南の町 ㊳
「・・・えーっと。そうやって魔石の魔力を掌握するとどうなるか。事実上、使える魔力が底無しになります」
「「「「「―――、!!」」」」」
嬢ちゃんが明かした情報にレイクスたちの顔色が変わる。
おお? 何だ何だ? そんなに驚くほどの話か?
魔石ってのは外付けバッテリーみたいなもんなんだろ?
んん? ああ、そういうことか。
現代日本の常識だと当たり前になっているモバイルの外付けバッテリーやガスコンロの交換用カセット燃料なんて概念が、こっちの世界にはなかったことに気付く。
だとすると、ケイナやレイクスが魔法を使う際、自分の中のスタミナというか、体力にてえなもんを消費しているわけだよな?
マラソン選手がスタミナを瞬間的に完全回復させるバナナを食いながら、ノンストップで永遠に走り続けるようなイメージで解釈したのかもな。
こっちの世界に当て嵌めれば、道端の草を走りながら食って延々と走り続けられる馬か?
個々の理解度を測るように車座を見回していた嬢ちゃんがレイクスに視線を戻す。
「・・・そこで、レイクスさんに相談です」
「僕?」
指名された理由が分からねえ様子のレイクスが自分自身を指差して首を傾げる。
表情を真面目なものに引き締めた嬢ちゃんが例題を―――、いや。近未来の構想を提示する。
「・・・魔力を通すだけで攻撃の術式を発射できる魔法道具を、底無しの体内魔力が有る100人が持ってズラッと並んだとしましょう。そんなところへ敵兵が突撃してくるとどうなるでしょうか」
「んー・・・。死屍累々、血の雨が降るだろうね」
「ほーん。魔法の掃射。“弾幕”か」
嬢ちゃんは魔法技術を使った「銃」をイメージしているんだろう。
レイクスも何が起こるかをイメージできたようだな。
長篠の戦いで織田信長が武田軍を破ったときに使ったという鉄砲3段撃ちの段数強化バージョン?
弾切れを起こすことなく延々と連射してくるフランスの戦列歩兵か。
現代の地球で言えば機関銃掃射だ。
ゲームの魔法使いキャラクターが、制限なく魔法を撃ち続けてくる状況を再現できるってわけか。
こっちの世界の戦争を見たわけじゃねえし、戦争における魔法の位置づけがどうなってんのかも知らねえが、そんなもん弱えわけがねえ。
戦争の在り方が変わって、外交関係にも地殻変動が起こるだろう。
地球から持ち込む技術としちゃあ影響がデケえな。
いや。デカくなる可能性が有る、と言った方が正しいんだろう。
こんなもんは果てのない思考の海を漂流するようなもんだ。
魔法っていう地球人にとっては計り知れねえ技術が有る以上、もしかすると大した影響を残さずに廃れる可能性も有るのか。
やってみねえと答えは分からねえものでも有るだろうからな。
世界の在り方すら変えかねねえ技術の解放に俺は躊躇いを持っちまうんだが、レイクスは思考の海へ漕ぎ出す前に座礁していた。
「だんまく、って何?」
「“弾”ってのは、矢とか礫とか飛んで来るものだな。“幕”ってのはデカい布のことだ。たくさんの矢や礫が視界一面に飛んで来る様子を“弾幕”っていうんだ」
説明してやると、どういうものかを理解したらしいレイクスが、丸くした目を嬢ちゃんへ向けた。
「それを魔法道具でやるって?」
「・・・出来たら良いな、と」
「ふぅん。面白いね」
お。レイクスは前向きなんだな。
新しい概念を理解しようとしているのか、宙を見上げて難しい顔をしていたロブウッドは、レイクスが前向きな反応を示したことでレイクスへと視線を戻す。
「ちょっと待った。術式の構築には時間が掛かるだろう。1発撃って次の術式を撃つ前に乱戦になるんじゃねえのか?」
「前後2列にして交互に撃てば時間は半分だぜ? 3列にすれば3分の1だ」
「む。容易に短縮できるんだな」
介入して認識の誤りを正してやるとロブウッドは素直に唸る。
嬢ちゃんが口元をモニョモニョさせているのは、俺が“鉄砲3段撃ち”を例に出したことに気付いたからだろう。
「決まった距離、決まった威力で、決まった術式を撃つだけなら、術式の構築に時間は掛からないよ。むしろ、そういう融通が利かない機能の方が刻印術式の得意分野だしね」
一方のレイクスは技術者の顔で“可否”だけを述べる。
事の善悪や倫理観や与える影響を丸ごと横に押し退けて、技術的な可否判断だけを考える辺りはレイクスも技術者なんだな。
ダイナマイトを発明したノーベルも、原子爆弾を開発したオッペンハイマーも、最初から率先して兵器を作ろうとしたわけじゃねえからな。
兵器転用される可能性に気付いていても開発するのは科学者の習性だろうし、“出来るかどうか”を考えたときに細かな理屈を横へ置いてでも作ってしまうのは科学者の―――技術者の本能みてえなもんだろう。
日本の学者でも、倫理観や何やらを横に置いて他国の兵器会社や軍事系大学に技術を漏らしちまうのは、研究費がねえと研究素者のが続けられねえからだと聞いたことが有る。
「でもよ。だったら体内の魔素がどうとか言わず、純粋な魔法道具として作った方が良いんじゃねえか?」
「何でだ?」
反論を口にするロブウドの目が俺に向いてやがるから、俺が理由を問う。
「魔法道具ってのは誰でも使えるのが売りなんだろ?」
「テツ以外は、だね」
ログウッドの質問に答えたのはレイクスだ。
レイクスの目も俺に向いてやがる。
ロブウッドとレイクスの顔を見比べた嬢ちゃんの目も俺へ向く。
南の町㊳です。
技術者の性!?
次回、最大の利点!?
※大遅刻です!
投稿したつもりでウロウロと出かけておりました!
スミマセン!




