南の町 ㊱
「そんなの、よく知ってたね」
「・・・お母様とお婆様から教わりました。ただ、単語として聞いただけで、その精霊種がどういうものかまでは知りません」
ほう。前伯爵が知識人だって話は聞いたと思うが、その母親もか。
地球の歴史上でも、知識ってのは貴族階級と宗教関係者が独占したものだってのは、俺も知識としては知っているが、こっちの世界でもそういうものなんだな。
一般民衆が知識を得られるようになったのは、宗教が力を失い、産業革命で一般民衆が力を持ち始めてからのことだっけな。
よくよく考えりゃあ、現代日本では当たり前になっていた自由主義ってのが生まれて300年も経っていねえんだもんな。
封建社会が継続しているこっちの世界で知識層と言えば、やっぱり貴族階級なんだろう。
エルフ族の中では知識層にあたるはずのレイクスも感心している。
「へぇ~。凄いね。僕らも意識しているわけでは無いから、ことさら口に出すことなんて無い言葉なのに、そんなの知ってるヒト族の話なんて初めて聞いたよ」
「・・・お母様たちは統一国家以前の文献や書物も読んだことが有るそうですから」
レイクスに家族を褒められて嬢ちゃんも嬉しそうに表情を緩めている。
「それは尊敬に値することだよ。知識は後世に繋いでこそ発達するものだし、活かしてこそ意味が有るものだからね。先ずは蓄えられた父祖の知恵を知って受け継ぐことが重要だし、その知識の断片をキミが活かせているのなら、それは誇るべきものだ」
また何かレイクスが難しいことを言い出したぞ?
そんなもん、「すごいネ!」の一言で済むじゃねえか。
ええっと? 要約すると「知識は大事!」ってことだろ?
レイクスの小難しい言い回しを、ちゃんと意味を理解しているらしい嬢ちゃんも、得意顔で小鼻を膨らませていやがる。
「・・・そりゃあもう、お母様もお婆様も王国で一番の知識人と言われていますからね」
「そうなんだ? ゆっくり話してみたいなぁ」
知識欲を刺激されたらしいレイクスが羨ましそうに目を細める。
「・・・お母様たちも喜ぶと思いますよ。それはそうと、“精霊種”ってどういうものなんですか?」
「言葉から想像できる通り、精霊種は“精霊に近いもの”と言われている。そうは言われても僕らは肉体を持つ普通の人間だし、精霊とは全く違うけどね」
前から思ってはいたが、コイツら似たもの同士なんだな。
また新たに投げかけられた質問に、嬉しそうにレイクスが答え、理解しようと頭をフル回転させているらしい嬢ちゃんが首を傾げる。
「・・・何をもって“精霊に近い”と定義するんでしょう?」
「これは僕の推測だけど、“魔素との親和性”かなぁ。大昔のエルフ族が遺した古い文献に記述が有るだけで、根拠を示す当時の研究資料が残っているわけでもなかったらしくてね。伝承に過ぎないからどこまで本当のことかは分からないけど、龍種なんてその存在自体が半ば精霊だとも伝わっているよ」
お? 何だと?
聞き流しそうになったが、“龍種”という単語に俺の意識も引き戻された。
あのトカゲ野郎、精霊なのか?
いや。半分ってことは亜種か。
精霊は目に見えねえし、どうやって倒せば良いのか手段を思いつかねえが、ドラゴンは目に見えるからな。
背中に取り付いたときも、背びれを掴めたし実体は有った。
実体が有るならブン殴れるな。
だったら問題ねえ。
取っ捕まえて、ブン殴って“トンネル”を開かせる。
嬢ちゃんも俺と同じ部分で引っ掛かったようで、何やら難しい顔をしている。
「・・・むー。半分、精霊なんだ」
「どうしたの?」
何に嬢ちゃんが引っ掛かったのかが分からなかったらしいレイクスも怪訝な顔をする。
自分に注目が集まっていることに気付いた嬢ちゃんが、自分が取った態度の理由を口にする。
「・・・ああ、いえ。ドラゴンのお肉って美味しいのかと考えていたので、食べちゃ拙いのかなと」
何だそりゃ?
ズコッとコケかけた。
この嬢ちゃん、倒せるかどうかよりも気になるのは肉の味かよ。
今、気にしたのは倫理観か?
精霊信仰が有る土地で、精霊の亜種を食って良いのかどうか? ってことか。
レイクスも笑いを堪えていやがる。
「美味しいらしいよ。とはいえ、長く生きる龍種は人間よりも知能が高くて、遠い昔には交流を持っていた人間もいたそうでね。龍種を人間と変わらない“龍族”と呼ぶことも有ったと聞くけど」
「・・・それも教わったことが有ります。でも、ドラゴンなんですよね?」
嬢ちゃんがレイクスに確認する。
それは、「食って良いのか?」って意味か?
まだ諦めねえんだな。
レイクスも俺と同じ解釈をしたようで、嬢ちゃんの顔を見ながら首を傾げる。
「すごく賢くて言葉を話す相手でも食べるの?」
「・・・その辺にいる動物や魚と言葉が通じたら、お肉を食べないのですか?」
「食べるだろうね」
ああ言えば、こう言う。
レイクスも即答した。
だが、相手は言葉が通じるだけでなく、信仰対象の亜種だ。
日本の感覚で言えば、神社に祀られているお稲荷さんが生きているとして、「それ、食って良いか?」と訊くようなもんだろう。
2人揃って悩ましそうに眉根を寄せてやがる。
「・・・線引きが難しいですね?」
「そうだね。判断が難しそうだ」
嬢ちゃんの感想にレイクスも同意する。
宙を見上げて何やら考え込んでいたケイナが兄貴たちへ視線を戻して首を傾げる。
「食べるんですか?」
「要検討?」
「・・・ですよね」
コイツら棚上げしやがった。
話し合い次第というか、話した上での回答次第でトカゲ野郎は捕食対象になるらしい。
南の町㊱です。
似たもの同士!?
次回、質!?




