文明回帰への一歩 ⑬
「オルああああああっ!!」
押してくる勢いを活かして、さらに、俺の体重も乗せての海老反り。
両前脚をキメて受け身が取れない、フロントスープレックスだ。
汚れてゴワゴワした毛皮に顔を埋めている状態だから、猛烈に獣臭い。
「ギャン!!」
俺の背後の地面に、つんのめった格好で犬っコロの鼻先が叩きつけられ、前転で一回転して仰向けになった顎下に、俺の後頭部が追い打ちの頭突きを食らわせる。
偶然とはいえ、一撃入れられてラッキーだ。
だが、俺も脳天への衝撃で頭がクラッと来て、キメていた腕が緩んでしまった。
大慌てで抱き付き直したのは胸の下の辺りだろうか。
ヤバそうな気配に頭を寝かせて避けると、耳元でガチンと音がする。
同時に耳元から首筋に熱を感じた。
「うおっ!? アッチ!!」
ブワッと横っ面を撫でたのは炎だ。
鋭い犬歯が並んだ顎の隙間からライターの火力を全開にしたよりもデカい火が漏れている。
何だコイツ!? 火を吐くのかよ!!
前脚が自由にならないように、両脇の下に腕を回して胸に密着する。
俺の腕が挟まって上腕が下がらなければ前足での引っ掻きは出来ねえだろ!
自分の胸に噛み付くことも出来ず、俺の頭の後ろでガチンガチンと顎が噛み合わされる音が聞こえて、その度に炎が上がって背中に熱を感じる。
「クッソ! この! 暴れんな!!」
毛を引っ張られて犬っコロの痛そうな唸り声が上がるが、俺も離されたら不味いと必死なんだよ。
身を捩って逃れようとする毛皮を引っ摑んで全力でしがみつく。
凶悪な犬パンチや噛み付き攻撃を、いつまでも躱せるとは楽観視していない。
犬っコロの攻撃が届き腹の下腹の下から引き剥がされると、一気に不利になるのは目に見えている。
左腕で頸と思われる辺りへと腕を伸ばし、抱き込んで全体重を掛けて地面へと抑え込んだ。
何か武器になるものは無いかと、右手で地面を探る。
燃えカスの木切れでも、目ン玉にでも首筋にでも、突き刺して掻き回せばダメージを与えられるはずだ。
「うおおおおおおおっ!!」
目隠しされたような暗闇の中で、指先が固いものに触れた。
それなりの重量がある、それを夢中で引っ摑んで振り上げる。
頭であろう辺りへと、全力で叩きつける。
ゴツッ! と、鈍い音。
「ギャッ!!」という悲鳴が手元から上がる。
何度も、何度も、叩きつけていると、バキッ! という何かが砕けた音と共に、掌の中の重みが半分ぐらいになったが、構わず、振り下ろし続ける。
攻撃が効いてるのなら、手を緩めてはいけない。
掴んだ勝利の取っ掛かりは、絶対に手放さねえ。
どのぐらい殴り続けていたのか、気がつくと、殴る音が、べしゃっ! ぐちゃっ! という湿り気を帯びたものになっていた。
犬っコロが抵抗する様子もなく、獣の息遣いも聞こえない。
聞こえるのは、ぜー、ぜー、という俺自身の荒い息だけだ。
「・・・・・し、死んだか?」
これで殺せていなければ、立場が逆転することも有り得る。
恐る恐る、抱え込んでいた左腕を緩めてみる。
「・・・・・・・・・動かねえ、な?」
大丈夫かな? と、ドキドキしながら犬っコロから離れて、ポケットを探って使い捨てライターを取り出す。
ライターの心許ない火の明かりで燃えカスの木切れを集め、広葉樹の枯れ葉に着火して、焚き火を復活させた。
「あらら・・・」
俺が鈍器に使ったのは、お土産に、と取っておいたドラゴン石だったらしい。
血塗れで、縦に真っ二つに割れた石が、深い蒼色の綺麗な破断面を見せている。
改めて、横たわったまま微動だにしない巨体へと視線を巡らせる。
胡座の両膝に肘をつき、組んだ両手に顎を乗せて、「勝ったな」と呟く。
後ろに立った白髪のオッサンが「ああ」と、応じれば完璧だったろうか。
あれ? セリフが逆だったっけな?
動画でチラッと見ただけだから、よく知らんわ。
「はあー、疲れた」
そのまま仰向けに倒れ込んで、大の字になって目を閉じる。
まだ、息が荒い。
極度の集中状態から解放されて、頭がぐるぐると回っている。
勝てる、とは思っていたが、多少なりとも舐めていたことは確かだ。
実際、思っていた以上に苦戦したのだから、反省しないといけない。
ヒナの元へ帰る前に、くたばって堪るかよ。
文明回帰⑬です。
KO勝利!
次回、犬爆弾!?




