南の町 ㉚
「ねぇ。この囲いってバイコーンは跳び越えてこないの?」
我関せずと穴底を覗いていたレイクスが嬢ちゃんたちに質問をぶつける。
おー。それな。この鹿はメッチャ跳ぶんだが、縦には跳べねえのか? って疑問は有る。
コイツらの跳躍力なら、忍者みてえに壁を蹴って登って来そうな気もするんだが、その心配はねえのか?
カモシカの類いでも、小さな岩の出っ張りを蹴って垂直に切り立った崖を上ったりするからな。
俺も嬢ちゃんたちに視線を向けたが、嬢ちゃんたちは首を振る。
「・・・把握している範囲では、囲いを越えて来たことは1度もないですね」
「兵士からも報告を聞いたことがないわよ」
嬢ちゃんたちの返事を聞いたレイクスが思案顔になる。
「ふぅん? この高さは越えられないのか、昼間だからか・・・」
「・・・昼間だから?」
またコイツは何を言い出したんだ? と思ったら、嬢ちゃんも首を傾げていた。
レイクスがさらに訊く。
「知らない? 魔獣は夜になると活発になるんだよ」
それは俺も聞いたことが有るし、何なら触角ヘビにも犬っコロにも俺は夜間に襲われた経験が有るからな。
今は昼間の内に俺たちの方が襲う側になってるんだが、初っ端に襲われたときはヤバかった。
しかし、嬢ちゃんは首を傾げたままだ。
「・・・それは知ってる、というか、聞いたことは有りますけど、関係するんでしょうか」
「どうだろうね? 僕もこんなに近くで魔獣を観察したことはないから分からないよ」
訊き返されたレイクスも首を傾げる。
同じ偶蹄目でも鹿とカモシカは違うからなあ。
誰も答えを持って居ねえんだから答えが出るわけがねえ。
そうなると、どうなるか。
そんなもん決まってる。答えが出ない場合に国際問題の解決でも用いられる手段、“棚上げ”だ。
「・・・夜になってから、もう1度観察しましょうか」
「そうだね」
嬢ちゃんの提案をレイクスもアッサリ承諾する。
これが一番の平和的解決法だな。
何と言っても研究対象が目の前に居るんだから、論より証拠で現物を観察した方が早え。
嬢ちゃんが新たな提案を投げ掛ける。
「・・・じゃあ、下へ下りて魔法の練習でもしましょう」
「良いね。行こう」
嬢ちゃんの誘いに乗ったレイクスはサッサと階段へと向かい、銀髪頭が相方の金髪頭に声を掛ける。
「ルナリア。下りるよ」
「あ。うん」
ケイナも階段へ向かうのを追い掛けて俺も階段へ向かう。
数人のメイド以外が階段を下り始めたのを見届けて、最後に残った嬢ちゃんが若い騎士たちを監督している女性騎士たちに声を掛けている。
「・・・ネイアさん ! オーリアちゃん! 出荷作業は任せるね!」
「「了解しました!」」
女性騎士たちの元気な返事を受け取って、嬢ちゃんもメイドたちを引き連れて階段を下り始めた。
「出荷作業」ねぇ・・・。
魔獣も完全に家畜扱いだな。
いや。「家畜」というと、この嬢ちゃんは「飼ってない」と返してくるからな。
まあ、どうでも良いか。
地上に下りた嬢ちゃんたちの周りに俺たちも集まっている。
「風ジェットカッターを使うと危ないから、あっちで練習するわよ!」
「お願いします」
金髪の嬢ちゃんが声を掛けると、フィティオスとアルケマイオスが付いていく。
銀髪の嬢ちゃんが、これまた銀髪―――、というか、白髪のメイドたちに声を掛けている。
「・・・サーシャさん。ルナリアの護衛、お願いして良い?」
「はっ。お任せください」
このメイドたちは全部で10人居るんだが、金髪から茶髪の5人と銀髪の5人はチームが違うようで、今回は白髪の5人をフィティオスたちと同じグループにするようだ。
「・・・フィティオスさんたちと一緒に、ルナリアから教わると良いよ」
「「「「「ありがとうございます!」」」」」
声を揃えて礼を言ったメイドたちが金髪嬢ちゃんのところへ駆けていく。
フィティオスたちが教わりに行っているのは、甲冑も斬れるというえげつない魔法らしいんだが、メイドたちも戦闘用の魔法を習いに行くのかよ。
茶髪のメイド2人は、まだ足場の上でネコ耳幼女と一緒に「出荷」を手伝っているから、銀髪嬢ちゃんの傍に残っているメイドは金髪の3人だ。
嬢ちゃんが残ったメイドたちに向き合う。
「・・・ミセラさんたちは、レイクスさんたちと一緒に魔石の使い方を覚えようか」
「はい。よろしくお願いします」
メイドたちがニコリと笑って答える。
こっちの3人はメイドたちの中でも立場が上の方らしいんだよな。
こいつらは足音がしねえし、隠密的な役目を持った連中なんだろうと思っていたが、やっぱり戦闘技術を教わるんだな。
まあ、頼りになる連中なら、強くなって貰った方が良いってことなんだろう。
南の町㉚です。
棚上げ!
次回、魔法教室!?




