよう?」
ハインズさんが異議を唱えて、マルキオさんも前伯爵を諭す。
現代の地球、つーか、100年以上も前から戦争ってのは動きやすい軍服でするもんだからな。
俺の目には軍服の方が違和感がねえと思うなぁ。
戦争で甲冑が衰退したのは、銃火器が発達して甲冑を貫通するようになったから、だったか。
世界の違い⑯です。
緊張感のない親子亀!
次回、戦争形態の違い!?




