南の町 ㊲
「ケイナはどうなのさ」
「テツさんが食べるなら、でしょうか」
少し考えたケイナが俺の顔を見ながら答える。
まあ、毒味役は俺だよな。
もしかすると毒を持っているかも知れねえトカゲ肉なんてケイナにゃ食わせらんねえし。
嬢ちゃんも思案顔で俺の顔を見てやがる。
「・・・テツさんか」
「何だよ」
人の顔を見ながら不穏に呟くんじゃねえよ。
俺はモルモットじゃねえぞ。
お前らなぁ・・・。
嬢ちゃんだけかと思ったらレイクスも俺の顔を見てやがる。
「テツなら食べるよね」
「俺が黒トカゲを追ってるのは食うためじゃねえぞ?」
「「そうだった」」
忘れてんじゃねえよ。
残念そうな心中をぜんぜん隠せていない嬢ちゃんが、仕切り直しに掛かる。
「・・・ドラゴンのお肉は保留で良いです。そんなことよりも、魔力の“質”の違いは分かりますか?」
魔石を手にしたレイクスたちが自分の手のひらへ意識を戻した。
すぐに脱線する連中だが、それぞれに優秀な連中ではあるんだよな。
魔石を凝視したまま感想を口にする。
「魔素で触れてみるという発想は無かったが、言われてみれば、確かに違うな」
「うん。グニグニと弾力が有るような感じで、固くなった燻製肉みたいな感触に思えるね」
かなり驚いているらしいロブウッドに、好奇心も顕わにレイクスが同意する。
ケイナにも分かったようで、目を丸くしながら頷いている。
俺も真似してみようと思ったんだが、体内の魔素を押し出せねえ俺に質の違いなんてもんが分かるはずもなかった。
満足そうに嬢ちゃんが頷く。
「・・・それです。それが“他者の魔力”の感触です。“質”の違いが分かったら、今度はその“質”に自分の魔力の“質”を似せていってください」
「“質を似せる”ってのは、どうすりゃ良いんだ?」
具体的な方法を訊くロブウッドに、言い聞かせるような口調で嬢ちゃんが答えを教える。
「・・・術式を使うときと同じだよ。似せようとすれば魔力は質感が変化するから」
「術式と同じ?」
嬢ちゃんの感性が特殊なのか、ロブウッドたちにはなかった概念なのか、魔法が得意な連中でさえ揃って首を傾げてやがる。
こりゃあ、後者っぽいな?
「・・・意識していないから気付いていなかったのかも知れないけど、みんな術式を使うときに自分の魔力を変質させているんだよ。質の違いを“硬さ”と捉えても良いし、“温度”と捉えても良いし、“色”と捉えても良い。感触から連想しやすいものに当て嵌めて魔力の質感を似せてみて」
大人しく嬢ちゃんの説明を聞いていたロブウッドたちが手元の魔石へ目を落とし直す。
「ふむ・・・」
「質感を似せる・・・」
俺には魔素の感覚が分かんねえんだが、楽器のチューニングみたいなもんか?
「・・・質感を変えながら感触を確かめていると触感が変わってくるからね。だんだん抵抗がなくなって、そのうちスルッと魔石の中に入るよ」
自分の耳で聴いての音感でギターの音を調整するときにも、音を出しながら糸巻きを巻いたり緩めたりするだろ。
そんな感じじゃねえのかとイメージしたら、嬢ちゃんも同じ感じの説明を加える。
傍目には分かりにくい試行錯誤を繰り返していたらしい連中の中で、1抜けと2抜けを決めたのはケイナとリットだった。
「あ。入りました」
「私もです。これをどうすれば良いのでしょう?」
優秀な生徒たちを見る目で2人に目を向けた嬢ちゃんが、さらに難解なことを言い出す。
「・・・魔石の魔力を“掌握”するんだよ」
「掌握ですか」
ケイナにも意味が分からなかったようで、難しい顔で質問を返した。
ところが嬢ちゃんは手慣れた感じで訊き返す。
「・・・そっくりに似せることが出来たら、どこまでが自分の魔力で、どこからが魔石の魔力か判別できる?」
「魔素の境界が分からなく―――、違うな。“境界がなくなる”んだな?」
ロブウッドも難しい顔で嬢ちゃんが口にした言葉の意味を考察する。
そこで嬢ちゃんが返した言葉は、明らかにこっちの世界の連中にはない概念だった。
「・・・そういうこと。それはもう、魔石の魔力じゃなく自分の魔力だよ。自分の魔力なら意志は通せるでしょ。その状態を私は“掌握”と呼んでる」
「ははぁ。外付けバッテリーみたいなもんか」
俺の解釈に嬢ちゃんが困った顔で薄らと笑みを浮かべる。
「ああ、悪い悪い」
思いついたことを口に出しちまったんだが、嬢ちゃんが転生者だってことを知らねえヤツらも居るんだったな。
何事もなかったようにスルーしようとして失敗したらしい嬢ちゃんが、俺の無神経発言から気を逸らさせるためか爆弾を投下する。
南の町㊲です。
地球と異世界のカルチャーギャップ!?
次回、底なし!?




