転生者 ⑱
「気付いているとは思うが、俺とレイクスは協力関係でな」
「・・・ヒト族として森の外へ安全に出られるテツさんが、ヒト族から狙われているエルフ族の代理人として活動していることだよね?」
真面目に話せば、俺の表情から真面目度を察したらしい嬢ちゃんが真面目に返してくる。
それが出来るなら脱線させんな、と思わなくもねえが、女と話せば話題が取っ散らかって脱線しまくるのは思考回路というか本能的なものだろうから、いちいちツッコまねえ。
「そういうこった。そして、レイクスが俺の代わりに魔法道具を開発してくれている」
「互いに補い合っているわけか」
「・・・日本へ帰るための手段と、安定して暮らせる居場所を、テツさんとレイクスさんで用意し合ってるんだね」
関係性を理解した前伯爵と嬢ちゃんがそれぞれに反芻する。
前伯爵は兎も角、嬢ちゃんは食い付くだろうと、もう一歩踏み込んでレイクスと俺が結んだ取引内容を明かす。
「俺がレイクスに依頼したのは携帯電話と自動車の制作だ」
「・・・おお! ケータイとクルマ!」
予想通りに嬢ちゃんが釣れた。前伯爵も予想通りに首を傾げる。
「“けーたい”・・・?」
「何だ? それは」
レイクスが一緒になって首を傾げてることにはツッコミを入れたくなったが、嬢ちゃんがフォーローしに入ってくれた。
「・・・遠くの人と話せる通信手段と大量に早く遠くまで運べる運搬手段だよ」
レイクスは呼び方のバリエーションの問題で、前伯爵はその存在を知っているかどうかの問題だな。
日本語ってのは同じものを指すにも単語にバリエーションが有って、外国人が困惑するのはこの部分によるところが大きい。
知識的なものは単なるカルチャーギャップだ。
「遠くとは、どのぐらいの距離だ?」
前伯爵が返してきた問いは重要視する部分についてのみで、名より実を取る前伯爵の現実的な性質を明確に示している。
こういう相手はそのときの気分に左右されねえから付き合いやすいんだ。
俺も本音をぶつけられる。
「・・・少なくとも数十から数百キロメテル、かな? 耐久力や燃費や整備性によっては数千、もしかすると数万キロメテル―――、で良いんですよね?」
目を向けて確認してきた嬢ちゃんに頷き返して肯定する。
レイクスよりも母親の優先度が高いらしい嬢ちゃんに置いて行かれたレイクスが、俺に顔を向け直してくる。
「あ~。その前に、“けーたい”って何?」
「無線とか電話とかって説明をしただろ。無線や電話の一種が携帯電話だ」
「ふぅん? そうなんだね」
説明しなかったっけか?
まあ、呼び名のバリエーションなんて大した問題じゃねえから、どうでも良いんだけどよ。
「・・・要するに、無線の電話です」
「相の子かな? まあ、目指すところは、そうだね。クルマについては使う術式の構想を練っている段階だよ」
嬢ちゃんからも補足説明が入って、納得したレイクスの思考が次へと移る。
営業職タイプがファジーに流しちまう部分にも引っ掛かりを覚えるのは、技術者タイプらしいレイクスの癖だな。
嬢ちゃんとレイクスの説明に前伯爵が思案顔になる。
「ふむ・・・」
「・・・どっちの魔法道具も、実現すれば戦場の在り方が変わるよ」
娘からの売り込みに前伯爵がジロリと俺を見た。
「私たちも一枚噛ませろ。私たちが提供するものは安全と資金だ」
「有り難いんだが、そりゃあダメだ」
ストレートすぎて笑っちまう。
理解できる相手だと思うからこそ、こっちもストレートに返した。
言下に拒否された前伯爵がピクリと眉根を寄せる。
「何?」
「・・・まあまあ。お母様。―――テツさん。ダメな理由を聞いても?」
母親が気分を害したと感じたらしい嬢ちゃんが取りなしに割り込んできたが、心配ねえと思うぞ?
短気な性格でも有るみてえだが、現実的なこの女なら間違いなく理解する。
「ビジネスライクな―――、浅い取引関係は損得勘定で簡単に切り棄てられる」
「・・・ふむ?」
俺が拒否した理由を明かせば、催促するように嬢ちゃんが首を傾げた。
分かったよ。説明が足りねえってんだな。
俺は「入って来んな」とウォーレス家の参入を拒否したわけじゃねえぞ。
「その立ち位置じゃダメだ」と拒否したんだ。
真っ直ぐに前伯爵の目を見据えて、掛け値無しに俺の本心を告げる。
「取引ではなく、良き隣人、良き友人で在ってやってくれ」
「む・・・」
意外な要求を突き付けられたように、面食らった前伯爵が言葉を失った。
コイツは重要な問題だぞ?
俺が要求したのは、人と人との心情の問題だ。
「同じ人間だ」と信じていたヒト族に裏切られたエルフ族の心を解きほぐすためには、絶対条件になる。
そうでもなけりゃ、郷の大人たちの一部を森の奥へ残して来なきゃならなくなるだろう。
そいつは許容できねえ。
俺はエルフ族の生き残りをただの1人も置き去りにするつもりはねえんだ。
確かに頑固で融通が利かねえところも有るけどよ。
誇り高く、苦難に屈せず、辛酸を舐めてでも、血を絶やさないために同胞を生かし続けてきた連中なんだ。
ケイナを追放しようとしたことだって、同胞を生かすための苦渋の選択だったんだろう。
現に、俺という人間がエルフ族の敵じゃねえと理解してからは、俺が郷へ戻ることには嫌な顔をしてもケイナの里帰りだけは受け入れている。
アイツらもまた、家族や仲間を守りたかっただけなんだ。
そんなヤツらを置き去りになんて出来ねえよ。
こいつは譲れねえ一線だ。
転生者⑱です。
譲れない一線!
次回、友の血族!?
※ 今日もちょっと遅刻です!




