南の町 ㉞
「・・・結構、誰にでも教え込めていますけど?」
「そうなの!?」
どうってことない、と言わんばかりの嬢ちゃんにレイクスもロブウッドも目を剝いた。
「・・・そんなに驚くようなことですか?」
「そりゃあ驚くよ。詠唱術式って、術式の効果を想起させる呪文を唱える声に魔素を籠めるんだよ。効果を頭の中で想像するだけでは発動しないし、呪文を唱えるだけでも発動しない。それって、魔素の籠もった言葉と想像力の両方を使って、頭の中で魔方陣に似た経路を擬似的に構築していると言えるんだよ」
何かまたレイクスがややこしいことを言い出したな。
声に魔素を籠めるだぁ?
そんなこと出来んのかよ。
“声”ってただの“空気の振動”だろうに。
それって空気に魔素を籠められるってことだろ?
自然の空気に境界線なんてねえんだし、わけ分かんねえ。
とうの昔に俺の理解を超えてるんだが、嬢ちゃんは理解した―――、というか、自分なりの解釈を頭の中で組み立てたみてえだな。
「・・・刻印術式の話に当て嵌めれば、呪文に籠められた魔力が経路で頭の中が古代文字ってことでしょうか」
「少し違うように思うけど、似たような感じでは有るのだろうね。その経路を省いて頭の中で完結させちゃうんだから、当然、術式の構築は難しくなるし、呪文が想像力の不足を補ってくれないんだから、発動する効果を正確に想像するのって難しくない?」
首を傾げたレイクスが質問を返しているが、質問の中身も分かんねえ。
これ今、何の話をしてるんだ?
首を傾げ返した嬢ちゃんが小さく頷く。
「・・・フワッとした想像では難しいでしょうね」
「じゃあ、どうやって教えてるの?」
魔法道具に関しては一家言あるレイクスでも嬢ちゃんの言っている意味が分からねえみたいで、魔法理論から具体的な方法論に移ったらしい。
「・・・効果が起こる順番、というか、例えば火の術式を使うなら、どうやって火が燃えるかを教えるんです」
「どうやって燃えるか?」
淀みなく答えた嬢ちゃんの答えに魔法道具オタクも偏屈鍛冶師も首を傾げる。
おお。今の話は俺にも分かったぞ。
嬢ちゃんが言っているのは“科学”だろう。
嬢ちゃんがもっと具体的に論理を語る。
「・・・魔法を使わなくても火は熾せるでしょう? 火が燃えている姿や、魔法なしに火を熾すときの順番を見せて、実際に触れて覚えさせれば、どうやって火が燃えるかを理解できます。火を理解できれば、呪文なしでも魔法は発動します」
ほほう。魔法ってのは、そういうもんなのか。
考えてみりゃあ当然のことでもあるのか?
こっちの世界でも空気を吸えば呼吸できるし、水を飲めば喉を潤せる。
メシを食えば腹を満たせるし、食ったものは消化吸収して排泄物としてケツから出てくる。
要するに化学も物理法則も地球と何にも変わらねえってことだ。
だったら物理的な化学変化で説明したものを魔法で再現できるって論法か。
ド素人の俺が聞いても筋は通ってるな。
「うーむ。凄え嬢ちゃんだな」
「本当にね。よく、そんな方法を思い付いたものだよ」
レイクスもロブウッドも本格的に唸る。
確かにスゲえな。
この嬢ちゃんは、こっちの世界に来てからここまで理解を深めて、地球の知識とミックスして独自の論理を構築したってことだろう。
聞いた話じゃ、この嬢ちゃんがこっちの世界へ転生したのは俺よりも半年ほど早かっただけなんだよな?
嬢ちゃんと出会っていねえ状態で、俺が半年後にこんな論理を構築できるまで理解を深められるのかと言えば、まあ無理だな。
ぶっちゃけ、魔獣だろうが何だろうがブン殴った方が早えと考えちまう。
俺が魔法を使えねえ原因はコレか?
ケイナがいるし、火を熾したり水を出したり以外で魔法の必要性を感じていなかったのも原因かも知れねえな。
感心しているオッサンどもを前に嬢ちゃんが首を傾げる。
「・・・お母様も、私と出会うもっと前から無詠唱で魔法を使っていましたよ?」
「お母様ってのは、“白焔の魔女”だろう? 大陸一と噂されるだけ有るな」
唸り声を上げるロブウッドに嬢ちゃんが目を丸くする。
「・・・お母様のこと知ってたんだ?」
「そりゃあ大陸中に聞こえるほど高名な魔法術師なんだからよ。名前を訊いたことぐらいは有らぁな」
「・・・そっかそっか」
ロブウッドの答えに嬢ちゃんは満足そうに頷いている。
「自分を褒められるよりも嬉しそうだな?」
「・・・当然じゃん。お母様は凄いんだから」
嬢ちゃんが平たい胸を張る。
この笑みを見るに、本当に母親のことが好きなんだな。
嬢ちゃんの笑みに呆れ顔のロブウッドが首を振る。
南の町㉞です。
魔法が使えない原因判明!?
次回、精霊種!?




