世界の違い ⑮
「フィオレは“嘆きの祠”にも行きたいと言っていたな」
「あっ。迷宮なら僕も行きたいです」
思案顔のハロルドさんの呟きにアスクレーが躊躇いなく手を挙げる。
この坊主もブレねえな。
遠足気分ってわけじゃあねえんだろうが、本当に危険な場所だと分かってんのか?
アスクレーの申し出を微笑ましそうに見ていたレイクスも口を開く。
「フィオレ嬢からの要請も有ってね。僕らも協力することにしたよ」
「それは心強いな」
明確に参加の意思を表明したレイクスに、ハロルドさんの表情も幾分か和らぐ。
「何がどこまで分かるものかは調べてみねえと分かんねえが、やるしかねえだろうよ」
「ふむ・・・。迷宮か」
マルキオさんが難しい顔で唸る。
必要性は分かっていても、そうホイホイと乗れるようなもんじゃねえわなぁ。
孫と孫娘の両方を送り出すマルキオさんとしては悩ましいところだろう。
それを言うならハインズさんもハロルドさんも同じか。
本来だったら、危険な場所の調査なんてもんは大人の仕事だ。
そのために俺たちのような冒険者に調査依頼を出したわけだが、嬢ちゃんたちもアスクレーも行く気になっちまってる。
俺がハインズさんたちの立場だったら他の仕事を横へ置いてでも調査へ向かうんだが、気楽な会社員の俺と違ってハインズさんたちは為政者だ。
何やら忙しそうにしているところを見ると、自分たちでは行けねえ事情が有るんだろう。
嬢ちゃんたちが独自の戦力を持っていて、なおかつ、自由に動ける立場なことも判断を難しくする要因になるだろうなぁ。
諦めたように溜息を吐いたハインズさんが一同を見回す。
「本格的な調査となれば、いつまでも“渡河地点の迷宮”などと呼ぶわけにも行かんな。適当な名前は有るか?」
「この場にいる中で現地を知っているのはアスクレー1人だな」
ハロルドさんがアスクレーに目を向ける。
そういや、言い出しっぺの嬢ちゃんが着替えるのに、現地を知っている連中が全員嬢ちゃんたちに付いて行っちまってるんだったな。
「私は迷宮の入口で魔獣の死骸を調べただけで、迷宮の中には立ち入っていません」
集まった視線で意見を問われたアスクレーは首を振る。
ハインズさんたちが互いに顔を見合わせて、ハロルドさんが肩を竦める。
「立ち入ったことが有るのはフィオレとフレイアだけだったな」
「フィオレたちも、ほんの少し立ち入っただけではなかったか?」
この場で答えは出ないと気付いたようで、ハロルドさんが俺に視線を向けてきた。
「近く、テツ殿たちが迷宮の調査へ向かうのだろう? テツ殿たちが決めれば良かろう」
「了解した」
その新しく見つかったダンジョンの特徴を捉えた分かりやすい名前を付けりゃあ良いんだろ?
その程度ならお安いご用だ。
ハインズさんの隻眼が改めて俺に向く。
「テツ殿は王都へ戻るのだったな?」
「1度な。ドネルクが準備している迷宮の調査依頼を公式に請けておかなきゃなんねえ。1ヶ月ぐらいで戻って来られるとは思うが」
「僕は郷の動き次第かな。状況によっては、この町に残ることになるだろうね」
別行動の可能性を示したレイクスにマルキオさんが目を丸くした。
「連絡を取られたのか」
「首を長くして連絡を待っているだろうからね。すぐに返事が来ると思うよ」
レイクスは当然のことのように頷く。
そういや、サーレーンとタレースを送り出していたな。
あいつらは狩人を自称するだけ有って、森の歩き方や魔獣の躱し方を知ってる。
連絡役としては適任だろう。
孫2人を送り出した爺さんがレイクスからの連絡を待っているのは明らかだし、郷の連中を説得するにも情報は必要だ。
レイクスの護衛と連絡役を考えて最初から4人を付けたんだろう。
ただ、あの郷の連中は頑固だからなぁ。
森を出ろと説得するのも一筋縄じゃ行かねえんじゃねえかな。
ヒト族に対するエルフ族の嫌悪と疑念は根深い感じだし、どうなることやら。
レイクスの返事にハロルドさんが安心したような溜息を吐く。
「では、実際に調査を始めるのは、しばらく先になりそうだな」
「何か有るのか?」
気になる態度を見せたハロルドさんに理由を問う。
日にちが空きそうだと安心するってのは、おかしいだろ。
「隣国に動きが有る」
「動き? 戦争か」
追い返されても追い返されても、時候の挨拶みたいに攻めてくる敵国のことだろ?
そんな連中が何かゴソゴソやってるってことなんだろうが、忙しそうにしていたのは、この件か。
「心配ない。いつものことだ」
面倒くさそうにハインズさんが肩を竦める。
つい先日も攻めてきて、蹴散らして追い返したばかりだったか。
勝てる自信は有りそうなんだが、そんなに頻繁に攻めてこられるものなのか?
「戦争」と言っても、悪ガキどものケンカと違ってマジの殺し合いなんだろうし、何が常識なのか、ちょっと感覚が分かんねえな。
そこで気付く。
嬢ちゃんたちは今、着替えに行ってたな。
「それで新しい甲冑を?」
「たまたまだな。ルナリアたちの甲冑が出来上がってきたところへ、アホどもが箔付けのために首を差し出しに来るらしい」
心底、嫌そうな顔で、ハロルドさんが首を振る。
こんなに直ぐに再び攻めてくるとはハロルドさんたちも考えていなかったんだろう。
うへぇ。マジで面倒くさそうな連中だな。
ハロルドさんたちの嫌気が俺にまで感染したところへ、廊下から賑やかな声が聞こえてきた。
世界の違い⑮です。
ダンジョンの命名!?
次回、七五三!?
※ちょーっとだけ遅刻です!




