世界の違い ①
「ちょっと眠いかも・・・」
「・・・何か有ったら起こしてあげるから、寝てて良いよ」
「うん」
眠そうに目を擦っている金髪嬢ちゃん銀髪嬢ちゃんを背負い、階段を上るのかと思えば、一足飛びに空を飛んで足場の上へと上がっていった。
便利そうだな。
嬢ちゃんたちの護衛役を務めているメイドたちや女性騎士たちが、嬢ちゃんたちを追いかけて階段を上っていく。
嬢ちゃんが自分の「必殺技」と説明した「魔力の手」ってヤツらしいんだが、何の予備動作もなくヒューッと真上へ飛んでいく姿は超能力というか、マジで飛んでるようにしか見えねえんだよな。
ゲームやアニメでは見慣れた行動でも、現実世界で起こっていることだと考えれば現実感がなさ過ぎる光景で目を疑っちまう。
実際、俺たちはポカーンと口を開けたバカ面で満天の夜空を背景に上空へ消えてい行く嬢ちゃんたちの姿を地上から見送っていたわけなんだが、首も痛くなるんだから、いつまでも頭上20メートルの高さに有る足場を見上げちゃいらんねえ。
「俺らも行くかぁ」
「あ。はい」
ケイナたちが“光”の術式を頭の上に浮かべてくれて階段を上る足下を照らす。
人間の目ってのは不思議なもんで、全く照明がなければ目が慣れて意外と星明かりや月明かりでも見えるものなんだが、照明があると照明の方に目が慣れて暗がりが見えなくなっちまうんだよなぁ。
なら、照明がなくても平気なのかと言えば、照明が有ると無いとじゃ照らし出されている場所に限っては有る方が間違いなく歩きやすい。
ただ、暗い部分が見えなくて蹴っ躓きやすくなるだけだ。
うちの獣人族連中は野生の本能なのか危なげねえ足取りだから、一番足下が危なっかしいのは俺だな。
結局は足下に注意して下を向いて歩くしかねえんだから、どっちが良いのかは難しい判断だ。
一般的なビルやマンションで言えば7階建て相当の高さまで階段を上りきれば、金髪嬢ちゃんを背負った銀髪嬢ちゃんが待ち構えていた。
金髪嬢ちゃんは銀髪嬢ちゃんの肩に頬を乗っけて気持ちよさそうに眠ってやがる。
ケイナも少し眠そうなんだが、銀髪嬢ちゃんはぜんぜん眠そうじゃねえな。
「フィオレは眠くないのですか?」
「・・・私はちょくちょく勉強で夜更かしすることも有ったからね。日付が変わるぐらいまでは平気だよ」
ケイナに訊かれた嬢ちゃん本当に平気そうに笑ってやがる。
「勉強ですか?」
「・・・文字とか地図とか歴史とか色々とね。早く覚えるのにルナリアが寝てから勉強してたんだよ」
へぇ。この嬢ちゃんも努力してたんだな。
外側が6歳でも中身は30歳超えと言っていたし、中身の年齢を考えれば何の不思議もねえんだが、本来なら6歳になるまでにゆっくりと覚えていく知識を急いで覚えるわけだからな。
相応に努力して追いつくしかねえんだ。
嬢ちゃんの答えに感心したケイナが俺に目を向けてくる。
「そう言えばテツさんも文字の勉強をしていましたね」
「文字が読めねえと依頼書も読めねえからな」
30歳を過ぎれば記憶力も落ちてくるもんだが、社会生活的に生きるか死ぬかだ。
そりゃあ必死にもなるってもんよ。
俺の答えに嬢ちゃんも然り顔で頷いている。
「・・・そうそう。状況を把握しようにも、文字が読めないのは致命的だものね」
「だよなぁ。宿屋の看板も読めねえんだぜ? 読める文字が1文字もねえのが、これほど不便だと思ってなかったぜ」
ミミズが地面から顔を出したような南アジア系や中東系も文字も全く読めなかったが、こっちの世界の文字も最初は同レベルで読めなかった。
冒険者ギルドで絵本と文字練習帳のセットを買ってミミズ文字の正体が平仮名だと気付くまでは、習得できる気がぜんぜんしていなかったからな。
気付いてからは五十音表と見合わせて記憶するだけだから一気に勉強は進んだ。
今は依頼書の内容も大体は間違わずに読み取れてる。
大昔の勇者がこっちの世界の文字や言語と混ぜて文字を統一し、また別の勇者が本にまとめてくれたようだが、マジで偉業だぜ。
心の底から尊敬するし感謝している。
ウンウンと頷いていた嬢ちゃんが何かに気付いた様子で首を傾げる。
「・・・言葉も全く違うのにケイナちゃんたちとは話せたんだね?」
「ケイナんちの爺さんが翻訳魔法を掛けてくれたんだよ。今は教材が手に入ったから発音も練習してるぞ」
何かと思えば言葉の問題か。
魔法の理屈は今でもよく分かっちゃいねえんだが、あの翻訳魔法にも思い切り助けられたな。
そんな魔法を作った昔のエルフ族もスゲえわ。
今現在は言い回しが知らねえ単語だったりしたときに発動するだけだが、完全に翻訳魔法を卒業できたわけじゃねえ。
でもまあ、俺にしちゃあ上出来だろう。
「・・・い、良いことだよ。大切な人たちとは魔法を挟まずに話したいものね」
「そうだな」
嬢ちゃんが目を丸くしたり難しそうに眉根を寄せたりと忙しく表情を変えていたが、言ってることには素直に同意する。
コミュニケーションってのはマジで大事だぜ。
「大切な人・・・」
小さな声で何かを言ったケイナの声を俺は聴き取れなかったんだが、ちゃんと聴き取れたらしい嬢ちゃんはニマっと笑った。
こういうときはツッコんで訊いちゃいけねえ。
まだ小さくても女だからな。
危険物センサーは反応しちゃいねえが、俺の勘が”触れる”なと危険警報を発している。
女同士の話題に首を突っ込むとロクな結果にならねえもんだ。
嬢ちゃんもケイナの独り言には触れずに囲いの向こう側を覗き込んだ。
「・・・む。見えないな」
不満そうな嬢ちゃんの独り言に俺たちも囲いの向こう側を覗き込んでみる。
囲いの向こう側も垂直に落ち込んでいて、20メートル下の穴底には昼間見た鹿がうじゃうじゃ居るはずだ。
予想通り、真っ暗だな。
星空へ上がってきた月はまだ低い位置で月光がテラス角度が浅い。
前伯爵たちが階段を上がってきて、母親の姿に気付いた嬢ちゃんが訴える。
世界の違い①です。
触れてはいけない女性の会話!
次回、月光!?
※ 遅刻です!
サーセン!




