世界の違い ⑤
「・・・スネエエエ―――ク!」
「フグッ!? んんん~!! んんんん~!!」
何やってんだ? あの嬢ちゃん。
背後から金髪頭の口を塞いで脇腹を鷲掴みにしてやがる。
スネーク? あー、アレか。
ダンボール箱を被って敵基地に潜入して敵兵を殺すゲームか何かのキャラクターに、そんな名前のが有ったな。
敵基地に潜入してるのに自分の名前を叫ぶ破壊工作員がどこにいるんだよ。
「・・・起きた?」
「起きたわよ・・・」
抵抗する気力も体力も持って行かれたらしい金髪頭が荒い息でグッタリすると、銀髪頭がようやく攻撃を止めた。
「・・・シカに変化が有るって」
「ほんと!?」
子供ってのは意外とスタミナが有るんだよなぁ。
状況変化が起こっていることを伝えられると、金髪頭がアッサリと復活した。
お前、ピンピンしてんじゃねえか。
先に目を覚ましたケイナと一緒になって嬢ちゃんたちが囲いの底を覗き込む。
「あの光って」
「・・・ご祈祷のときに見た光だよね」
嬢ちゃんたちの見立ても前伯爵たちと同じか。
ケイナも驚きに目を丸くしている。
「あれが・・・」
「・・・ふむ」
何やら考え込んでいた嬢ちゃんがレイクスへ顔を振り向けた。
「・・・レイクスさん。あの光を“視て”貰えないかな?」
「アレをかい? 良いとも」
嬢ちゃんの要求に応じたレイクスが、“特別な目”で漂う光の粒を凝視する。
おお。レイクス、お前。“目”を使ってるときに目の色が少し変わるのは気付いてたけどよ、ほんのり目が光ってるぞ。
しかも、暗闇の猫みたいな反射光じゃなく、どう見ても目が発光してる。
自分の目が発光して、その光が反射した物体の姿を視神経が捉えるのなら、お前、懐中電灯や投光器なんて要らねえんじゃねえの?
お前が作ってた投光器の魔法道具って、お前にとっては無意味じゃねえか。
横から話の腰を折るわけには行かねえから今は黙ってるが、暗闇で本当に照明が要らねえのか後で訊いてみよう。
光の正体を見極めたレイクスが納得した様子で頷く。
「なるほど。アレは“魔素”だね。かなり濃いよ」
「・・・ありがとうございます」
レイクスに礼を述べた嬢ちゃんは、難しい顔でブツブツと呟いてやがる。
もう一方のレイクスはサッサと穴底を覗き込む作業に戻った。
嬢ちゃんは呟きながら夜空を見上げた。
何を見てんだ? アレ。月?
月と囲いの内側を嬢ちゃんは何度か見比べている。
月と鹿に何か関連が有るのか?
月に鹿とか、スレたオッサンが取り合わせから連想するものと言えば花札ぐらいだな。
月と鹿の組み合わせの“役”は俺の記憶にねえんだが。
「あっ! あそこ!」
「「「「「ええっ!?」」」」」
周りの様子なんて目に入らない様子で我が道を行っていた坊主が、囲いの底を指して大声を上げた。
釣られて坊主が指し示す先を見た全員が驚きの声を上げる。
俺も釣られて穴底を覗き込んだんだが、何だ? ありゃ。
加齢で目が疲れてんのかと手の甲で目を擦って、もう一度覗き込み直したんだが、見間違いじゃねえな。
「・・・増えた・・・? ううん。分裂した?」
「うん。分裂してるわ」
「こんなことが・・・」
嬢ちゃんたちも面食らっているが、月光を浴びた鹿の姿が2重にブレたと思ったら、1頭の鹿が2頭に分裂しやがった。
それも、1頭だけじゃなく、次々と分裂を始めやがった。
いやぁ・・・。アレを本当に「分裂」と言って良いのか?
牡鹿と牝鹿に分裂したり、牝鹿と子鹿に分裂したりしてるんだが。
しばらく凝視していたが、分裂に法則性が有るようには見えねえな。
「目がおかしくなりそう、って言うより、頭がおかしくなりそう」
「本当に、そうですね」
金髪の嬢ちゃんの独り言にケイナが答えた。
みんな目を擦ったり頭を振ったりと自分が目撃したものの信憑性を疑っている。
自分の目で目撃した以上、何かのマジックでもねえ限り、信憑性も何も有ったもんじゃねえんだが。
嬢ちゃんも深刻な顔で銀髪頭を傾げてやがる。
「・・・どういう理屈で―――、って考えられる原因なんて魔力しかないよね」
「“魔獣は魔素から生まれ出ずる”、ですか」
嬢ちゃんの考察に、何かの1節らしきものを口に出したケイナが首を傾げる。
ケイナと一緒に嬢ちゃんも銀髪頭を傾げる。
「・・・アレって食べて大丈夫なんだろうか」
「今さらじゃない?」
「・・・それもそっか」
金髪嬢ちゃんのツッコミに、銀髪嬢ちゃんはアッサリと思考を放棄した。
世界の違い⑤です。
分身の術!(違
次回、拘り!?
※ 今日もちょっと遅刻です!




