南の町 ⑲
「へぇ~。立派な砦だね。あれだけの“魔の森”の木を伐るのは大変だったんじゃない?」
「・・・1000本以上は伐ったと思うけど、2週間ほどで終わりましたよ?」
「ええ・・・」
フィオレの嬢ちゃんに首を傾げられて、レイクスが半ば呆れ顔で驚く。
ダメ押しに嬢ちゃんは通り沿いに生えている木を指した。
「・・・伐った木は、この木ぐらいのものがほとんどでしたね」
「こんな大きさの木を1000本も・・・?」
呆れを通り越したレイクスが絶句する。
木を見上げつつ俺は口笛で賞賛を表してやる。
「この太さの木を人力で1日70本以上か? そりゃスゲえな」
そこそこデケえ木だぞ。
幹回りは俺とレイクスとケイナが手を繋いで、ようやく1周できるんじゃねえかってぐらいも有る。
「・・・最終的には20人以上で分担したから、1人あたりの伐った数はもっと少なかったよ?」
「“魔の森”の木々って、そんなに簡単に伐れるものじゃないと思うんだけど」
認識にズレが有るな。
賞賛を受け止めた嬢ちゃんは首を傾げるし、レイクスは半信半疑だ。
よく言われることなのか、レイクスの反応に気分を害した様子もなく嬢ちゃんが返す。
「・・・覚えてみます? まだまだ改良の余地は有ると思いますけど、甲冑も斬れますよ」
「覚えたいです!」
「私も!」
サッと手を挙げて即座に食い付いたのはフィティオスとアルケマイオスだ。
兄弟の反応に嬢ちゃんは微笑ましそうに目を細めた。
「・・・じゃあ、後でお手本を見せて教えますね」
どっちが大人か分かんねえな。
さらに驚かされたのは、嬢ちゃんが平然と手の内を晒そうとしたことだ。
レイクスは、といえば、図々しくも嬢ちゃんの少し上、頭上の虚空を指した。
「僕はそっちの方が気になるね」
「・・・魔力の手ですか? 教えるのは構わないんですけど手が足りないな」
子供が玩具の交換をしているようにしか見えねえ態度で嬢ちゃんは思案顔をする。
教える教えねえと交渉してるのは、馬鹿デケえ鹿の首をへし折る魔法だぞ?
それで良いのか?
日本だったらPTAが目を剥いて怒り出すようなやり取りに、ルナリアの嬢ちゃんまでもが平然と参入しに行く。
「風ジェットカッターは、わたしが教えるわ!」
「・・・任せて良いの? ありがと。助かるよ」
フィオレの嬢ちゃんがニコリと笑い返す。
感覚がバグって来るな。
小学校に入るか入らねえかの子供たちが簡単に人を殺せる手段を取引してんだぞ。
そこへ控え目に手を挙げてケイナも参加を表明する。
「私も教えていただいて良いですか?」
「・・・もちろん! 魔石使用法も教えるよ!」
遠慮がちに訊いたケイナを逃がすまい、とばかりに、パァッと表情を明るくしたフィオレの嬢ちゃんが食い気味に答えた。
嬢ちゃんが口にした言葉にレイクスがさらに食い付く。
「魔石の使い方? それってどんなの?」
「・・・魔石の魔力をそのまま術式の発動に使うんですよ」
「ええっ!?」
サラッと答えた嬢ちゃんにレイクスが目を剥いた。
レイクスの反応に再び嬢ちゃんの銀髪頭が傾ぐ。
「・・・昨日も森で、ずっと使ってましたけど、気付いてませんでした?」
「そんなことが出来るのですか?」
同じように目を丸くしているケイナは、なぜかレイクスに訊いた。
訊かれたレイクスは答えに詰まって眉尻を下げる。
「え~っと。う~ん?」
「・・・出来るよ? 体内保有魔力の残量を気にせず強力な魔法を使い続けられるから、ケイナちゃんたちも覚えておいた方が良いよ」
魔法が使えねえ俺にはよく分かんねえんだが、嬢ちゃんのアレは、レイクスたちの常識を逸脱したものらしい。
フィオレの嬢ちゃんがレイクスを助けに入ったが、レイクスはさらに困惑を深くする。
「まさか・・・。いや、でも、そんなことが? 信じ難い話だけど、本当に可能なら僕も教えて欲しい」
おっ。とうとうレイクスが興味に敗北しやがった。
半信半疑なレイクスの態度が不本意だったのか、嬢ちゃんが追撃を加えに行った。
「・・・本当ですよ。ちょっとコツは必要ですけど、ウォーレス領ではすでに20人以上が使えるようになっています」
「ええ・・・?」
レイクスの表情が「半信半疑」から「疑」に傾く。
嬢ちゃんが教えてくれるって言ってるのに、こいつは何が不満なんだ?
南の町⑲です。
魔法取引!?
次回、完敗!?




