南の町 ㉒
「お砂糖のところですか?」
「例のダンジョンだな。渡河地点ってことは大きな川の傍なのか?」
ケイナが期待している以上、行くのは確定なんだが、情報が足りねえ。
嬢ちゃんが詳しい情報を持っているのなら、ドネルクから仕事が回ってくる前に情報を仕入れておいても良いだろう。
カネの匂いがするダンジョンだからこそ、効率良く稼ぎてえしな。
俺たちの質問に嬢ちゃんが頷く。
「・・・うん。“獰猛くん”―――、ゴーレムで地面を踏み抜いちゃったんだけど、地下の洞窟だったよ」
「あ~。重たそうだったもんなぁ」
アレ、数百トンじゃ利かねえんじゃねえか?
恐らく4桁だろう石像でも、地面を踏み抜けるのかといえば疑問では有るんだが、地下空洞の深度にも地盤の構造にもよるだろうしな。
「・・・そうなんだよ。地下に何か有ることには気付いてたんだけど、まさか迷宮だとは思ってなくて」
大変な目にでも遭ったのか、嬢ちゃん溜息雑じりに言う。
この嬢ちゃんがカネの匂いに反応しねえとは思えねえし、そのことを踏まえても溜息が出るほど大変だったってことか。
「ほーん。それで、どんなダンジョンだったんだ?」
「・・・今、分かってるのは、出てくる魔獣が巨大トンボだということと、そこそこ水量が有りそうな川が流れてるってこと。あと、これは私の推測だけど、その川にはヤゴが棲んでるんじゃないかってことかな」
なんで地下にトンボが? って疑問は残るんだが、地下河川が有って、その川が隣接する川と繋がっているのなら、地下に迷い込んで運悪く地下で羽化しちまった、何てことも有るのかも知れねえな。
「地下に川か。デケえトンボが居るなら、ヤゴも居るんじゃねえかってことだよな?」
「・・・それも有るんだけど、どうやらナーガ川―――、隣国との国境になってる大河と、この採掘場の近くに流れている小川が地下で繋がっているっぽくってね。だったら、2つの川の間に有る迷宮とも繋がってるんじゃないかと推測してる」
ナーガ川ってのが国境線になるほどデケえ川だってのは、国境を見物しに行ったクァタルたちが言ってたな。
国境の町で、国防最前線だとは利いていたが、マジで町を出た目と鼻の先に有るらしい。
嬢ちゃんが言っているのは、国境線の大河と地下河川と地上の川が水源を同じくしていて繋がっている可能性だ。
レティアの町ってのは、ずいぶんと水が豊富な土地みてえだしな。
地面に穴を空ければ池が出来上がって、汲み上げなくても用水路に地下水が流れ出すってんだから相当な水量だぞ。
それほどあちこちに水脈が張り巡らされているところに水棲生物の魔獣が棲んでいる。
最悪のケースでは、あっちからもこっちからも魔獣が湧いて出ねえか?
想定される危険度を測っていると、ケイナが首を傾げた。
「やご、とは何ですか?」
「・・・蜻蛉の幼虫だよ。水中に棲んでいて、他の水棲昆虫や小魚を食べて育つの」
「ははぁ。なるほど。ナーガ川ですか」
ヤゴを知らなかったらしいケイナが、川の名前に納得顔を見せる。
「その川がどうかしたのか?」
「フィオレのいう“雷蜻蛉”とは、“ドラゴンフライ”のことですよね? 私たちも実物を見たことは有りませんが、かの魔獣はナーガ川が棲息地だと聞いています」
エルフ族も知識としては知っているってレベルか。
それよりも、だ。
「ドラゴンフライ? そのまんま英語名だな」
「・・・たぶん、そっち方面から召喚された勇者が過去にいたんじゃないかな」
嬢ちゃんはアッサリと肩を竦める。
なるほどなあ。北米大陸かオーストラリア大陸か、それとも本場の出身者か。
英語圏ってだけでも出身地は絞られるからな。
会話の中でも英単語がちょくちょく耳にするから、俺の見解としても嬢ちゃんの推測に同意する。
ただ、日本人の勇者以外の話を聞かねえんだよな。
さっさと死んじまったのか、それとも神教会支配地域から出て来なかったのか。
単語が残っているほどだから、それなりの影響尾力は有った人物じゃねえかと思うんだが、その人物の存在が聞こえて来ねえってのは気持ち悪い。
あー。そうそう。嬢ちゃんに確認しておかねえとな。
「迷宮とナーガ川が繋がっているって根拠は―――、もしかして、こっちの小川にもヤゴが居るのか?」
「・・・居るよ。こっちのは普通に小さいけど。ピリッと感電の痛みを感じたことも何度か有るし、同じ種類のヤゴなのは間違いないと思う」
ほーん。結構、自信が有りそうだな。
その小川にも居るなら獲りに行ってみるか。
小さくても感電したのが分かるぐれえの放電をするってのが気になる。
同じ種類とは限らねえが、トンボの情報はもう少し掘り下げておいた方が良さそうだ。
「ダンジョンに出るヤゴはデケえんだろ? そんなに大きさが変わるもんか?」
「・・・さあ? 迷宮ではヤゴの棲息を確認しに行けなかったから。ただ、ここは“魔の森”だし、何が起こってもおかしくは無いんじゃないかな」
思考放棄して放り投げるような言い方が、嬢ちゃんらしくねえ気がする。
「そういうもんか」
「・・・私も“魔の森”はそういうものだと聞いているだけで、実際のところがどうなのかは知らないよ」
うーむ・・・。思考放棄ではなく、分かんねえ、って意味か。
「そういうものですよ」
「お、おう。そうなんだな」
ケイナも同じようなことを言い出したな。
嬢ちゃんが小さく首を傾げて思案する。
南の町㉒です。
事前調査!
次回、作戦考察!?




