文明回帰への一歩 ⑪
一通り、骨格観察は堪能したので、日が落ちきる前に焚き火を熾し、蛇肉を炙る。
体が慣れてきたのか、蛇肉を食ってのポカポカが、少し弱まってきた気がする。
蛇肉の不思議ちゃんパワーの度合いを、このポカポカ具合が示すのだとしたら、宜しく無い傾向かもしれない。
コンピューターゲームのプレイヤーキャラクターの育成でも、初期の弱い獲物を狩り続けていれば、そのうち成長は伸びなくなってくる。
同じ現象が触角ヘビと俺の間でも起こっている可能性が有るな。
だとしたら、早急に新たな獲物と、新たな狩り場を見つける必要が出てくる。
焚き火の炭に落ちた蛇の脂が、ジュ、と、小さく煙を上げる。
爬虫類でも脂は有るんだな。
獣脂が焦げる、良い匂いを漂わせている。
「―――、!!」
来たか?
危険物センサーが反応した。
来るんじゃないかな、と、思っていた。
かぶりつこうとしていた蛇肉ローストの枝を、音を立てないように地面に刺し直し、背後の樹に立て掛けてあった翼骨へと手を伸ばす。
胡座で座り込んだままだが、両脚へと力を込め、不意打ちにも反応できるように尻を浮かせる。
この脅威度は、慣れ親しんだ触角ヘビでは無いだろう。
首の後ろから背中にかけて、ピリピリと神経を逆撫でするような危険反応を感じるが、黒トカゲの圧倒的迫力に較べれば、どうということはない。
だいぶ、トカゲに毒されてるなあ、俺。
危険物が接近してきているのに、苦笑が出る。
脅威度の基準が馬鹿デッカいドラゴンだから、ビビる気持ちは、これっぽちも無い。
さあ、どこから来る?
野生動物は火や明かりを恐れる、なんて聞くけど、嘘だ。
俺の経験上、煌々と明かりが点いた山の中の土木現場でも、狸やキツネ、ツキノワグマまで出没した。
食い物の誘惑は、明かりへの恐れよりも強いのだ。
「―――、!?」
後ろか!!
翼骨を掴んで焚き火を跳び越え、背後へと身構える。
かさり、かさり、と、枯れ葉を踏んで、俺が背にしていた大木の幹の後ろの暗闇から、焚き火の薄明かりに照らされて、赤っぽい光が二つ滲み出してきた。
これは多分、獣の眼の底を照らした眼底反射光だ。
「おいおい。思ってたよかデケエな・・・」
確実に、牛よかデケエ。
頭を低く身構えた状態ですら、肩の高さが俺の背丈と同じぐらい有る。
ベンガルトラなんかだと、成獣だと全長2.5メートルぐらいあるんだっけ?
コイツ、明らかに、それどころじゃあねえ。
何たら姫とかいうアニメ映画のボス犬みたいなサイズ感だ。
効く、か、どうかは分からないが、翼骨を振り回すには樹の近くは不利だろう。
下段に得物を構えたまま目を離さずに、じりじりと後退する。
あの断崖を、どうやって越えてきたのか、非常に興味はあるが、某ムツ〇ロウさんじゃあねえんだから、俺にはケダモノとコミュニケーションを取る手段は無い。
薄い灰色がかった白い毛並みは、昼間に見たヤツだと思う。
立派な体躯に美しい毛並みは、神々しさすら感じさせる。
グルルル、と、鼻筋に皺を寄せて喉を鳴らすオオカミは、俺の後退速度よりも速い程度の歩速で、闇の中から全身を現した。
ほらな。焚き火なんて恐れやしねえんだ。
文明回帰⑪です。
オオカミ!?
次回、死闘!




