南の町 ㉓
「・・・成虫の体液から砂糖を作れることは確定したけど、ヤゴの体液からも作れるのかはまだ分からないし、そっちも確かめたいんだよね」
「何でまた、そんなことを調べたいんだ?」
何か考えてるんだろうが、この嬢ちゃんの場合、大きな方向性を示す思惑を訊いておかねえと、どこへ向かうか分かんねえ気がする。
そのときに被害がデケえのは前に出て動くヤツらだ。
ま。依頼を請けて代行する俺たち冒険者のことだな。
真面目な顔で嬢ちゃんが答える。
「・・・砂糖生産をウォーレス領で産業化したいからだよ。それに、蜻蛉って最も飛ぶのが上手い昆虫って言われてるんだけど、成虫を捕まえる自信ある?」
「あ~。それもそうだな。数を捕まえるのは難しそうだ」
飛んでるトンボを100匹捕まえてこいと言われたら、多分キツい。
だから嬢ちゃんは、もっと捕まえやすいヤゴのうちに捕まえられないかと考えたわけだ。
俺が納得した理由に思い当たらなかったらしいケイナが首を傾げる。
「どういうことですか?」
「・・・ヤゴって水中に棲んでるでしょ? 空を飛んでるのは捕まえられなくても、水中なら捕まえられると思わない?」
嬢ちゃんの解説にケイナも納得を見せた。
「そうですね。でも、水中へ捕まえに入るのですか?」
「・・・ヤゴでも雷撃は放ってくるし、水に入るのは拙いかなぁ」
思案顔で嬢ちゃんがケイナの疑問に答える。
水中で雷撃か。
そりゃあ避けようがねえな。
「水中」から連想したのかケイナが提案する。
「では、水術式でしょうか」
「・・・成虫は、かなり力が強かったよ。水魔法で捕まえられる?」
嬢ちゃんは反問するが、水中の敵に「水」だろ?
嬢ちゃんは否定的だが、何か出来そうでは有るな。
いやまあ、魔法が使えねえ俺に何が出来るってわけでもねえんだが。
そんなことよりも、この嬢ちゃんが「かなり」と表現するぐらいだから、相当なもんじゃねえの?
「ヤゴなんて普通は手掴みかタモ網で獲るもんだが、タモ網に入るサイズじゃねえよな?」
「たもあみ、とは?」
訊いた方が早えと嬢ちゃんに訊いてみれば、嬢ちゃんが答えるよりも早くケイナが首を傾げた。
「・・・取っ手が付いた小さい袋状の網だよ」
「そういう道具なのですね」
説明されたケイナがアッサリと引く。
見たことがない道具なんて口頭で説明されても分かんねえわな。
話を元に戻そう。
何だっけな? ああ、ヤゴだ。
この嬢ちゃんが「力が強え」というぐらいだし、普通に考えりゃガタイからデケえんだろう。
そんな「虫」がタモ網に入るとは思えねえな。
それに、ヤゴみてえな肉食系の虫は総じて顎が強えもんだ。
硬え甲殻で出来た顎で噛み付くのだから、指先なんかを噛まれればクッソ痛え。
特に噛む力が強えカミキリムシに噛まれたりすれば、電子工具のニッパーでプチッとヤラレるようなもんだしな。
トンボのツラを見れば分かるが、ヤゴも顎の力は強え方だろう。
タモ網で掬っても網を食い破られるんじゃねえの?
雷撃を食らった経験はねえが、何とかなるか?
だが、数を狩るには効率が悪すぎるな。
「俺は平気だろうが、手掴みも拙そうだろ」
「・・・だよね。魔力の手でなら手掴み出来るけど、普通は無理かなぁ」
懸念をぶつけてみれば、嬢ちゃんは思案顔で零す。
ほーん? 「普通は」ねぇ。
安全に数を狩る手段か・・・。
そこんところを、この嬢ちゃんが考えていないとは思えねえな。
この嬢ちゃんなら、手段がなければ訊いてくるだろう。
案の定、嬢ちゃんが動いた。
「・・・ロブウッドさん!」
「む? 儂か?」
グルンと顔を向けた嬢ちゃんのターゲットにされたヒゲ親父が、自分の娘よりも小さい小娘を相手に仰け反ってやがる。
「・・・金属製の縄を作れないかな」
「金属で縄だと?」
ロブウッドは怪訝な顔をしてやがるが、俺にはピンと来た。
「ああ。ワイヤーか。魚みてえに釣り上げようってんだな?」
浮力を利用して生きている水棲生物ってのは、水から揚げちまえば重力に勝てず動きが鈍るもんだ。
水から揚げる手段ってもんはタモ網に限らねえもんな。
問題はエサに食い付くかどうかなんだが、どうやら嬢ちゃんは勝算が有るみてえだ。
「・・・雷蜻蛉って顎の力が強いみたいでね。具体的には人間の胴をバリッと一噛みで食い千切っちゃうぐらい」
「「「「「ええ・・・」」」」」
俺以外の全員が嫌そうな顔で引いた。
顎の力が強えんじゃねえかって俺の予想は当たっていたようだが、予想を超えてきたな。
人間の胴を食い千切るってことは、それだけヤゴの体格がデケえってことになる。
恐らくは、人間と同等か、それ以上の体格だろう。
「マジかー。俺でも拙いかもな」
パワーで押し負ける気はねえが、顎の力は要注意だな。
判断材料が無さ過ぎるし、指先で摘まみ上げられる程度の小さな個体でも大人を飛び上がらせるほどの痛みを与えるのが虫ってもんだ。
噛む力がどの程度のもんか、1度試しておくか?
試せるのは俺ぐらいだろうしなぁ。
なんてことを考えていたら、嬢ちゃんにジロッと睨まれた。
「・・・試さないでね? ケイナちゃんからも言ってあげて」
「ダメですよ?」
「お、おう。分かった」
クッソ。お前、エスパーかよ。
ケイナにも念押しされちゃあ、大っぴらには試せねえな。
南の町㉓です。
ヤゴ釣り!?
次回、魔法!?
※ちょーっとバタバタしていまして、大遅刻です!
スマソ!




