南の町 ㊹
「ばくだん、って?」
「ん? ああ。爆発する“弾たま”で爆弾と呼ぶんだ。弾ってのは弓なんかの武器で弾き出す礫つぶてって意味だ」
俺の説明でも概念は想像できたようで、レイクスが頷く。
「爆発かぁ。要は破裂だよね? どのぐらいの力で破裂させる必要が有るんだろう?」
「・・・破片を組み合わせて回路を復元できないほど粉々にならないと、刻印術式を盗まれるでしょうね」
なかなか要求水準が高いな。
嬢ちゃんが提示した条件は、木っ端微塵にするレベルのものだ。
地球で世界一の軍事超大国と言われている国の軍隊でも最先端技術の情報保全には腐心し続けていて、敵地で不時着した航空機や擱座した戦車を自分で爆破したりする。
それでも木っ端微塵とまでは行かないのが爆破処理で、上手く壊れたようには見えねえ映像や画像が報道されていた。
破片からでもパズルのように組み合わせてリバースエンジニアリングしようとするのが最先端技術ってもので、1年後ぐらいに敵国側がそっくりな最新兵器を発表したりもしていた。
死霊無線機の肝になる部分は幽霊だから、まだマシなんだが、クルマは難易度が高えな。
金属の塊であるエンジンブロックを木っ端微塵にしろってんだろ?
綺麗に破壊するのは想像以上に難しいものらしくて、軍事超大国だって手榴弾を改良し続けていたはずだ。
まあ、言いたいことは分かるんだよ。
破片が飛び散って回収不能になるか、室内で分解作業をするなら建物ごと爆散するレベルじゃねえと、破片を拾い集めてパズルゲームを始められちまう。
素材だって破片の現物が目の前に残れば解析するのが普通だろう。
つまり、破片も遺さねえほどの大爆発をご所望ってわけだ。
「ははぁ。そんな感じかぁ」
嬢ちゃんの要求と俺の反応に、不穏なものを感じ取ったらしいロブウッドが警戒を強める。
俺ではなく設計者のレイクスに顔を向けて確認する。
「あの図面のクルマってヤツは、何の素材で作るつもりなんだ?」
「強度を考えると金属の鉄になるだろうね」
レイクスの答えにロブウッドが渋面になる。
「鉄を粉砕するほどの爆発となると相当な威力が必要じゃねえか?」
「だよね」
具体的な指摘を受けたレイクスも表情が難しくなる。
マジで死活問題だからな。
嬢ちゃんが神経質になるものも分かるし、出来るだけ長く情報を秘匿して優位な状況を維持したいのは俺も同じだ。
ただ、上手く破壊できるかの研究以前に、そもそも“爆破できるのか?”って問題がある。
レイクスの認識は「破裂」だからな。
「爆破」とはレベルが違うんじゃねえかと不安になる。
いやまあ、この場で悩んでも仕方ねえな。
爆破しようにも、“エンジンを開発できるのか?”って問題を先にクリアしねえと、爆破するエンジンがねえ。
「まあ、具体的な方法は、ちょっと考えるわ」
「・・・私も良い案を思い付いたら相談するよ」
「分かった」
嬢ちゃんの方も妙案が有るわけじゃなかったようだな。
俺が提示した棚上げに嬢ちゃんもすんなりと応じた。
俺たちが“捕らぬタヌキ”について話し合っている間もコツコツと試行錯誤を重ねていたメイドたちが、先んじて“魔石使用法”とやらに成功した。
余裕をブッこいていて置いて行かれたレイクスとロブウッドも、手にした魔石と真剣に向き合い始め、しばらく苦戦した末に成功させた。
これで魔法使い組は全員が「底無しの魔素」を手に入れたわけだ。
続いて“魔力の手”とかいう嬢ちゃんの奥の手を教え始める。
ここまでを見ていても、嬢ちゃんが教えている技術は独特なもので、発想から特殊なんだろうってことは理解できた。
しばらく教えれば習得できるんだから、発想は特殊でも技術そのものの難易度はそこまで高いものではないんだろう。
こっちの世界の現地人と地球人とでは、ものの見方―――、常識が違うんだろうな。
切り口を変えることによって技術を発達させたり高性能化させるのは、日本人の得意分野なんだっけか。
そのこともスゲえんだが、やっぱり驚かされるのは、自分の奥の手を教えることに迷いを持たねえ嬢ちゃん自身だ。
欲がねえというか、マジで特殊な嬢ちゃんだな。
レイクスたちがウンウンと唸っているのを眺めていると、遠くから前伯爵のよく通る声が飛んできた。
「フィオレ! ルナリア!」
「・・・あ。お母様。お婆様たち」
声を掛けられた方の嬢ちゃんたちは、側近たちを引き連れた前伯爵の姿を認めてパッと表情を明るくした。
金髪の嬢ちゃんもフィティオスたちへの魔法教室を切り上げて戻ってきた。
前伯爵たちの姿が見えねえと思っていたが、ありゃあ坑道へ入ってたのか?
前伯爵たちに続いて、老婦人たちも崖の足下に空いた横穴から出てきた。
「セリーナ。お茶にしましょうか」
「ええ。狭苦しい坑道は肩が凝っていけないわ」
先々代の領主夫人たちは肩を鳴らしながら、連れだってどこかへ歩いて行く。
その背中を見送った前伯爵たちは嬢ちゃんたちを目指して歩いてくる。
坑道経験者としちゃあ、老婦人たちの言い分は心の底から理解できちまうな。
コウモリ狩りを思い出したらしいケイナも嫌そうな顔になっている。
坑道ってのは天井が低くて暗いんだから、そりゃあ肩も凝るわな。
南の町㊹です。
自爆談義!
次回、魔法!




