南の町 ㉔
「それで金属製の縄か」
意図を理解したらしいロブウッドが唸る。
釣りかぁ・・・。
普通は虫をエサにして魚を釣るもんだが、別の動物をエサにして虫を釣るわけか。
俺も魚釣りやヨーヨー釣りの経験は有るが、虫を釣った経験はねえな。
嬢ちゃんがロブウッドに訊いたのは釣り糸に当たる金属ワイヤーの製作可否で、釣り糸だけで釣りは出来ねえよな?
「釣り針も必要なんじゃねえのか?」
「・・・必要だね。しょせんは水棲昆虫だし、地上へ釣り上げてしまえば安全性は高くなると思うんだけど、どう思う?」
嬢ちゃんは発想の是非を訊いてきた。
この嬢ちゃんは、こうやって思い付きを提案して意見を訊き、実行してきたわけか。
このチャレンジャー精神も大したもんだが、それに付き合ってきたフレイアさんたちも大したもんだな。
全てが手探りだから論理的に可能性が高いものをピックアップして実行してきたんだろうが、なかなか出来ることじゃねえぞ。
何かを行うには原資が必要になって、無駄を減らすには知識や経験が必要になる。
リソースってのは無限に有るわけじゃねえ。
リソースに余裕が有ったとしても、知恵を巡らせてシミュレーションすることで、原資を減らしてリターンを増やすことが出来る。
そういったシステムに俺たちも参加することになったのだから、知恵を貸すべきだな。
虫釣りのシチュエーションを思い浮かべて、状況と結果を推測する。
人間を食えるぐらいデケえ虫を、ワイヤーと釣り針で釣り上げる。
エサは動物か何かを使うことになるだろう。
人間と同等かそれ以上の体格を持つ虫でも、釣り針やワイヤーを食い千切られねえならパワーで勝負するだけで済む。
釣りってのは、陸なり船なり自分の体を濡らさずに済む場所へ、水中の生物を引っ張り出すための手段だ。
なぜ、そんなことをするのか?
それが自分たちにとって有利な場所だからだ。
嬢ちゃんが言うように、水棲生物は水中での活動に最適化した体を持っている。
空気中という適さない環境に引っ張り出してしまえば、どれだけ強かろうがデカかろうが十全な活動は出来なくなる。
だからこそ、安全に狩れる。方法論と道具さえ確立されていれば、俺たちじゃなくても狩れるだろう。
これは嬢ちゃんが目指している「産業化」には必須の条件だ。
「有りじゃね。釣りなら服を濡らさずに済むし、防具を外す必要もねえだろ」
「・・・魔法が使えない人でも捕まえられるんじゃないかな」
自分の考えに間違いがないか確認するように念押ししてくる嬢ちゃんに、しっかりと頷いて返す。
「だな。俺やこいつらみてえに魔法を使えないヤツは助かるぜ」
仲間を指した俺の返事に嬢ちゃんは安心したように表情を緩めたが、反対に不本意そうに表情を難しくするヤツらが居た。
ロブウッドが俺にジロッと視線を向けてきた。
「何を言っとる。魔法術式を使えずに鍛冶屋が出来るか」
「ケイナさんほどではないですが、私も使えます!」
ドワーフ父娘がそれぞれに主張して、嬢ちゃんも意外そうに目を丸くする。
「・・・おお。そうなの?」
「炉に火を入れる火術式だけじゃなく、土術式は金属や鉱石を扱うのに必須だし、水術式は刃の焼き入れに、風術式は炉の温度を維持するのに必須だからな」
なるほど? そりゃそうか。
「・・・言われてみれば、確かに必要そう」
ヒゲ親父の主張は尤もだな。
嬢ちゃんも納得して頷いているが、俺の指摘通り、イカウとミャウラとクァタルの3人は情けなく眉尻を下げている。
「私はあんまり・・・」
「アチシもあんまりニャ」
「オレもあんまり・・・」
獣人族は魔法が得意じゃねえってのは一般常識レベルらしいしな。
3人と同じように魔法が使えねえ俺に3人を責める意図はねえし、シンパシーも感じている。
ところが、嬢ちゃんはニンマリと目を細める。
「・・・獣人族は放出系が苦手みたいだけど、訓練すれば使えるよ?」
「訓練すれば使えるようになる・・・のですニャ?」
農村育ちのミャウラが使い慣れない敬語で訊けば、嬢ちゃんは力強く頷き返した。
「・・・なるよ。訓練してみる?」
「「「お願いします!」」」
獣人族組の3人が声を揃えて、即座に了承を返すのかと思えば、嬢ちゃんは俺に視線を向けてくる。
「・・・良いの?」
「俺は構わねえよ。嬢ちゃんが構わねえなら教えてやってくれ」
魔法って新たなカードが有れば、コイツらも生存率が上がるだろう。
意識したわけじゃなかったんだが、1段上に立った俺の言い草はヤブヘビだったようで、不満そうなケイナが俺にジト目を向けてくる。
南の町㉔です。
産業化の条件!
次回、圧力!?




