南の町 ㊴
「・・・なんでテツさん?」
「テツは魔素の放出が出来なくて魔法道具を使えないんだよ」
目を丸くしている嬢ちゃんに、ヤレヤレと首を振るレイクスが肩を竦めて見せてやがる。
欧米人かお前。
「・・・全く出来ないんですか?」
「魔法道具を起動するために必要な魔素なんて、ほんの僅かなのにね」
深く頷くレイクスに、嬢ちゃんの目がさらに丸くなる。
そこまで驚くことか?
そんなに目を見開いたら目ん玉が零れ落ちるぞ。
「・・・そこまでですか」
「俺はブン殴った方が早えからなあ」
その呆れ顔を止めねえか。
細けえ理屈を気にするよりも、実際、殴った方が早えんだしシンプルだろうがよ。
俺の言い草が気に入らなかったのか、嬢ちゃんがムッとした顔をする。
「・・・だからって1人で突撃するの? テツさんが邪魔になって他の人が魔法を撃てなくなるじゃん」
「あ~。集団戦でそいつは拙いな」
痛いところを突いてきやがるなぁ。
基本的に今までの強え魔獣は群れるタイプじゃなかったからな。
犬っコロは群れるが、素材の回収を考えねえならケイナの魔法でも簡単に倒せる。
クァタルたちだって、俺というメインの盾を背後に置けば死角外からの攻撃を食らう心配が無くて安定して対処できている。
ただし、安全を優先するなら接近を許さず遠距離で倒しちまうのベターなのは間違いねえし、俺が突っ込んで行ったらケイナでも魔法を使うのを躊躇うだろう。
“個”ってのは、どこまで行っても“個”でしかなくて、集団戦で複数方向から同時に飽和攻撃を食らえばケイナたちを守り切れなくなる。
飽和攻撃に対処するには、距離を保てているうちに敵の数を減らすしかねえんだ。
北上して行けば魔獣はどんどん強くなるらしいしな。
つまり、今のままでは、そのうち対処できなくなる。
俺とケイナの2人だけなら、ケイナが俺の背後に張り付いて魔法で後ろの敵を散らせば、敵は俺に集中しねえと接近できなくなるからな。
ケイナと2人きりが一番安定するってのは、どうなんだ?
ケイナ1人なら守り切る自信は有るが、人数が増えると守り切れねえだろう。
うちの連中は防御に長けているのもクァタルだけだしな。
ケイナが居ねえと近距離攻撃タイプに偏りすぎていてバランスが悪すぎる。
防御が硬ければ何とかなるもんだが、敵の攻撃が防御を上回っちまったら総崩れになるだろう。
魔法が使えるレイクスたちが居れば穴埋めになるんだが、レイクスたちには魔法道具を開発して貰わなくちゃならねえ。
遠距離攻撃手段が必要なのは分かっちゃ居るし、自前で魔法を使える奴を増やせれば良いんだが、獣人族ってのは俺と同じで魔法が苦手だって言うしな。
そういう意味でも嬢ちゃんが作ろうとしている魔法道具の銃火器はカードとして有効か?
腕組みで難しい顔を作っていた嬢ちゃんが1つ息を吐く。
「・・・まあ、私が教えますから、最低限の魔法が使える程度にまでは、してみせます」
「お願いするよ。テツが必要としている魔法道具を作るのに、肝心のテツが使えないんじゃ話にならないから」
おお。そうだったな。
銃火器の魔法道具が作れても、今のままだと俺は使えねえじゃねえか。
せめて魔法道具の起動ぐらいは出来るようになっておかなきゃな。
攻撃魔法用の魔法道具に懐疑的らしいロブウッドが話題を戻す。
「んで? さっきの攻撃用の術式を撃つ魔法道具は作る必要あんのか?」
「大有りだぜ? 地球では“銃”って呼ぶんだが、そんな感じの武器が有るんだ」
丁度、俺もそのことを考えていたところだからな。
ヨシ。このヒゲ親父は俺が説得する。
「そうなのか? 儂には必要そうに思えんのだが」
「そんなこたぁねえよ。“銃”の最大の強味はな。扱い方を覚えるだけで誰でも強力な兵士になるって部分だ」
これは、とんでもねえ利点なんだがな。
ヒゲ親父の表情が疑念を深めたものになる。
「誰でもだと?」
「おう。老若男女を問わず、何千人でも何万人でもな。筒先を敵に向けるだけで良いんだ」
銃火器を持ち上げる筋力と支えて保持する両腕が有れば誰にだって使える。
体を鍛えてムキムキの筋肉ダルマになる必要もねえし、高度な専門知識を教え込む必要もねえ。
ライフル銃を構える動きを模して、驚きに目を瞠っているヒゲ親父に筒先を向けた姿勢を取ってみせる。
クルマの運転だって自分の体とは違う動きをする機械のハンドル操作を体感で覚え込む必要が有るが、筒先を向けるだけなんて本当に誰だって出来る。
この筒先を向ける仕草は解りやすかったようで、俺たちの会話を思案顔で聞いていたレイクスが理解を示す。
「ふむ・・・。術式は魔法道具で固定値の威力が出る。魔法道具を起動さえ出来れば、赤ん坊だって兵士になれるって理屈だね」
「そういうこった。―――嬢ちゃんは本気で軍事大国を目指す気か?」
黙って議論の行方を見守っていた嬢ちゃんに、これだけは訊いておかなきゃなんねえ。
ダイナマイトを作ったノーベルも、原子爆弾を作ったオッペンハイマーも、優れた科学者で有り、トップクラスの技術者で有ると同時に、大量殺人の道具を作った極悪人としても歴史に名前を残した。
そいつは普通のメンタルをした人間にゃあ、とんでもなく重たい荷物になるだろう。
だが、嬢ちゃんは固い覚悟を感じさせる真っ直ぐな目で頷いた。
南の町㊴です。
罪という重荷!
次回、裏側の理由!?




