文明回帰への一歩 ⑫
焚き火を軽く避けて回り込みつつ、すん、すん、と嗅いだ俺の蛇肉ローストを、パクリと食いやがった。
この犬っコロぉ・・・。大事な俺の肉を。
ピキッと、こめかみが引き攣るのを感じる。
「アッタマ、来たぞ!」
テメエ! その蛇肉は、俺の生命線なんだぞ!
働かざる者食うべからずだ!
「うルルルぁあああああっ!!」
巻き舌の怒号と共に思い切り飛び込んで間合いを詰め、右打ちの全力フルスイング。
射程は2メートルちょい。
狙いは外角低めの横っ面。
ゴォッ、という、風切り音を立てて迫った翼骨を、ヒョイっと首を上げて躱そうとしたのだろうが、バチッと喉元を掠めて、いくらかの毛が散った。
「うおっと!?」
エサ認定していただろう俺からの攻撃に、怯んだのも一瞬。
鋭い鉤爪が鈍く光る。
前進しつつ右の犬パンチが振るわれて、骨を振り抜いた体勢だった俺は危ういタイミングで跳び下がった。
翼骨を振り回す俺と、リーチがほとんど変わらねえ。
犬っコロは、そのまま前進。
「速っ!?」
想定よりも速い動きで、間合いを詰められた。
大きく顎を開いて噛み掛かってくる口を、横向きに掲げた骨を突っ込んで防ぐ。
ガリガリと骨を噛み砕こうとするが、トカゲ族の骨は俺が思っていたよりも硬かったらしい。
突進の勢いを受け止めて、俺の両脚が地面に2本の軌跡を抉る。
のし掛かるような体勢で押し込んで来やがる。
「おっ!! おおおっ!? 危ね!!」
俺の腹を狙って左右から犬パンチが振るわれ、目一杯に両腕を突っ張って、腰を引いて腹を引っ込めることで、ギリギリ、爪の先を避ける。
このままじゃあ、ジリ貧だ。
再び、右の犬パンチが振るわれ、胸元を通り過ぎた犬足を、左脚で蹴り上げた。
右肩が入り込みすぎた格好で、犬っコロの体勢が僅かに崩れたので、左腕の力を抜きつつ右腕を押し上げて、犬っコロを横転させようと試みる。
左前脚を踏ん張って犬っコロも耐えるが、右頬が丸見えだ。
「ギャウン!?」」
悲鳴が上がって圧力が下がる。
横っ面に右拳を叩き込もうと思ったら、伏せて避けようとしたのか、頬ではなく、右耳の後ろ辺りに拳が突き刺さっていた。
「逃がすか!!」
跳び下がって逃げようとしやがるが、離されると振り出しに戻って俺が不利になる。
右手で毛皮を引っ摑んで、左拳も叩き込みつつ突進し、顎の下へと潜り込んで犬っコロの胸元に組み付く。
犬パンチも脅威なので、両腕で両前脚の付け根付近を外側から抱え込んで締め上げた。
相撲技で言うところの、“閂”ってヤツだ。
胸を合わせての、膂力勝負。
「これなら、噛み付けねえだろ!!」
がハァッ、がハァッ、と、犬っコロの激しい息遣いは俺の頭上にある。
がっぷり四つに組んでの押し合いだが、体格の差で俺の方が、かなり分が悪い。
右へ、左へ、と、犬っコロの巨体をいなしつつ、どうしたものかと考える。
蛇肉の不思議ちゃんパワーで何とか耐えてはいるが、俺も限界が近い。
「ヤベっ!!」
押し合いへし合いしているうちに踏ん張る脚で焚き火を蹴ってしまい、視界が夜の闇に包まれた。
焚き火の明かりに慣れていた目が、暗闇についていけない!!
「ぐおおおおおお!!!」
一歩、一歩、と、後ろ足が踏み寄り、のし掛かる圧力が増してくる。
こうなりゃイチかバチかだ。
文明回帰⑫です。
土俵際の勝負!?
次回、勝負あり!?




