南の町 ⑳
「使えちゃ、おかしいのか?」
「おかしいんだよ!」
「・・・ええ・・・?」
この嬢ちゃんは言動に虚栄心や誇張が見られなくて、嘘を吐くタイプじゃねえからな。
何でまたそんなに否定的に言うのかと訊いてみれば、ホラー映画の悪霊憑きみたいにグルンと俺に顔を向けたレイクスから食い気味な答えが返ってきた。
ほら見ろ。嬢ちゃんも引いてるじゃねえか。
「よく考えてみてよ! 何のために魔法道具が存在すると思ってるのさ!」
ボルテージが上がったレイクスが熱く訴えてくる。
存在意義? ああ、なるほど?
理屈は分かんねえが、こいつは魔法道具の存在意義に危機感を覚えたわけか?
レイクスの姿に、悪ガキを引退した俺を追い掛けてうちの会社に就職してきた後輩のツラを思い出しちまった。
親父が在日駐留軍の兵士だったとかって無責任野郎の私生児で、どこからどう見ても有色系ハーフだった後輩は、ヒップホップだとかいう喧しい音楽好きで現場にまで古くさいラジカセを担いで行くくせに、実は重度の隠れアイドルオタクというややこしいヤツなんだよなぁ。
数十人もメンバーが居るアイドルグループの個人名なんて、子持ちの一般人が知るわけねえだろ?
そんで、センターだかレフトだかライトだかのポジションを務めているレギュラーメンバーの名前を間違えるとウゼ―――、ウルセエんだわ。
営業車のカーステレオにどこから取り出したのか私物のCDを突っ込んで、この声は何とかちゃんで何のドラマの主題歌で何だかんだと現場に着くまで延々とウンチクを垂れ始めやがる。
首を傾げて魔法道具オタクの言い分を吟味していたフィオレの嬢ちゃんが視線を戻す。
「・・・もしかして、魔石の魔力を使うためですか?」
「そうだよ! 体内に保有している魔素の量は、誰でも多いわけじゃないんだからね! 目の前に大量の魔素が有るなら利用できないかと考えるのが普通だよ!」
「お、おう。そうだろうな?」
早口言葉みてえな勢いでまくし立てられた。
その「大量の魔素」ってのは魔石のことだな?
体内の魔素が少ないヤツでも魔法の恩恵を受けられるようにと発達したのが魔法道具だと、レイクスは言いたいのか。
結構、失礼な態度を取られていると思うんだが、嬢ちゃんは怒るでもなく納得顔で頷いている。
「・・・そういうものだったんですね」
「魔石の魔素を、直接、術式に使えるのなら、魔法道具は発達しなかったよ!」
まだ止まらないレイクスの主張に、首を傾げた嬢ちゃんが疑問を呈した。
「・・・そうでしょうか?」
「えっ?」
否定されると思っていなかったらしいレイクスが動きを止める。
今度はピッと人差し指を立てて嬢ちゃんが諭しに掛かった。
「・・・必要な魔法の行使を魔法道具が代わってくれるなら、使用者は別の魔法を使えるんですよ。その事実は魔石の魔力を直接使えるようになっても変わりません。より便利になるだけで、魔法道具が必要性を失うことなんて有り得ませんよね?」
嬢ちゃんの指摘に目を丸くしたままフリーズしているレイクスの頭の中では、脳内会議で嬢ちゃんの主張が吟味されているみてえだな。
たっぷり10秒間ほども半口を開けて考えた末に、いきなり落ち着きを取り戻して大人の態度を取り繕う。
「ふむ・・・。そうだね。確かにその通りだ。取り乱してしまったね」
「・・・ああ、いいえ」
ぜんぜん取り繕えてねえからな?
動じない嬢ちゃんでも完全に引いちまってるじゃねえか。
そこからしばらく魔石談義が続いて、原始的な環濠集落みてえな丸太の城壁に囲まれた拠点に到着する。
馬列の接近に合わせて引き開けられた城門の隙間を馬列はノンストップで潜り、最後尾の荷馬車が入場すると城門が閉じられた。
「おはようございます!」
「おはよう!」
「・・・おはよう」
馬から下りた嬢ちゃんたちは、挨拶を交わしつつ兵士に手綱を手渡している。
俺たちも馬から下りると、兵士が手綱を受け取りに来た。
馬の扱いに慣れているらしい兵士たちに馬たちも大人しく付いていく。
こうして体の大きな馬たちが退いてみれば、城壁内の広さがよく分かる。
「ほう。意外に広いんだな」
「・・・鉱山では有るけど、一応、ここも軍事拠点だよ? 輜重部隊や出荷作業の荷馬車もそのまま城壁内へ入るし、それなりの人数が駐屯するからね」
それなり、ねぇ。
草野球場で言えば3つぐらいは城壁内に入るんじゃねえか?
正面に高さ20メートルは有りそうな崖が垂直に立っていて、崖に貼り付いた背の高い櫓が何棟もの建物よりも目を引く。
櫓の内側に何本ものロープが吊り下がってるな。
ありゃあ、木造の貨物用リフトか?
あんなもんを作らせるヤツと言えば、やっぱりフィオレの嬢ちゃんだろうな。
「本当に鉱山であり砦なんだねぇ」
お上りさん状態で場内を見回していたレイクスが感嘆の息を吐く。
そこへ元気な声を掛けたのはルナリアの嬢ちゃんだ。
「さあ、バイコーンを見に行くわよ!」
「良いね! 行こう行こう!」
パッと表情を明るくしたレイクスが、好奇心に目を輝かせてルナリアの嬢ちゃんに付いていった。
フィティオスとアルケマイオスも慌ててレイクスの後を追う。
アレもう、どっちが子供か分かんねえな。
南の町⑳です。
無邪気な138歳!?
次回、シカ!?
※今日は大遅刻です!
サーセン!




