南の町 ㉕
「テツさんも訓練するべきです」
「あ~・・・。まあ、そうなんだけどな」
ケイナが掛けてきた圧力に、返す言葉に困っちまう。
ほら見ろ。嬢ちゃんが興味を持っちまったじゃねえか。
俺の顔を見上げて嬢ちゃんが首を傾げる。
「・・・というと?」
「魔素は多いらしいんだが、俺は魔法の感覚がよく分からなくてなぁ」
隠してどうなるもんでもねえから正直に白状する。
「・・・だから魔法が使えないと?」
不思議そうに嬢ちゃんは訊き返してきた。
何で不思議そうなんだよ。
お前も元日本人だろうが。
魔法なんて存在しねえ人生を送ってきたのに、いきなり「魔法を使え」ったって、どう使えば良いのか分かりゃしねえだろ。
ところが、そんな事情は関係ねえ! とばかりにケイナがプクッと頬を膨らませる。
「そうなんですよ! 体内の魔素は分かるのに使えないと言うんです!」
「・・・ははぁ。そうなんだね」
嬢ちゃんの銀髪頭がさらに傾く。
「・・・確かにテツさんの体内保有魔力量はメチャクチャ多いと思うけど」
「ああ。嬢ちゃんは他人の魔素が分かるんだったな」
嬢ちゃんの目が再び俺に戻ってきた。
レイクスからは、魔法道具が動かせる程度には“魔素の放出”とやらが出来るようになれと言われてるしな。
「練習は続けてるんだがなぁ」
郷を出て王都へ着くまでの道中だけでなく、レイクスたちと合流するまでの間も練習は続けている。
ダンジョンで呪いを魔素で押し返した後もだ。
ダンジョンで体内の魔素の動かし方を掴んだと思ったんだが、ダンジョンから出た後にもう1度やってみようとしても、またビクとも動かねえんだわ。
そりゃあもう、その後は大変だったんだぞ。
「この話題になるとケイナが機嫌を損ねちまってなぁ」
「テツさんが術式を使えるようにするのを、フィオレも手伝ってくれると嬉しいです」
ほらな? ボヤいたらジロッとケイナに睨まれた。
「・・・出来るかどうかは別として、お手伝いぐらいは構いませんよ」
ケイナに向いていた嬢ちゃんの目が、三度、俺に戻ってくる。なんだ?
「・・・ふむ・・・」
何か考え込んでいる嬢ちゃんの目が、前を向いたり俺に帰ってきたりを繰り返している。
おいおい。実験動物を見るような目は止めろ。
おかしなことを考えてんじゃねえだろうな?
それはそれとして、もう階段が終わるぞ?
前見ろ、前。
「・・・テツさん―――」
「やっと来た! 見て見て! 本当にバイコーンを飼ってるよ!」
何かを言い掛けた嬢ちゃんの声をレイクスの声が遮った。
声の出所へと目を向ければ、フィティオスとアルケマイオスにズボンの腰を掴まれた落ち着きのねえ130代が、興奮して囲いの中を見下ろしていた。
不穏だから嬢ちゃんの目がレイクスへ向いている内に逃げとこう。
通路状になった頂上から俺も階段の反対側を覗いてみる。
「どれどれ? ―――おお。マジで居るじゃん」
そこそこ高いな。地上から通路までは20メートル近く有るか。
テニスコート2面分は有りそうな谷底に、ネズミぐらいの大きさに見える鹿が群れをなしてやがる。
コレ、どのぐらい居るんだ?
100頭どころじゃねえな。
「・・・飼ってませんよ? 迷い込んできた個体を囲っておいたら勝手に増えただけです」
「そうなの?」
不本意そうに言う嬢ちゃんに向けて、レイクスが首を傾げた。
「・・・だって、エサも水も与えていませんし」
「ええ? エサも水も無しに増えるの?」
「・・・そうですよ?」
訊かれ慣れた質問なのか、嬢ちゃんは平然と答えた。
わけ分かんねえことを言ってやがるな。
この件に関してはレイクスに同意だ。
囲いの底を覗き込み直したレイクスが戸惑いを顕わにする。
「じゃあ、何で生きてるんだろう?」
「・・・分からないから、観察してみようと前々から話していたんですけど、ずっと忙しくて実行できていなかったんです」
平和そうだものなぁ。鹿は。
動物園で動物を眺めているような空気だ。
問題が起こっていねえなら後回しになるだろう。
嬢ちゃんが肩を竦めて返した。
「ふぅん・・・? 可能性が有るとすれば、魔素かなぁ」
「・・・魔素? 自然のですか?」
レイクスも暢気に鹿を見下ろして、首を傾げて見せる。
それでも、平穏に魔獣を飼っていられる状況は気になったようで、自分から協力を申し出た。
「ちょっと視てみようかな」
「・・・お願いします!」
レイクスの“目”を思い出したらしい嬢ちゃんが食い付いた。
意識を集中するようにしたレイクスの目が周囲を見渡す。
今、俺たちがいる場所は地上20メートルだから、周りを見回しても木々の天辺付近しか見えねえんだが、レイクスの目には違ったものが見えたらしい。
南の町㉕です。
ケイナには弱い!
次回、リポップ!?
※今日も遅刻です!
サーセン!




