南の町 ⑱
「・・・そうだよ。通信技術と輸送能力の向上は軍事面だけじゃなく産業の発達にも圧倒的な優位性を生むだろうしね。個々の人間を強くすることも同じ。だから私たちは、魔獣の血の恩恵を受けやすいウォーレス領の森に学校を作って、人を育てようとしてる」
自分が目指すものを示した嬢ちゃんがジッと俺を見る。
ふむ。通信と輸送だけじゃ足りねえってか?
確かにそうだな。
「お前はどうすんだ?」と俺に問うものでも有るわけだ。
冒険者不足で頭を悩ませているドネルクの手前、始めたことだが、実際、俺も冒険者を強くするために、手始めとしてクァタルたちに血を飲ませ始めたんだしな。
うちの連中の成長具合を見るに、効果は間違いなく有る。
これからも冒険者を育てるために獲物の血を飲ませる手法は続けるつもりだし、そうして行くには初心者向けの魔獣が出るのは南の森だ。
これが東部や北部の森だったら、初手から魔獣に食われて詰んでいただろうからな。
俺がそうだったように嬢ちゃんも幸運だったんだろうし、その幸運を理解した上で、嬢ちゃんは国全体を強くするのに育成システムをウォーレス領に置こうってわけだ。
目的に対する手段としても嬢ちゃんの考えは間違っちゃいねえし、俺も協力するのは吝かじゃねえ。
協力するに当たって、今、嬢ちゃんに必要なものは何だ?
魔法道具の供給が有って、人材育成システムはすでに自分で構築しに掛かっている。
情報が有れば、この嬢ちゃんなら自分の頭で考えて上手く活かすだろう。
だったら必要なのは情報面か。
「魔獣が強い東部や北部の森へ、いきなり入るのは確かに危険だな」
「・・・やっぱり東部や北部の魔獣って強いの?」
俺が提示した情報に嬢ちゃんはしっかりと食い付いた。
この方向性で合っていたようだな。
「強いらしいぞ。俺たちはまだ北上できていねえが、ケイナんちの爺さんから聞いた話じゃ、北部の森を通るときにゴッソリ殺られたらしい」
「ドレイクやワイバーンやグリフィンですね。その苦労話は何度も聞かされました」
「・・・うへぇ・・・」
俺が出した情報をケイナも追認する。
嫌そうな顔をしながらも思考は棄てちゃいねえな。
俺が得た情報は出してやるから活かし方は考えてくれ。
俺らは俺らで、その先へ進むために考えるべきことが有る。
「鋼毛熊も鎧イノシシも、そこまで強くはねえからなあ。そこから先はどの程度強えのか、まだ分かんねえな」
「・・・鎧イノシシって?」
「ベヒモスですよ。テツさんはギルドで見せて貰った地図に書いて有った名前で覚えてしまったみたいで」
首を傾げるフィオレの嬢ちゃんにケイナが解説すると、嬢ちゃんが目を剥いて食い付く。
「・・・それって、昔の勇者さんが描き残したって地図!?」
「ええ。勇者クツキの直筆だそうです。私には何と書いて有るのか読めませんでしたが」
「・・・それ、私もドネルクさんに見せて貰おうと思ってた地図だよ。へぇー。ベヒモスってイノシシなんだ?」
現地語名と日本語名の違いに嬢ちゃんが感心する。
ほらな? 俺はテメエが覚えやすい名前で覚えているだけで、俺と同じ日本人なら横書きの名前で示されるよりも、漢字で示された方が直感的に理解できるんだって。
ケイナは日本語が分かんねえから良い顔はしねえが、日本語で覚えた方が理に適ってるんだよ。
漢字は1字1字に意味が有って一目で意味が分かるからな。
漢字を知っていりゃあ平仮名で書いても頭の中で漢字に変換されて理解できるのが日本語ってもんだ。
よく分かんねえ名前で書き残すよりも、漢字で書き残した方がどんな魔獣か説明不要で理解できると昔の勇者も考えたんだろうよ。
そんな感じで俺たちが知る情報を提示すると、知識としてだけは学んでいたらしい嬢ちゃんは、机上の知識と新たな情報を統合して理解を深めていく。
南の森に出る魔獣については嬢ちゃんの方が生態や対処法なんかの詳しい情報を持っていて、俺たちも知識を深められた。
事前情報が有ると無いとじゃ大きく違うからな。
微妙に知識が先行していて常識とのズレが有るらしいフィオレの嬢ちゃんの見解に、ルナリアの嬢ちゃんが常識人代表として修正を入れてくる。
少々特殊らしいフィオレの嬢ちゃんを理解する意味でも、なかなかに有意義な情報交換だった。
馬に揺られながら1時間ぐらい話していると、嬢ちゃんたちが前方を指した。
「・・・あ。ほら、見えてきたよ」
「あれが?」
「採掘場よ!」
ほーん? 1つ1つのパーツがデカ過ぎて規模感がバグってるが、縦に並べて丸太を組み合わせた防壁は、いかにも砦って感じだな。
一直線の道路を通せんぼするように建っている人工物は、ここがゴールだと示しているようだった。
「・・・人を強く育てるための拠点で有り、内戦で王国が割れるのを防いだお肉と塩の出所。ウォーレス領の軍事力と経済力と政治力の源泉の1つだね」
「この国にとっても最重要拠点の1つってことだな」
いきなり国家機密に連れてこられることには身構えちまうが、ここだけじゃねえんだもんなぁ。
このウォーレス領には他にも最新のダンジョンが有って、そっちにも俺たちは行くことになるんだろう。
さらには戦略拠点になる学校も新しく建てようってんだから恐れ入る。
近付いてくるクッソ高え防壁を見上げながら、レイクスが感心の声を上げた。
南の町⑱です。
国家機密!?
次回、風魔法!?
※今日もちょっとだけ遅刻です!




