南の町 ㉛
「・・・テツさんたちも一緒に魔法の練習するよ」
レイクスとケイナとメイドたちだけかと思えば、嬢ちゃんの視線は俺やロブウッドたちにも向いている。
気のせいじゃなさそうだな。
「俺もか?」
「・・・“たち”って言ったよね?」
嬢ちゃんから「なに言ってんの? お前」と言わんばかりの答えが即答で返ってきた。
自分たちも対象者だと気付いたミャウラが自分自身を指先で指す。
「アチシたちもニャ?」
「・・・目眩まし1つでも手札が増えれば生存率が上がるんだから、当然だよ」
「お、おう。そうだな」
“目眩まし”つーか、相撲の奇襲戦法でも“猫騙し”という技が有って有効性が実証されているんだよなぁ。
相手の目の前で両手のひらを打ち合わせるだけの簡単な動作だが、真剣勝負だからこそ効く小手先の技だ。
理屈は間違っちゃいねえんだが、誰でも身に付けられるものなら苦労はしねえ。
俺も面食らっているし質問を返したミャウラたちも困惑したままなんだが、嬢ちゃんはサッサと背中を向けた。
「・・・さてと。じゃあ、レイクスさんとケイナちゃんから始めますよ」
「よろしくお願いするよ」
レイクスはアッサリと受け入れてケイナも一緒になって頷いている。
「・・・ロブウッドさんとリットちゃんもレイクスさんたちと一緒にやってね」
「えっ? 私たちもですか?」
他人事のように構えていたリットが驚きを露わにして、何を思ったのかロブウッドは目付きを厳しくした。
「特殊な術式や新しい技術ってのは大事な資産だろう。儂らにまで教えて良いのか?」
「・・・良いんだよ。私は他にも、そう簡単に真似の出来ない技術を持っているし、必要なら新しい魔法を作るもの」
ははぁ。鍛冶職人のロブウッドは技術の安売りに感じてプライドを刺激されたんだな。
嬢ちゃんの方は屁とも思っちゃいねえみたいだが。
大した自信だな。
嬢ちゃんの強気発言にロブウッドが唸る。
「ほう」
「凄いですね」
親父と一緒に感嘆の声を上げたリットの目には憧憬のようなものが有る。
嬢ちゃんたちの視線が俺たちの方へ戻って来た。
「・・・他のみんなも、そのうち通る道だからね。しっかり聞いて、目に焼き付けて。見ることも訓練だよ」
「はいニャ」
ミャウラが素直に返事して、クァタルたちも真剣な目で頷く。
手本を見て聞いて、やってみて覚えろってことか。
どこかで聞いたような教育理論だが、説得力は有るだろうな。
子供から教わることに何の抵抗もないらしいレイクスが質問をぶつける。
「属性は何でも良いのかな?」
「・・・使いたい術式と魔石の属性を一致させた方が威力は上がりますけど、何でも構いませんよ」
聞いたことの有る答えが返ってきてレイクスが頷く。
「ふむ。魔法道具と同じだね」
「・・・そうらしいですね。術式と属性の親和性で効率が良くなるとか、そんなのじゃないんですか?」
嬢ちゃんの方からも質問が返ってきて、レイクスも真面目な顔で答える。
「属性の一致は、魔法道具作りにおいては基礎的な知識だよ。魔法道具以外での使い道でも同じ結果が出るのなら、魔石は―――、というよりも、属性に染まった魔素はそういう性質を持つものだと考えて良いんじゃないかな」
「・・・そうですね。私も異議は有りません」
ほーん? この2人、双方向で教え合うというか、情報交換をしてるんだな。
技術者同士の意見交換というよりも研究者同士の議論って感じに見える。
それだけ真剣に取り組んでいる者同士だから会話が成立するんだろうが、普通の人間にゃあ何言ってんのか半分も分かんねえ。
長くなるのは分かってるから、「俺らにも分かるように話せ」なんて絶対に言ってやんねえけどな。
嬢ちゃんは想像以上に上手くレイクスとコミュニケーションが取れている。
嬢ちゃんが全員に指示を出してきた。
車座になれと言われて円陣を組んで腰を下ろす。
続いて嬢ちゃんが指示してきたのは「魔石を手に持て」といったものだった。
「・・・各自、1つずつ魔石を手に持ちましたか?」
「持ったけどよ。魔石なんて、どうするんだ?」
手のひらに載せた魔石を示しつつ、ヒゲ親父が怪訝な声を上げる。
疑念を向けられていることを一顧だにしない様子の嬢ちゃんが続く指示を出す。
「・・・自分の魔力と魔石の魔力の、“質”の違いを感じ取ってくれるかな」
「質だって?」
何を言われたのか理解し損ねたらしいロブウッドがフリーズし、代わってレイクスが嬢ちゃんに質問をぶつける。
「・・・そうです。“他者の魔力には干渉でない”というのが“通説”ですよね?」
「そうだね。それが“常識”だよ」
嬢ちゃんの確認にレイクスが頷いて返し、そこへさらに、挑戦的、というか、挑発的な答えが返って来る。
南の町㉛です。
魔法教室!
次回、常識!?




