世界の違い ③
「しかし、どうしたものか。時間が掛かりそうだな」
心配そうに零す前伯爵の考えていることは想像が付いちまった。
温暖な気候の国だから、そんなに寒くはないんだが、朝方は多少冷えるからな。
子供を持つ親の心境とすれば、子供に風邪はひかせたくねえ。
しっかりと睡眠を取るのも子供の仕事だしな。
暖かい布団に突っ込んで寝かせておけば回避できるリスクなら、保護者としては、そうさせるべきでもある。
視線がケイナに向いたことからレイクスも同じことを心配していることは分かるんだが、レイクスはこの場にいる理由を優先した。
「交代で仮眠を取りながら、ゆっくり観察するしかないだろうね」
「やはり、そうなるか」
いつ何が起こるか分からないものを観察する以上、取捨選択は必要になる。
となれば、答えは1つだ。
「毛布を持ってきますか?」
「朝方まで観測を続けるのでなければ必要あるまい?」
「毛布に包まっていると、いざというときに動きを阻害されますしね」
俺と同じ応えに至った側近のお伺いに、前伯爵は不要と判断しやがった。
ちょっと待て。
微妙な気温だし難しい判断だとは思うが、判断の根拠になったのが「動きを阻害」ってのがいただけねえ。
この前伯爵、本質的に善人だし、1本筋が入った姉ちゃんなんだが、ちょっとズレてんだよな。
そいつは軍人の発想だろう。
側近の姉ちゃんも手のひらを返して前伯爵に同意してんじゃねえよ。
戦場の常識を知る軍人としては正しい判断なのかも知れねえが、この場は戦場じゃねえぞ。
仕方ねえ。
「とはいえ、子供たちに風邪をひかせるわけにも行かねえだろ」
あんまり口出ししたくなかったんだが、苦言を呈すれば前伯爵たちが顔を見合わせる。
戦争に頭を汚染されてやがる前伯爵たちの目が娘たちへ向いた。
そこへ、いつも嬢ちゃんの傍に付いているメイドの1人がスルッと割り込んできた。
「私が調達して参ります」
「そうだな。頼む」
アッサリと前伯爵が判断を覆して、少し安心する。
このウォーレス領ってのは何もかもが戦時を想定してやがるから、生存性って1面では安心できるんだが、別の1面では大雑把で雑すぎる。
その雑さが如実に出ている1面が子供の扱いだ。
この嬢ちゃんたちなんて、魔獣が出る森へ毎日子供たちだけで出掛けさせているんだしよ。
本人たちが戦争に参加する気マンマンで、親たちも認める方針だってのも面食らった。
そりゃあ、貴族って特殊な立場からすれば仕方のねえ事情も有るんだろうし、部外者の俺がそこに踏み込むつもりはねえよ。
嬢ちゃんたちは貴族家の当代当主だっていうしな。
”メシさえ食わせておけば子供は勝手に育つ”ってのが昔の日本でも常識だったし、過保護にしろと言うつもりもねえんだが、もうちょっと、こう、病気や怪我のリスクを考えても良いんじゃねえか?
これも日本と異世界の常識の違いってヤツか。
俺も人様に説教できるご立派な人間じゃねえんだが、口出しする必要が有りそうなんだよなぁ。
あっという間に毛布を抱えたメイドが戻ってきて嬢ちゃんたちに被せる。
何だよ。気持ち悪ィな。
金髪の嬢ちゃんごと毛布を被せられた銀髪の嬢ちゃんが、チラッと俺を見て、口元にニヤッと笑みを浮かべやがった。
「フィオレ。何か変化が有ったら起こしてやるから、お前も仮眠を取っておけ」
「・・・はーい。ケイナちゃんも一緒に仮眠しよう」
母親の指示に返事して、足場の手すりを背もたれに金髪頭を下ろした銀髪頭がケイナを手招く。
誘われたケイナは迷いの有る目を俺に向けてくる。
「でも・・・」
「・・・相手は魔獣だし、寝られるときに寝ておくのも体力温存のためだよ」
俺のセリフを銀髪頭に取られちまった。
この嬢ちゃんのことだから、母親を諫めてくれた借りを返したって感じか。
まあ、兎も角だ。
俺もケイナに仮眠を勧めようとしていたことは間違いねえんだ。
嬢ちゃんに乗っかる格好になっちまったが、ケイナの迷いを取り除いてやらねえとな。
「そうしとけ。ちゃんと起こしてやるから」
「ケイナたちは僕らが守るから安心して良いよ」
「分かりました」
さらに乗っかってきたレイクスにも諭されて、ようやくケイナも折れた。
毛布の内側にケイナを受け入れた嬢ちゃんが坊主にも目を向ける。
「・・・お兄様もどうですか?」
「ん? 僕は良いよ。変化を見逃したくない」
「・・・そうですか」
坊主の返事に嬢ちゃんが退いて毛布に潜り込む。
アッサリしてんな、おい。
囲いの底へ目を向けたまま塩味で返す坊主もだが、平然と仮眠に入る嬢ちゃんも大概だぞ。
50年ぐらい寄り添った夫婦みてえなアッサリ具合だな。
これで、そんなに仲は悪くなさそうだってのが不思議でならねえ。
世界の違い③です。
ズレ!?
次回、異常事態!?
※ 今日もちょっと遅刻です!




