転生者 ⑲
「・・・テツさんの言いたいことは分かったよ」
「分かるのか?」
理解を示した嬢ちゃんに視線を移して前伯爵が問い掛ける。
嬢ちゃんは元日本人らしいから、情緒的にも俺の感性に近いのかもな。
同じ人間として普遍的な感情だとは思うんだが、異世界人の前伯爵に上手く伝えるにはどうすりゃ良いものかと悩み掛けると、母親の性格を知る嬢ちゃんが翻訳してくれた。
「・・・親友や家族を切り棄てられる?」
「なるほど。そういうことか」
娘の問いに、前伯爵が納得顔で頷いた。
俺での試し斬りを企んでいる危ねえ女でも身内への情は厚いらしい。
「・・・親友や家族になれそうかどうか、自分たちの目で確かめれば良いよ」
「エレえ自信だな?」
俺に目を向け直してきた嬢ちゃんは自信満々で言い返して来やがった。
「・・・そりゃあ、もちろん。初代レティア様の頃からウォーレス血統の人々は、そうやって王国と王国民を守ってきたんだから」
「ふむ・・・」
数十世代にもわたって先祖の思いを受け継いできた友の血統か・・・。
悪くねえな。
こういう連中なら俺のダチや“娘”を預けても良いだろう。
それは良いんだが―――。
「・・・何?」
つい、嬢ちゃんの顔を見つめちまって、嬢ちゃんが俺の視線に気付いた。
余計なお世話かと思う部分は有っても、そのままにして良いのかって思いが拭えねえ。
とはいえ、母親の目の前で訊くのもなぁ・・・。
「いいや。この場で訊いて良いのか迷っただけだ」
「・・・訊く? 私に?」
首を振って返せば、嬢ちゃんが首を傾げる。
「フィオレに訊きたいことが有るなら、私に構わず訊けば良い。何か本音を隠している相手とは付き合いにくいことは誰でも同じではないか?」
そりゃまあ、直球勝負で来るこの女の性質じゃあ隠し事をされるのは嫌うだろうな。
変に隠し立てしても信用を失うだけか。
「そりゃそうだな。じゃあ訊かせて貰うとするか」
「・・・な、何?」
真っ直ぐに目を向けると、ただならぬ気配を感じ取ったのか嬢ちゃんが動揺を見せた。
「俺は必ず日本へ帰ると決めているわけだが、それが実現するとして、嬢ちゃんは日本へ帰りたいと思うか?」
予想外のことを言われたように銀髪の嬢ちゃんが目を丸くする。
俺の言葉の意味を理解した前伯爵が目を怖くして、金髪の嬢ちゃんが椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった。
「ちょっと!!」
「・・・まあまあまあ。ルナリア。お母様も落ち着いて」
銀髪の嬢ちゃんが慌てて両隣を宥めに掛かる。
嬢ちゃんは正しく俺の意図を理解した様子だな。
「・・・テツさんは私が元日本人だと知って、娘さんを残してきたテツさんと同じように、私にも向こうに残してきた人たちが居るんじゃないかと心配したんだよ。私の意思を確認しただけで、無理にどうこうしようってわけじゃないと思うよ。―――けどね、テツさん。私を気遣ってくれたことは分かるし、その気持ちは有り難いけど、私は帰らないよ。私の“家族”はここにしか居ないから、私はどこにも行かない」
俺に真っ直ぐな目を向け返してきた嬢ちゃんが、迷いのない声でキッパリと言い切った。
「フィオレ!」
パァッと表情を輝かせた金髪の嬢ちゃんが銀髪の嬢ちゃんに抱き付き、銀髪の嬢ちゃんはヨシヨシと金髪頭を撫でている。
前伯爵もホッとした感じに表情を緩めた。
良い覚悟だ。
本当に仲の良い“家族”なんだな。
これが”転生者の覚悟”ってものなんだろう。
「そっか。余計なことを訊いちまったな」
「・・・良いよ。ありがとう」
俺の差し出口に嬢ちゃんはニコリと笑って首を振った。
それでも、腰を上げてテーブルの向かい側に向けて深く腰を折る。
「フレイアさんもルナリアの嬢ちゃんも済まねえ。無神経なことを言っちまって悪かった」
「ああ~。もう良い、もう良い」
一瞬目を見開いた前伯爵がフッと表情を緩めてパタパタと手を振る。
「仕方ないわね! フィオレを連れて行かないなら良いわよ!」
ストンと腰を下ろした金髪の嬢ちゃんも椅子の上で胸を張った。
俺も義理を通してスッキリしたぜ。
これで丸く収まったかと気を抜きかけたところへ、今度は嬢ちゃんが真剣な目を向けてきた。
「・・・でも、テツさんはテツさんのすべきことに集中すべきじゃないかな」
「そうだな」
何かと思えば、痛いところを突いて来やがったな。
そいつを言われると返す言葉がねえんだが、事実は事実だ。
脱力して背もたれに体を預ければ、一転して嬢ちゃんは心配するような目を俺に向けてくる。
「・・・ね。テツさんの娘さんって、何て名前?」
「陽菜だ。見た目の歳はケイナと同じぐらいだな」
「見た目の・・・」
俺の答えに、実年齢57―――、いや。58才のケイナが複雑そうな表情で呟いた。
転生者⑲です。
58才!
次回、家庭事情!?
※ 今日もちょっと遅刻です!




