世界の違い ④
「フレイア様」
坊主以外の子供たちが眠ったことだし、と、しばらく緊張感が緩んだ空気で大人たちが雑談していると、前伯爵の側近が囲いの底を指した。
一瞬でピリッと空気が引き締まり、注意喚起された前伯爵も囲いの内側を覗き込む。
「始まったか?」
「お? 何だ何だ?」
釣られて俺たちも囲いを覗き込めば、暗闇に包まれた穴底に今にも消え入りそうな光点が漂っているように見える。
何だ? ありゃ。
目を覚ましている全員が、暗闇に目を凝らしている。
緑色のようにも黄色のようにも赤っぽいように見える光点は、色が定まらないというよりも見え方によって色が違って見えるようだな。
「光・・・? どんどん数が増えてるね」
「蛍・・・? いや、違うな」
例によってレイクスが耳慣れない言葉に首を傾げる。
「“ほたる”って、何?」
「日本固有の小さい虫だ。んん? 固有じゃなかったっけか。いやいや。光るのは日本の蛍だけじゃなかったか?」
どうだったっけか。
外国人がわざわざ日本の田舎まで蛍を見に来るってニュースで見た気がするから、日本でしか見られねえんだろう。
「ふぅん。そういう生物が居るんだね」
「悪ィな。あんまり詳しくねえんだ」
俺のいい加減な記憶を元にした情報では分かりにくかったらしいレイクスは、重要ではなさそうだと判断したのか光を観察する作業に戻った。
マジで数が増えてやがるな。
怪奇現象? 異常現象か。
頼りなく小さな光源の見た目から蛍かと疑ったんだが、フワフワと漂っている光の動きは生物的なものではなく、室内に漂う意思のない埃みてえだ。
「ご祈祷のときと同じですね」
「前にも見たことが?」
何て名前だったか、感想を零した前伯爵の側近の1人に訊けば、前伯爵が答える。
「ああ。新年のご祈祷でな。私たちが何かを言ったわけではないんだが、市井では“フィオレが精霊を呼んだ”ということになっている」
「噂で聞いたヤツだな。コレのことか」
ほーん。嬢ちゃんが“精霊姫”とか呼ばれてるってヤツだろ。
この国の宗教は精霊信仰だと聞くしな。
そりゃあ、こんなのを見れば精霊だろ思うだろうし、嬢ちゃんが何かをしたタイミングで起これば崇拝対象にされるだろうな。
熱心にレイクスが見ていると思えば、エルフ族も精霊信仰を持ってるんだったな。
こうして喋っている間にも、光の数は増え続けている。
「不思議な光景だね」
「お前らでも不思議なのか」
「聞いたことのない現象だよ」
訊き返せばレイクスが首を振る。
ほう。てことは、俺たちは相当、レアな体験をしてるってことか。
ロマンチックなんて言葉とは縁遠い俺でも、綺麗というか、幻想的な光景だと思うぐらいだしな。
ここに来て前伯爵たちが娘たちの存在を思い出した。
「おい。フィオレたちを起こしてやれ」
「承知しました」
メイドの1人が命令を受諾すれば、ほぼ同時に別のメイドが毛布に包まっているケイナたちの傍へと歩み寄る。
このメイドたち、見事な連携だな。
チームプレイにしても、よほど互いの呼吸や思考を分かり合っているんだろう。
嬢ちゃんたちが仮眠に入って2時間―――、3時間ぐらい経ってるかもな。
かなり遠くから鐘の音が聞こえたのも2時間ぐらい前のはずだ。
「フィオレ様。起きてください」
「・・・んにゅ? あ。ハイ」
メイドに揺り起こされた嬢ちゃんが眠そうな声で返事をしている。
「変化が有ります」
「・・・・・・変化? ―――ハッ。変化!」
頭が覚めた嬢ちゃんが大きな声を上げた。
まだ寝てんのか。
今が生態観察中だって忘れてんじゃねえか?
メイドはケイナの肩にも手を伸ばす。
「ケイナ様も起きてください」
「ん・・・。はぁい」
ケイナもさすがに眠そうだな。
本格的に目が覚めてきたらしい嬢ちゃんが、相方の嬢ちゃんの肩を揺する。
「・・・ルナリア! 起きて!」
「寝かせたままにしておきましょうか?」
「・・・いや。大丈夫」
全く反応を返さず熟睡している金髪の嬢ちゃんの様子にメイドが気遣いを見せたが、銀髪嬢ちゃんは首を振った。
何を考えたのか、嬢ちゃんは相方の肩に回した手で、相方の口を手のひらで塞いだ。
世界の違い④です。
デキるメイドたち!
次回、変化!?
※ 今日も大遅刻です!
スマソ!




