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オジサンはお家に帰りたい ~ 粉砕!! 異世界迷子オジサン  作者: 一 二三


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南の町 ㊷

「・・・だったら人を育てるしかないね」

「ヒト族に儂らの技術を教えるのか? それ以前に嬢ちゃんよ。一人前の職人ってのは、今日明日で育てられるもんじゃねえんだぞ」

 打開策を提示した嬢ちゃんにロブウッドが厳しい目を向ける。


 その声にも隠しきれない棘が感じられた。

 少しばかり大人気ねえが、無理もねえな

 。ロブウッドは娘のリットまで含めてヒト族に何もかもを奪われるところだったんだ。


 嬢ちゃんのことは嫌っちゃいねえ様子なんだが、嬢ちゃんもヒト族だ。

 俺もヒト族だが、ロブウッドのヒト族に対する不信感は根深いものが有る。

 向けられたネガティブな反応にも、嬢ちゃんはニンマリと目を細めて声を潜める。


「・・・一人前じゃなくて良いんだよ? むしろ、一人前になられる方が困るし」

「なに?」

「どういうこと?」

 目を丸くした頑固オヤジと変わり者エルフが悪巧みに引き込まれる。


 チョイチョイと小さく手招きされて頭を寄せ合う。

 この嬢ちゃん、機転が利く上にアイデアが面白えんだよな。

 一緒になって首を突っ込んじまうのだから、俺も引き込まれちまってるんだろう。


「1人1人は決まった1つの部品だけ作れれば良いんだよ。それ以上の仕事が出来るようになると、その人が敵に寝返るだけで技術が漏れちゃうから」

「ははぁ。“分割して統治せよ”か。工場制にでもすんのか?」

 思い当たることを口に出せば、嬢ちゃんが頷く。


「・・・生産する上で機密情報を守るには、それが一番だから」

 確かに、その通りだな。

 地球の現代社会でも、大抵の職種では“職務の専業化”が行われている。


 言い方は“プロフェッショナリズム”でも“餅は餅屋”でも何でも良い。

 従業員には“決まった範囲の仕事”しかさせねえんだよ。

 専業化による効率化って美名は聞こえも良いし、実際に効率的な面は有る。


 だが、経営統治という切り口で見れば違った側面が見えてくる。

 それが“機密保全と人材流出阻止”だ。

 どれだけ優れた技術を持つ専門職でも、それだけで企業は成り立たねえ。


 “種銭”を持っている奴がいて、仕入れルートを持っている奴がいて、加工技術を持っている奴がいて、販売ルートを持っている奴がいて、経理処理が出来る奴がいて、財務管理が出来る奴がいて、複数分野の専門職を集めて1つのチームを作ることが出来て、はじめて組織は回る。

 それが企業ってもんだ。


 もちろん、複数分野の専門職を兼ねられる優秀な奴もいるだろう。

 個人商店や1人親方、あるいは1人社長が、その最北だ。

 子供の頃からメチャクチャ勉強して、良い学校へ入って最先端技術を持つ大企業に就職したとしよう。

 それはそれで個人レベルの偉業ではある。


 しかし、企業経営者から見れば、機密情報にあたる独自技術も専門技術を持つ優秀な人材も“社長業”が取り扱う“商品”に過ぎねえんだ。

 機密漏洩と人材流出を防ぐには、どうすれば良い?

 細分化した専門分野しか知らねえ人材に分断―――、分割統治しちまえば独立起業できなくなる。

 かつては独立した工房を持つ親方だったというロブウッドが首を傾げた。


「分割? 何だそりゃ?」

「“分割統治”ってのは、多民族国家が生み出した叛乱を防ぐ国の治め方だ。企業―――、大きな工房でも人が多いと技術を盗まれやすいんじゃねえのか?」

 親方―――、社長経験者のロブウッドが深く頷く。


「そうだな。どいつもこいつもに技術を盗まれると困るから、弟子を取るときにも人を選ぶんだ」

「だろうな。だから、仕事範囲を小分けして決まったことしかさせねえんだ」

「それじゃあ仕事にならねえじゃねえか」

 怪訝な表情でロブウッドが首を傾げる。


 鍛冶師ってのは、1人で熱い鉄を叩いて加工する一貫作業の仕事で、究極形態の職人芸だからな。

 作業の途中で選手交代しねえから実感を持ちにくいんだろう。

 嬢ちゃんが首を振る。


「・・・なるよ? 1つの工程が終わったら次の工程へ引き継げばいい。そうやって1つ1つの仕事を分けてしまえば、1人の職人では品物を完成させられないでしょ」

「全部の部品が揃ったら、組み立て専門のヤツが完成させるんだよ」

 嬢ちゃんの説明に俺もバトンタッチして補足を加えてやる。


 剣を打つなら一貫作業になるだろうが、甲冑を念頭に説明してやればどうだ?

 嬢ちゃんもそのつもりで説明したんだろうが、ロブウッドの中での信用度は嬢ちゃんよりも俺の方が上のようで、俺に顔を向けて説明を求める。


「そうなると、どうなる?」

「部品を作るヤツは他の部品の作り方や組み立て方がわからねえ。組み立て専門のヤツは部品の作り方が全く分からねえ。1人や2人を買収して裏切らせたところで技術は盗めねえ」

 ここまで親切丁寧に説明して理解できなかったら処置無しだったんだが、幸いなことにロブウッドは感心して唸り、黙って聞いていたレイクスにも概念が理解できたようだ。

 悪巧みするように目を細めてもう一歩踏み込んだ感想を返してくる。


「1つのことしか教えなくていいなら、人が育つのも早くなるね」

「・・・そういうことです。何なら、食肉加工場へ見学に行くと良いですよ。実際にその方法で干し肉を大量生産していますから」

 へぇ。もう導入させた“工場”が有るのか。

 嬢ちゃんも自信有りげに頷き返してきた。



南の町㊷です。


容赦なき経営思想!

次回、徹底!?

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オートマタでも使って効率化 モダンタイムスって知ってる?環境管理福利厚生大切に
2026/07/02 13:09 あかマント
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