世界の違い ⑧
「興味あるなぁ、と思って」
「分かった分かった。すでに依頼は受け付けたとドネルクが言ってたし、王都へ戻れば俺たちに依頼が回って来るだろうよ」
コイツは・・・。
ここで「止めとけ」なんて言ったら、嬢ちゃんたちを焚き付けて一緒にダンジョンへ突撃し兼ねねえからなぁ。
無駄に行動力が有るから油断できねえ。
コイツの身に何か有ったらケイナが悲しむ。
爺さんたちにも顔向けできねえし、俺たちも付き合うしか選択肢がねえ。
いやまあ。ドネルクの手前、調査依頼を請けることになるのは確実だし、ケイナも砂糖に期待しちまってるし、俺自身もダンジョンに興味がねえわけじゃねえんだ。
そこそこ強えトンボの魔獣が出るってんだから、熊とグリフィンのギャップをトンボで埋められる可能性が有る。
俺がコイツに言いてえのは、俺たちが居ねえ間にダンジョンへ突撃するんじゃねえぞ、ってことだ。
事前情報がなく詳細が分からねえ以上、最大戦力で臨むべきだ。
戦力を分散して各個撃破されたりすると目も当てられねえ。
分かってんのか分かってねえのか分からねえんだが、俺が乗り気じゃねえと思ったのか、レイクスは切り口を変えて説得のようなことを言い出した。
「迷宮がどういうものなのか、複数の迷宮を調べれば、この採掘場の見通しも立つんじゃないかな」
「そりゃまあ、サンプル数が多い方が仮説も立てやすいだろうよ」
そのサンプルがねえから、新しい方のダンジョンへ無策に突入するんじゃねえかと危惧してるんだが、お前、分かってんのか?
「さんぷる?」
「見本って意味だ」
しまった。サンプルって意味さえ分かっていなかった。
こっちの世界でも通用しそうな単語に言い換えてみたんだが、レイクスの頭は傾いたままだ。
「みほん?」
「え~っと・・・。他に何て説明すりゃ良いんだ?」
助けを求めて嬢ちゃんに目を向ければ、怪訝な顔をされた。
それでも、ちゃんと助けてくれるようだ。
「・・・標本ですよ」
「ああ。そうなんだね」
嬢ちゃんの言い換えは理解できたようで、レイクスはアッサリ納得した。
137歳だったかのオッサンをアッサリと撃墜した嬢ちゃんが真剣な顔になる。
「・・・この採掘場はウォーレス領の重要な財源なんです。政治的な交渉の強力な手札でも有ります。採掘場の迷宮化が本格的に進んで渡河地点の迷宮みたいに干渉できなくなると、岩塩の採掘が出来なくなって、もの凄く大きな悪影響になりますから、他の迷宮との違いや対処方法は研究しておきたいです」
なるほど? 俺が思っていた以上に重要な拠点ってわけだ。
ケイナたちの安定した未来を脅かす可能性が有るなら、丸裸にして危険の芽を摘んでおかなきゃならねえ。
「そりゃあ大問題だな」
「確かに大変だ。僕も解明に協力するよ」
「・・・お願いします」
ホッとしたような表情を浮かべたのも束の間、嬢ちゃんが難しい顔で唸り出す。
「・・・むむ」
「おい。嬢ちゃんよ」
訊いておきたいことが有って声を掛けたんだが、答えが返ってこねえ。
「んん? おーい」
どうなってんだ?
今の今まで普通に喋っていたのに、全く耳に入っていねえみたいに返事もしなくなったぞ。
ボーッと宙を見上げて身動き1つしねえ。
目の前でヒラヒラと手を振ってみたり何度も呼びかけていたら、金髪の嬢ちゃんがケイナの向こう側からヒョコッと顔を出した。
「どうしたの?」
「いや。嬢ちゃんが反応しなくなってな」
銀髪嬢ちゃんの横顔をヒョイと覗き込んだ金髪嬢ちゃんは、達観した顔で小さく肩を竦めた。
「いつものことだから、心配ないわよ」
「ええ・・・? これ、いつもなのか?」
マネキンみてえに瞬きもしてねえんだが、これが普通って怖くねえか?
変に顔立ちが整ってるから余計に、蝋人形か呪いの人形か何かみてえに見えるんだが。
「何か考えてるんでしょ。んん? 考えを整理してると言った方が良いのかしら」
「へ、へぇ。そうなのか・・・」
さすがは姉妹だな。まるで動じていねえ。
このまま放っておくわけにも行かねえだろ、と思ったら、メイドの1人がスッと嬢ちゃんの傍へ守るように立って、「心配すんな」と言わんばかりに首を振った。
任せろ、ってか? ヨシ。任せた。
「ルナリア様」
「なにー?」
別のメイドに呼ばれた金髪嬢ちゃんも、銀髪嬢ちゃんを放置して行っちまった。
元々、このウォーレス領ってのは子供に対しての扱いが雑なイメージなんだが、子供同士でも雑なのな。
なんだ? この昭和臭。
昔の日本も“放っておいても子供は育つ”って考えだったらしいからな。
そう考えれば、別におかしなことじゃねえのか。
俺も一人娘のヒナの送り迎えを当たり前にしていたから、大人の監視下に子供を置くことを疑問に思っていなかった。
でもよ。よくよく思い返してみれば、俺がガキの頃は放ったらかしというか、俺んちのクソ親父は働きもせずに生活保護を受給して、小学生の俺をバイトに行かせたカネを巻き上げては、朝っぱらから安酒で飲んだくれてやがったんだよな。
あんのクソ親父め。
何とかいう肝臓が破裂して血塗れで死ぬ病気でサッサとくたばってくれて助かったが、マジでロクな親父じゃなかった。
俺は小学生の頃からガタイがデカくて中高生と見分けが付かなかったから、歳と学校名を誤魔化せば、バイト先には困らなかったしな。
俺が特殊な環境で育っただけで、ヒナには普通の環境を与えていたつもりだったんだが、俺ってヒナを過保護に縛ってたのか?
マジかぁ・・・。それ、滅茶苦茶ショックなんだが。
子育ての在り方に悩んでいたら、レイクスが俺の顔を覗き込んできた。
世界の違い⑧です。
特殊環境!?
次回、旅立ちの準備!?




