南の町 ㉟
「嬢ちゃんも大概だと思うがなぁ」
「・・・私なんてまだまだだよ。やらかしてばかりだし」
謙遜する嬢ちゃんに記憶を探ったケイナが事例を挙げる。
「ああ。フィオレ池とか?」
「・・・くっ。そんなことも有ったかな」
ケイナに揶揄する意図はなかったと思うんだが、嬢ちゃんにとってはツッコまれると痛い事例だったようでケイナから目を逸らした。
「・・・ところで、精霊術式って詠唱術式なんかとはどう違うの? “お願いするだけ”って言ってたけど、長所や短所は有るのかな」
都合の悪い事例から話題を変えるつもりか、嬢ちゃんからケイナに質問が飛ぶ。
「術式の構築や発動は精霊が肩代わりしてくれますから、精霊にお願いした方が効果は大きいですね。ただ、精霊によっては上手く伝わらなかったり伝わりすぎたりで、強弱の調整が難しかったりすることが有ります」
「・・・へぇ~。精霊にお願いした方が効果が大きくなるのって、どうしてなんだろ」
ケイナの答えに嬢ちゃんが首を傾げる。
質問に対するケイナの答えは明確なものだ。
「精霊は魔素そのものですから。魔素を扱うことにかけては精霊に勝る者は居ないと思いますよ」
「・・・精霊って本当に魔素なんだ?」
目を丸くする嬢ちゃんにケイナは深く頷き返す。
「先日、兄様も仰っていましたが、“魔素が自我を持ったもの”だと言われているのは確かですね」
「・・・不思議生物・・・。いや、生物?」
怪訝そうに眉根を寄せて嬢ちゃんが首を傾げる。
おう。分かる分かる。
ケイナが精霊と喋ってる姿を見ている限り、自分のペットに話し掛けてるオバチャンみてえな感じだぞ。
そのくせ相手の姿形が見えねえもんだから、傍目には演劇の1人練習か、心を病んで特定科目のクリニックへ通っている患者みてえに見えるんだけどな。
不穏な何かを感じ取ったらしいケイナがサッと顔を振り向けて俺を見てきたから、俺もサッと顔を背けておく。
ノーノー。何も言ってねえぞ。
ケイナは勘が良いから迂闊なこと考えると察知されるときが有るからな。
数瞬の間、ジトッと俺を睨んでいたケイナが嬢ちゃんとの会話に戻る。
「生物どうかは分かりませんが、意志を持っていることだけは確かですよ」
「・・・私やルナリアやお母様に精霊が憑いてるって言ったよね? なんで私たちを選んだんだろう?」
首を傾げる嬢ちゃんの問いにケイナも首を傾げる。
「さぁ? 体内の魔素量だけで憑くわけでは無さそうですから、精霊にとって居心地が良いかどうかじゃないでしょうか」
「・・・居心地かぁ。ヒト族に憑いた例って珍しくはないの?」
「昔もそう多くはなかったそうですから、珍しくは有ったのでしょうね」
ほーん? フィーリングで取り憑く相手を決めてるのかと思ったら、そういうわけでもねえのか?
俺もケイナに精霊が憑いてると言われたことが有るんだが、結構、比率が高くね?
んん? そう言えば、王都でケイナが精霊について言及したことはなかったし、道中の町や宿で言及したこともなかったな。
つーことは、ヒト族の人口に対する比率で言えば高くはねえのか。
このウォーレス領での比率が特別に高いのか、それとも地域性が有るのか。
まあ、精霊を感じ取れなきゃどうにもならねえんだろうし、取り憑いているからといって何か問題が起こるわけじゃねえし、気にするだけ無駄だな。
幽霊だって怨霊もいれば守護霊もいるんだろ?
害がねえなら取り憑かせておけばいいじゃねえか。
「・・・やっぱり珍しかったんだ」
俺は早々に忘れることに決めたんだが、嬢ちゃんは興味が有るみてえだな。
嬢ちゃんが難しい顔をしているところにケイナが追撃を入れる。
「ヒト族だけでなく獣人族に憑くことも少なかったそうですよ。ドワーフ族に憑くことはそこまで珍しくなかったとも聞いています」
「・・・むむっ。ドワーフ族には憑くんだ・・・? なんでヒト族や獣人族には憑かないんだろう?」
さらに難しい顔になった嬢ちゃんに答えを与えたのは、微笑ましそうに妹たちのやり取りを聞いていたレイクスだった。
「それは僕らが“精霊種”だから、だろうね」
「・・・精霊種? どこかで聞いたことが―――、あっ。龍種か」
記憶を探った嬢ちゃんがポンと手を打つ。
龍種? ドラゴンのことか。
あの黒トカゲとエルフ族が近い種族だってのか?
どういう理屈かよく分かんねえな。
レイクスのことだから、手足の数みたいな見た目の問題や体質みたいなものを指しているわけじゃねえんだろう。
この魔法道具オタクのことだから、魔法的な何かを指して言っているんじゃねえかと予想はできる。
嬢ちゃんの反応に、答えを教えたレイクスの方が目を丸くしてやがる。
南の町㉟です。
ドラゴンとエルフ族の近似性!?
次回、魔素との関係!?




